表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
期末ピンチ&ラン!!《前》
64/82


「はい、じゃあ今日はここまで。」


 お爺ちゃん先生の言葉を合図に、2限終了を告げるチャイムが鳴った。一斉に賑やかさを取り戻す教室で、俺はすぐに佐々木さんと犬飼に向けてノートを広げる。


「2人ともさー、イタズラするのは良いけど、もっとノートを節約してくれ。あと最後のこれってどういう意味?」


「これってどれよ。……なにこれ、秋人が来たから帰る?秋人って自分のことでしょ。」


「俺に聞かれても。これ書いたの佐々木さんか犬飼だろ。」


 ギリギリまでノートに顔を近づけていた佐々木さんが、「はぁ?」と俺を見上げた。


「私がこんな、猿の進化過程みたいなイタズラするわけないでしょ。細かすぎて無理、面倒くさい。」


「た、確かに。じゃあ犬飼?」


「…俺じゃない。」


 犬飼は眼鏡を押し上げると、少し口をつぐんだ。……なんだろう、こういう時の犬飼は何か言いたい時なんだけど。


「どうした犬飼、何か知ってるのか?」


「…日野、双子の兄弟はいるか。」


 あまりに予想外の質問だったので、一瞬時が止まった。


「い…ないけど。俺一人っ子だし。」


「じゃあ、これが何か分かるか。」


 犬飼の手から渡されたのは、いつも犬飼が使ってるシャーペンだ。

 あえて聞いてきたってことは、何かあるんだろうけど……別に変わったところはないし、ペンの頭を押したら問題なく芯が出てきてしまった。


「あの……シャーペンだよ、な?」


「ああ、正解だ。」


「正解かよ!なんなんだよ。」


 思わず突っ込むと、犬飼と目を合わせた佐々木さんが「だってねえ?」と意味深に笑う。


「日野ってばそれこそ、猿か原始人みたいだったんだもん。」


「ええ?俺がいつ猿で原始に帰ってたって?」


「だから1限の時だって。日野テストの時に犬飼からシャーペン借りたかと思ったらさ、それで机叩いてたじゃん。まじでウキーッ!って感じで……そのあとシャー芯出してウホッ!?ってなってた。」


「はぁ!?……あのさ、来たときも言ったけど、俺は1限受けてないんだって。だからウキもウホもないの!」


「またそれ?じゃあそこに座ってた猿は誰だったの。」


 え、ええー?なんで俺が「まだ言うか」とでも言いたげな半目で見られなきゃいけないんだ?むしろ、それを言いたいのはこっちなんだけど。

 誰か、誰か助けてくれる人はいないのか―――?救いを求める俺の目が、こちらへ来るスズメの姿を捉えた。


「スズメ!この2人が変なこと言うんだけっ…」


 最後まで言うことは出来なかった―――スズメは俺の目の前に立つと、いきなり俺の手を両手で掴んだのだ。


「日野君、私が分かるんですね!?」


「は……が、すずめさんですよね?」


 おいおいおい、なんだかすげー嫌な予感がするぞ。

 現時点で唯一俺の救世主になる可能性を秘めていたお方は、ぐったりとその場にしゃがみ込んでしまった。


「よっ、良かったぁ…!」


「なんで?」


「朝の日野君はいつもと少し違ったと言いますか、私の名前も分からないと仰ってましたし…私、気が気じゃなくて。」


「それがねー羽賀っち、日野ってば1限は受けてないとか言うんだよ。」


 佐々木さんの言葉を聞いたスズメは、見開いていた大きな目を細めた。


「……やっぱり、勉強でお疲れなんですね。あのまま寮に帰って、休んだ方が良かったんじゃないですか?」


「いや俺はずっと寮で寝てて……なんだよ、スズメまでそっち側かよー。」


 ああもう、よほどみんなで上手く話を合わせてるんだろうか、ラチが明かないぞ。しかも、ふざけた様子を見せずに真顔で言ってくるところがタチが悪い。


 こうなりゃ、こっちも反撃だ。作り話には事実を……俺が休んでいたという証拠を出せばいい。


(とは言っても、証拠ってどうすれば………あ、)


 パッと頭に閃いたと同時に早足で教卓へ行くと、その上に置かれた『証拠』を引っ掴んですぐに戻る。


「よしみんな、これを見ろ!」


「どしたの、出席簿なんて持ってきて。」


 そう、黒い厚紙の表紙に『出席簿』と書かれているそれは、各授業ごとに担当の教師が、生徒の出欠を記入するものだ。さっきもお爺ちゃん先生が、俺を欠席から出席に書き換えていた―――


(そう言えば、お爺ちゃん先生も俺のこと『戻って来た』とか言ってたような……気のせいか?イタズラのせいで、だんだん混乱してきたぞ。)


 でも、それもこれで終わりだ。出席簿を開いて『22番 日野 秋人』と書いてある欄を、指で横にたどっていく。やがて、今日の1限のマスに辿り着いた。


「ほらな、よく見ろよ。1限んとこ出席って書いてあるだろ!」


 ………ん?あれ、今なんて言った?


「間違えた、出席じゃなくて、えーっと」


 慌ててもう一度名前を確認してから、マスを指でたどる。

 そして、現れた文字は―――


「出席、だね。ほーらね、やっぱ日野出席してんじゃん。」


「え、ええっ?嘘だろもう1回!」


 何度やっても、俺の指は『出席』という文字に辿り着く。

 欄が違うんじゃないかと疑ったが、その隣の2限のマスに、『欠席』を二重線で消して『出席』に書き換えた文字があるので、明らかに俺の欄だ。


(どうなってんだ、まさか先生までグル……なんて、あり得ないよな。でも俺は寮で寝てたんだぞ?)


「もー、日野冗談やめなよ。」


「ちが、俺マジで来てないって。でも、じゃあ、この出席した『俺』って…。」


 無意識にごくりと喉がなる。出席簿から顔をあげれば、不思議そうな顔をした佐々木さんの隣で、腕組みをしている犬飼と目が合った。



「…『あれ』は日野じゃなかった。あれは誰だ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