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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
ラミアとオリジン
9/82

 ―――春。澄んだ空気と青い空に、暖かな陽気。そして、皴のない新しい制服に、新しい鞄。


「新しいあっさが来たー希望のーフーフーフン」


 カーテンを開けながら、つい下手な鼻歌がこぼれるのもしょうがない。

 半分ゾンビみたいになりつつも、冬の受験戦争になんとか勝利した俺、日野 秋人は今日ついに高校生となるのだ!!


「ごめんね秋人、お母さん入学式出れなくて。代わりに陸ママに写真お願いしといたから。」


「そんなのいーよ別に。ほら、早く行きなよ。仕事遅れるよ。」


「お世話になる寮の管理人さんに、ちゃんと挨拶してお菓子渡してね。あと、お友達には優しく!ラミアの子とも仲よくするのよ。」


「わーかってるって!小学生じゃないんだから!」


「可愛いラミアの子にお願いされたからって、簡単に献血しちゃだめよ。まずはお互いをよく知ってから……」


「俺は吸血されないから、だから早く行ってくれー!」


 出勤時間ギリギリまで玄関で粘る母をどうにか見送ったころには、今度は陸との待ち合わせの時間が迫っていた。

 高校生活初日から、なんて余裕のない朝なんだろうか。

 俺の家は学校との距離が遠いため、今日の夕方から学校の寮に入るのだが、どうせなら前もって入寮させてくれればよかったのにと思ってしまう。


(片付けとかもあるし、面倒だ。……でも、実は寮生活してみたかったんだよなぁー。毎日友達と一緒って、絶対楽しそうじゃん。)


 ちなみに、母は「1人息子と離れるなんて寂しいー」なんて言いつつも、もうすぐ単身赴任から帰ってくる父との水入らずな生活が楽しみでたまらないようだ。

 毎日のように下手な鼻歌を歌っているのを見て、俺は遺伝子の恐ろしさと、ビブラートをかけるのは辞めた方がいいということを学んだ。


「……って、そんなこと考えてる場合じゃない!」


 大急ぎで朝食をかきこみ、洗面台で身支度をすませる。ネクタイの結び方、昨日のうちに練習しといて本当によかった。ぎこいない手つきでなんとか結んだら、最後に鏡で全身を確認して終わりだけどーーーなんか、完全に制服に着られてる気がする。皆こんなもんか?

 自分に向かって傾げた俺の首にはもう、傷一つない。



◆◆◆



 待ち合わせ場所にはすでに、幼馴染が待っていた。


「ごめん陸、待たせた!」


「あははは、秋人新しい制服変なの!見慣れねえー。」


「んだと!?それはこっちのセリフだ!」


 つい言い返しはしたけど、陸は背が高いから何を着ても似合ってしまうところが腹立たしい。

 それに、スプリングマジックだろうか、爽やかさが増しているような……その証拠に、さっきから道や電車で会う女の人が、チラチラと目線を飛ばしてくる。


「……お前、もし可愛いラミアの子にお願いされても、簡単に献血しちゃだめだぞ。」


「どうした急に。まぁ、すげえ美少女だったらむしろ喜んで差し出すけど。」


「そのまま飲み干されてしまえ。」


「ひどっ!…アキト君こそ、ついにラミアと関わる日が来ましたけど、いまのお気持ちをどうぞ。」


「あのな、俺はラミア自体を拒否するつもりはないんだよ。ただ、友達にはなるけど、深くは関わらないし吸血もさせない。以上!」


「だといいんだけどねぇ……。」


 何か言いたげな陸を無視し、電車を降りたあとはひたすら学校への道のりを歩く。

 

 次第に、周囲には同じ制服姿の人が増えていく。さっきまで「たのしみぃー」とか言っていたはずの俺だったが、着実に緊張が増していた。


「秋人、顔真っ青。」


「やばい緊張して死にそう…。」


「威勢はいいくせに、本番に弱いよな……あ!あれ見ろよ!」


 身体が震えそうな俺に対して、陸は立派な校門に着くなり俺の腕を引っ張って『私立峰ヶ原学園 入学式』という看板の前で楽し気に自撮りを始めた。

 そして、スマホを指差して「秋人の顔やべえ、絶望のチワワ!」と爆笑するもんだから、早くも周囲から注目を集めている。


 希望の朝なのに、第一印象が絶望のチワワなのはマズイ。俺は慌てて笑顔を作り、いつまでも笑っている能天気な柴犬の頭を思い切り引っ叩いておいた。



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