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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
期末ピンチ&ラン!!《後》
72/82


 犬飼と一緒に寮を出ると、玄関先に見慣れた姿があった。


「あっ。2人とも、おはようございます。」


「スズメ!おはよう、待っててくれたのか。」


「はい、昨日のことが気になってしまって。あれから大丈夫でしたか?」


「あー…なんと言うか、色々あって……長くなるから歩きながら話そう。」


 栗色の髪を柔らかく揺らし、スズメは首をかしげた。

 ひとまず近くに生徒がいない事を確認した俺と犬飼は顔を見合わせて……果たして、どこから話せば良いものかと頭を悩ませる。

 とは言え、どう足掻いても俺が帰室するなりクローゼットに閉じ込められるという急展開から始まるので、予想通りスズメの丸っこい目はこれ以上ないほどに見開かれた。


「―――って訳で、今日これから米山君に会いに行こうと思う。何があるか分からないからスズメは…」


「私も行きます。」


「早っ!いや、でもヴィズとか種とか意味不明だろ。危ないし、」


「私も行きますから。いいですよね、犬飼君?」


「いいんじゃないか。」


「おい!」


「…日野もこりないな。羽賀がこう見えて頑固なことは知ってるだろう。また泣かせるつもりか。それとも逆の立場なら、お前は大人しくしてるのか?」


 うっ…それを言われるとお終いだ。

 スズメを泣かせたくはないし、秘密ごとをしないって約束も覚えてるし、逆の立場ならもちろん、俺も黙ってはいない。―――そして何より、この2人に団結されると勝ち目は無いのである。


「分かったよ…。その代わり学校では、出来るだけ俺たちと一緒にいてくれ。」


「ふふ、決まりですね。―――それにしても、ドッペルさんがヴィズだったなんて信じられません。話を聞いてる感じだと、防御システムの効果で弱体化しているとも思えませんし。」


「ああー、確か佐々木さんが言ってたな。自分が見た時はその辺を浮いてるくらいで、害がない存在だったって。」


「ドッペル曰く、ヴィズにも個体差があるとか。システムが効かない個体なのかもしれないな。」


「そんなヴィズ、本当に警察や学校に通報しなくてもいいのでしょうか。ヴィズから脅されてるせいだってことは分かってるんですが……。」


 続きを聞かずともスズメの表情から、俺たちが黙っているせいで新たな被害が生まれるんじゃないかという恐怖が伺える。

 それは勿論俺達も同じだが、通報した瞬間にあのヴィズが『種』を使って生徒に何をするか分からないし、米山君の安否にも関わるかもしれないとなっては、何も打つ手がない。


「ドッペルはこれ以上他の人間に種をまかないと、そして米山を探すのであれば、今すぐ俺達に危害を加えるつもりはないとも言っていた。今はただ、言われたとおりにする他ない。」


「…そう、ですよね。私も頑張って米山君を探します!2人とも急ぎましょう。」


 迷いを吹っ切るかのように歩を早めたスズメだったが、校門近くになると「あれ?」と立ち止まった。


「どうした?」


「見てくださいあそこ、様子が変です。」


「んん、遠くてよく見えないけど…人だかり?まさか、もう何かあったんじゃ!?」


 しかも、追い討ちをかけるように「きゃあ!」と叫ぶような声も薄っすら聞こえてくるじゃないか。別れ際の『俺』の眼光を思い出し、身体の中心が一気に冷える。

 もつれそうになる足を必死に動かして校門前まで行くと、遠くで見るよりもギッシリ人が集まっていた。


「はぁ、ちょ、すみません通して……うおっ!?」


 必死に人垣押し退けようとしたが、勢いよく弾かれた挙句、前にいた女生徒から「邪魔!」と睨まれた。 俺が口を開けて呆けてる間に、俺がいなくなって空いたスペースに他の女子が飛びつき、塊の一部となってゆく。


(す、すげえ、吸収された…!?よく見たら女子ばっか引っ付いてんな。)


