②
「うわあああああああああ!!!」
「おわっはぁ!?びびったぁ!」
「あ、あれ………陸?」
飛び起きてみれば、そこは公園じゃなくて自分の部屋だった。
よかった、いまのは夢か。俺、生きてるのか……ひとまずパジャマを着た身体のどこにも血が付いていないことを確認し、ほっと息を吐いた。ベッドで寝ていただけなのに、心臓が全力疾走したあとの様に音を立てている。
一方、陸も俺の雄叫びに相当驚いたようだったが、すぐにテーブルの上のコップを手に取ると、ベッドのそばに来た。
「大丈夫かー?いまのは色々と酷かったぞ。ほら、お茶飲みな。」
「ありがと……って、なんで陸がいんの?」
「秋人が風邪で学校休むなんて珍しかったからさ、お見舞い。もう5時半だぜ。」
ああ、そうだった―――昨晩、人生で2回目の最悪な体験をした俺は、夜の公園を転げまわったせいで、家に着いたころには小汚い濡れネズミと化していた。
ちょうど看護師の母が夜勤だったので、夜のうちに血の付いたシャツは捨て、シャワーを浴び、無心でコートのボタンを付け直しておいたが、そこから先の記憶がない。次に目を覚ました時には、居間のソファの上だった気がする。熱にうなされている息子を、目を丸くした母が覗き込んでいた。
「…そっか、わざわざ来てくれてありがと。もう結構熱下がったっぽいから大丈夫。」
「ならよかった。おばさんから『帰り道に派手にすっ転んで雪まみれになったらしい』って聞いたけど、どこをどう歩いたらそうなるわけ?」
それは、俺が母を心配させたくない一心でついたウソだが、改めて他人の口から聞くと実にウソ臭い。でも、あの汚れたコートとズボンの言い訳を他に思いつかなかったのだ。
「えーっと、昨日は別の道から帰ったんだよ。ほら、公園があるところ。」
「公園……って、秋人、あの公園見るのも嫌じゃん。わざわざ行ったの?」
「う、うん、なんか近道しようと思ったら、道に迷っちゃって。焦ったら滑ってスライディングしたんだよね。恥ずかしかったー。」
「……ふーん………それで?」
「……それで?……えっと、帰った……めでたし。」
「むかし話か。」
やばい、絶対ウソだってバレてる。こいつは普段は能天気さんなくせに、変なところで鋭いのだ。決して俺がわかりやすいとか、そんなんじゃない。
顔がこわばらない様に踏んばっていた矢先、俺を疑うような目で見ていた陸は、突然いつもの爽やかな笑顔になった。
「そっか!」
「お、おお?そうだ!」
―――え、うそ、いけた!?
「で、ほんとは?」
「……ですよねー。」
だめだこりゃ。もういっそ、話してしまおうか。1人でモヤモヤしてるよりか、「絶対吸血させないって言ってたくせにー」って陸に笑い飛ばされた方がスッキリする気がする。俺は布団の端を握りしめると、覚悟を決めて口を開いた。