母の提案
母は尚も話を続けた。
俺は母がこんなに勉強しているとは思わなかったから驚いた。
「虐待を受けた子で精神科を受診している場合だけどね。」
「うん。」
「二つのパターンがあるらしいのよね。」
「二つのパターン?」
「ええ、そうよ。二つあるらしいの。
一つは自分を消すことを考える。」
「消すって!」
「自分を消すために命を絶つ。」
「そんな………!」
「もう一つは……限界まで我慢する。」
「限界まで………。」
「自分さえ我慢したら家族は平和だから……我慢を続けるの。」
「そんな!」
「自分を消すことを考える子は、リストカットを繰り返し……。
自分さえ我慢したらと考える子は、鬱病を発症して……。
どちらの場合も精神科を受診するようになるらしいのね。
それ以外の子も多いのだろうけれども、教えて貰ってないから分からないわ。
精神科受診しせずに済んだ子なのかしら?」
「あの子は……どうなんだろう……。」
「今、聞いた話だけだと……
自分さえ我慢したら……って思っているかもしれないわね。」
「自分さえ我慢………それで見合いした?」
「断ることは考えられないのかもしれないわね。」
「俺に何か出来ないだろうか?」
「出来ないわね。」
「何も?」
「出来るとしたら、一度精神科を受診するように促すことかしら?」
「受診……。」
「受診したらお医者さんから『それは虐待です。』と言って貰えるからね。
先ずは自分を知ることからかしらね。
眠れてるのかしら?
お薬が要る状態だったら処方して貰えて飲むだけで違うかもしれないわ。」
「……俺に出来るかな?」
「あんた一人じゃないでしょ。」
「……他に誰が?」
「私を忘れないでね。」
「母さん!」
「連れて来なさい。これでも母親なんだから……。
他の子たちも一緒にね。」
「ここに?」
「そうよ。うちで飲み会しましょう。」
「ええ―――っ! 店でぇ!」
「お馬鹿っ。この店の上の店よ。」
「あぁ、居酒屋……。」
「あそこだったら個室あるからね。予約しておくわ。」
「母さんと一緒の飲み会なんて……やだな……。」
「楽しみだわぁ~。若い子達と飲めるなんて……。」
「やっぱ……やだ。」
「あんたはどうでもいいのよ。まぁちゃんのため!」
「……そうだよな。まぁちゃんのため……の飲み会なんだ。」
凄く嬉しそうな母を目にして少し……否、凄く不安になったのだ。