 辺りにはひっきりなしに悲鳴…っていうか、黄色い悲鳴が飛び交っていて―――おや、この現象は見たことがあるぞ、と既視感を抱いたとき、人垣の中から「あ!」と一際大きい声がした。


 声が聞こえたのをきっかけに、あんなに一体になっていた塊が嘘のように割れていく。

 俺の予想が正しければ、この中から出てくるのは恐らく、3人のうち―――


「日野ちゃんズ、おはよ!」


「朝原先輩!」


 現れたのは、今日もピンク色の髪が眩しい朝原先輩だった。

 「圭くーん!」ときゃあきゃあ騒ぐ女子達に、笑顔を返しながら近づいてくる。


「おはようございます。いつもこの時間に登校してるんですか?あまり見かけない気がしますけど。」


「いつもここは通んないからな――…じゃなかった、オレもよく通るぜ!うん、あーっと、それにしても偶然バッタリ会うなんて、すっげー偶然だよなぁ!」


「え?あ、はい?」


「バッタリ…だったでしょうか?」


「…偶然って2回言ったな。」


「まあまあまあ、細かいことは気にすんなって。折角だしさ、一緒に学校行こうぜ!」


「は、」


 返事をしようとした瞬間、気が付いた。一緒にって……まさかこの大群を引き連れてか!? 

 

 恐る恐る周囲の取り巻きに目配せすると、「は?なんでこんなやつらと!」という敵意と、「まさか圭君の誘いを断る訳ないよね?」という無言の圧力が襲いかかって来る。

 どっちを選んでもやばい気がするが、断った場合はもれなく袋叩きに合うのが眼に浮かぶようである。

 そして何より、うだるような暑さを吹き飛ばすくらいきらめいた笑顔を向けてくる人を、どうやって拒めと言うんだ。


「はい、あの、先輩が良ければ。」


「何言ってんだよ、いいに決まってんだろ!」


 ちがーう!本当は『ファンクラブの皆様が良ければ』だし、皆様はちっとも良くないに決まってんですよ!…なんて、言える訳が無い。


「おっし!じゃあ行こうか。たまには賑やかに登校するのも良いもんだなー。」


「…あーあ、朝から圭君に会えるとかレアなのに。誰あの子たち。」


「つまんなーい、圭君こっち向かないかな?」


 先輩が歩けば、やはり女子の列も一緒に歩き出す。

 …ただ、さっきと違ってポジション争いが無いぶん、吹き飛ばされる危険が無いのはありがたい。


 犬飼が周りを見渡したあと、女子と話している先輩には聞こえないようにポツリと呟いた。


「…まるで大名行列の様だな。」


「さすが犬飼、すげー分かる。学校じゃなくて城か何かに行く感じだよな。」


「わ、私はスズメじゃなくてホトトギスになった気分です。」


「鳴くならば殺してしまえって?…なるほど、それも分かる。」


 もちろん大名は先輩で、取り巻きの女子は鉄砲隊だ。視線と言う名のレーザー銃をしっかり俺達―――うっかり列に紛れてしまった農民に向けており、少しでも不審な言動をすれば撃ち殺さんばかりである。


「お、なになに何の話ー?オレも混ぜて。」


「いえ何でもないです!」


 突然大名様がこちらを向くもんだから、俺たちは急いで口を閉じる。

 一瞬ラミアだから俺たちの話が聞こえてたんじゃないかと思ったけど、周りの黄色い悲鳴のおかげでシャットダウンされていたみたいだ。


「そ、そうだ朝原先輩、瀬谷先輩の具合はどうですか?」


「雅人?もう平気――って言いたいとこだけど、今日は学校来ないだろうな。」


「えっ、あれから良くなってないんですか。」


「いや、そういう訳じゃ無いんだけど。本人は元気だから心配しなくても大丈夫だぜ。それよりも、この環境がって言うか。」


「環境?ああ、暑さ…」


 暑さのせいですか、と聞こうとした矢先、俺の言葉を遮るように女子の声が響いた。


「ちょっと、どうしたのよ!?」


「!?」


 後ろを振り向くと、女子生徒の1人が地面にうずくまっているではないか。

 心配そうに他の女子が覗き込む中、朝原先輩が駆け寄っていく。


「立たなくていいよ座ってな。どうした?」


「ごめん圭君、ちょっと気持ち悪くて……なんだろ、この匂い。」


「…匂い?どんな?」


「最近、中庭で甘い匂いがするって思ってたけど…今日はすごく濃い。嗅いだだけで胸焼けしそう。」


 しゃがむ格好から立ち上がった先輩が、スンと鼻を鳴らす。それに習って女子や俺たちも空気を吸い込むが、胸焼けしそうな程の匂いはしない。相変わらず、確かにちょっと甘い…かな?という程度だ。


「圭君。この子ラミアで、嗅覚が他の子より良いみたいなの。」


「そっか。オレ嗅覚はあんまりだから…こりゃ雅人がノックアウトされるわけだ。取りあえず保健室行こう。」


 「跳んだ方が早いな」と無駄のない動きで女子生徒を背中におぶった先輩は、足を踏みだす直前に俺を見上げると、声を潜めて言った。


「日野ちゃんごめん。こんな早くに別れる予定じゃなかったんだけど……とにかく、このまま真っ直ぐ学校に向かって。出来るだけ建物の中を通るように。万が一なにかあったらデカい声で叫ぶんだぞ。」


「は、はい。」


「よし。―――じゃあみんな、一緒に登校できなくて残念だけど、代わりにオレの可愛い後輩と登校してくれ。」


「うん、分かった。その子をよろしくね。」


 朝原先輩が地面を強く蹴り上げ、校舎に向かって飛んでいく背中をみんなで見送る。

 建物の陰に隠れて見えなくなったところで、大名不在の行列は再び動き始めた。


「さっきの方、心配ですね…。そんな匂い、どこから流れてるんでしょうか?」


「分からない。だが現状を見た感じ、嗅覚が優れていない限り影響は無さそうだな。たまたま、あの生徒の苦手な匂いだったって可能性もある。」


「そういえば、結城先輩も甘い匂いがするって言ってたけど……。とにかく、他のラミアの人に何かあっちゃいけないし、朝原先輩の言う通り早く建物の中に入ろう。」


 女子生徒達に若干の動揺は見られたものの、今は落ち着いて登校を続けている。

 集団を避けるようにして登校している他の生徒の中にも、「ん?」「今日なんか変じゃない?」と不思議そうな顔をする姿が見られるが、体調を崩したり騒ぐ事はない。


(もしかしたら感覚が鋭いラミアにとって、こういう事件は珍しく無いのかも。化学の実験で使う試薬の匂いに耐えられない子とかいるしな。)


 朝原先輩は心配してくれたが、ここにいるみんなは平気なようだし、大きな声で叫ぶほどの問題は起きないだろう。

 しかも有難いことに大名がいなくなったせいか、鉄砲隊はこちらの存在などどうでもよくなったようだ。


(むしろ問題は登校してから、だよな。着いたらすぐにDクラスに行かないと。)


 走って行きたい気持ちはやまやまだが、先輩から一緒に登校するようにと言われたからには、そんな訳にはいかない。

 鉄砲隊…もとい、朝原ファンの皆様とはお互い微妙な距離を保ちながら登校を続け、無事1年生の教室が並ぶ廊下にたどり着いた俺たちは、鞄を机に放ると一目散にDクラスへ走る。


「ごめん、ちょっと聞いていいかな。」


「なに?」


 Dクラスの前でお喋りしていた女子生徒に声をかける。体育の合同授業で見た覚えのある顔だから、Dクラスの生徒で間違いないだろう。


「米山君の席ってどこ?」


「ああ、こっからじゃ見にくいけどあの端にある席。ほら、勉強してるでしょ。」


「ん?どこ―――ああ!」


 気を付けないと見落としてしまいそうなほど、教室の隅にひっそりと座っている米山君の姿に、一気に肩の力が抜けた。

 机の上に積み上げた参考書を見ているせいで顔はよく見えないが、確かにそこに存在している。


「あぁー、良かった!ちゃんと学校来てた…!」


「ほ、本当に良かったです…消えてなんかないですよ!」


「これでヴィズのゲームとやらにも勝てるな。」


「消える?ゲーム?何のこと?」


「あ、いや何でもないんだ。ごめん助かった、ありがとう。」


 不思議そうな顔をしている女子に慌ててそう言うと、予想外にも「ふーん?」と怪訝そうな返事が返って来た。


「みんな米山に会いに来るけど、何かあったの?」


「みんなって、俺達の他にも誰か来たの?」


「少し前に野球部の間宮君がね。席教えたら近付いて行って―――帰るとき『米山君っていつもあんな感じ?』って、めっちゃ微妙な顔してたよ。」


「そっか陸が先に来てたのか。陸は米山君とは初対面だしな。」


 俺が米山君と初めて会った時そうだったように、第一印象のインパクトが強すぎたのかもしれない。

 ―――そんなことを考えていると、「でも…」と女子が呟いた。


「更にその前に、キミも来てたよね?米山の隣に立ってるの、見た気がするんだけど…。」


「!!」


「日野君が来てた?それってまさか、」


「ドッペル…あのヴィズが日野の姿で来たってことか。」


「そ、それは見間違いじゃないかな?ほら俺、よく友達に似てるって言われるし。」


 一瞬で鳥肌がたった腕をさすりつつ必死に笑って誤魔化すと、女子は「マジ?ごめん見間違えだね。でもそっくりだったよー。」と笑い返してくれた。


 そんな、まさかヴィズがもう来ていたなんて―――。

 何をしに、 なんて考えると目眩がしそうだが、この反応だとDクラスで大きな事件を起こした訳では無さそうだ。


(いや待て、もしかしてヴィズがここに来たとしても不思議じゃないのか?あいつの言うことが本当なら、米山君がヴィズを呼んだらしいし…。)


 ろくに考えがまとまらないまま、恐る恐る米山君の席に近づいてみる。俺達の気配に気付いていないのか、米山君は机から顔を上げる様子はない。


「米山君、おはよう。」


「…………。」


「米山君?えっと、勉強の邪魔してごめんけど、ちょっと話できないかな。」


「…………。」


 …驚くほど反応がない。

 よっぽど集中しているんだろうか?参考書に向けられている目はこっちを見ようともしないし、シャーペンを握っている手はひたすらノートに文字を書き続けている。


「おーい、米山君?…米山君ってば!」


 声を大きくしてみても、周りの生徒が振り向いただけで肝心の米山君はやはり無反応だ。

 ならばと下から顔を覗き込んで、顔の前で手を振ってみる。―――さすがにこれは怒るかもと思ったのに、眉ひとつ動かないのはどういうことだ?


「ど、どうしちゃったんでしょう。まるで、私達のことが見えてないような。」


「勉強してる時の米山君って、いつもこんな感じなのか?―――って俺、陸と同じこと言ってんな。」


「間宮が話しかけた時もこの調子だったんだろう。それで、どうなんだ。いつもこうなのか。」


 犬飼が何の前触れもなく通りすがりの男子生徒に聞くもんだから、「は!?何が!?誰!?」と男子生徒は目を白黒させるばかりだ。


「わ、私達Aクラスなんですけど、米山君とお話したくて来たんですが、とても集中されてるみたいで…。普段からこうなんですか?」


「えー?えーっと、ごめん俺あんま米山君と喋ったことないんだよね。つーかこのクラスの大半がそうだと思うよ。」


「どういうこと?同じクラスだろ?」


「普段静かで大人しいし、なんつーか…あっちが俺らと話すのを嫌がってる感じするかな。言い方悪いけど、見下されてる感じするし。勉強の邪魔、うざいってハッキリ言われた人もいるとか。」


「ああー…そうなんだ。」


「今も集中してるってか、無視されてんじゃね?邪魔ってことだろ。あんま話しかけない方がいいと思うけど。」


 声を潜めてそう言った男子生徒は、小さく肩をすくめると再び歩いて行ってしまった。

 眉を下げたスズメが、男子生徒の背中と米山君の背中を見比べる。


「…あまりクラスに馴染んでないような言い方でしたね。私達も無視されてるんでしょうか?」


「でも、本人と話さなきゃ。心配だし、ヴィズについても色々聞かなきゃいけないしさ。それに、米山君にとって俺がうざいなんて今更すぎるだろ。俺すげー付きまとったからな。」


「成る程。確かに。」


「…自分で言っといて何だけど、納得するの早すぎない?犬飼君。」


「私達も1回怒鳴られてますし、もうあれ以上はない気がしますよね。」


「おっ、強気だなスズメ…ってことで、無視されようが怒鳴られようが、ここで帰ってたまるか!」


 いつもと変わらない学校の中、俺達だけが事態の深刻さを知っていて、どうにかしないといけないのだから。

 気合を新たに、米山君が座っている席へ戻る。声をかけても駄目ならば―――無理矢理でもこっちを向かせるしかない。


 まず、俺が米山君の真横に立つと、犬飼とスズメが他の生徒の目から俺たちを隠すように後ろに並んだ。

 心の中でごめん!と謝りながら米山君が書き込んでいるノートを無理やり閉じ、細い肩を叩く。


「米山君。」


「………。」


 さすがに米山君の顔が上に持ち上がったのを見てホッとする。

 青白い肌と丸い眼鏡がゆっくりこちらを向いて……


「…っ!」


 レンズの向こう側にある米山君の目を見た瞬間息を飲んだ。

 見ただけではっきりと分かるほど、虚ろな目はまるで―――『何も映してない』のだ。

 思わずよく見ようと顔を近づけると、拒否するかのように光の宿っていない黒目が左右に振動する。


「な、なあ、俺のこと見えてる…?」


「日野君、手が!」


「手?」


 言われるがまま米山君の手を目で追うと、俺がさっき閉じたノートの表紙の上で、シャーペンを動かし続けているではないか。

 表紙の上にびっしりと書き綴られている数式に、俺たちは言葉を失って立ち尽くすばかりだ。

 そうこうしているうちに、米山君はまた机に顔を向け、自分でノートを開いた。

 少し前まで、集中して勉強しているんだなと思えていた姿は、今となっては何かに取り憑かれてる様にさえ感じられる。


「ちょ、米山君やめろって。どうしちゃったんだよ。」


「…………。」


「こちらには一切反応無しだな。」


「集中してるっていうか…様子がおかしくありませんか?」


「おかしい、おかしすぎる。どうなってんだ?」


 Dクラスを見渡すが、米山君の様子がおかしいことを気にしている生徒は俺達しかいない。

 普段あまり交流を持っていないらしいクラスメイトにとっては『いつも通り勉強熱心な米山君』なのだろうか。


「日野、提案がある。先にヴィズを探すというのはどうだ。」


「ヴィズを…そうだあいつ、学校に来てるんだったな。やっぱり米山君に何かしたんじゃないか?」


「いずれにせよ、米山を見つけろと言っておきながら、あいつは先にここへ来てるんだろ。なら、この状態の米山を見ているし、事情を知っているかもしれない。」


「私も賛成です。あまり騒ぐとDクラスの皆さんに不審に思われてしまいますし…。」


「…そうだな。一旦出直そう。」


 確かに2人の言う通りだ。米山君と会話が出来ない以上、ここでは何も出来そうにないし、俺たちの事を気にし始めている生徒に会話を聞かれるとまずい。


「米山君、また来るから。俺達がどうにかするから、どこにも行くなよ!」


「米山、消えたら努力が全て無駄になるぞ。」


「絶対に消えちゃだめですよ!」


「………………。」


 やっぱり俺達の声など耳に入ってないようだ。

 胸の奥がぎゅっと痛くなる一方で、その痛みにここで立ち止まってる時間などないぞ、と急かされながら、俺達はDクラスを後にした。



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