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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
期末ピンチ&ラン!!《前》
62/82


「ただいま帰りましたー。」


 303号室のドアを開けると、ぬるい空気が流れてきた。

 エアコン入れてないってことは、結城先輩まだ帰って来てないのかな?そう思った矢先、玄関の隅に見覚えのない靴が揃えられていることに気付き足が止まる。


「おかえりー日野君ー。」


「えっ?あ、その声は……あれ、誰もいない。」


「日野君、上だよ上。」


 誰もいない部屋を見渡せば、2段ベットの上側からちらりと手が見えた。

 ハシゴを登ると、結城先輩のベッドには瀬谷先輩が横たわっているではないか。


「瀬谷先輩どうしたんですか!顔色悪いですよ、まさか体調が…?」


「そう、帰る途中で動けなくなっちゃって、一旦ここで休ませてもらってるんだ。ごめんね、お邪魔してます。千隼なら食堂へ血液パック買いに行ってくれてるよ。」


「何か俺に出来ることありますか?」


「もう大分良くなったから大丈夫だよ、ありがとう。エアコンも日野君の好きなようにしてね。」


「いえ、このくらいの温度なら全然平気です。」


 付いてないと思っていたエアコンは、28℃の弱設定で動いていた。瀬谷先輩の体調を考えれば、極端に部屋の温度を下げるのはアウトのはずだから、このままにしておこう。


 それにしても、ずっと外にいたせいで喉がカラカラだ。冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぎ、一気に飲み干す。

 いつもなら「生き返るー!」なんて思いながら吐き出す息も、今ばかりは溜め息になってしまった。


「元気ないね、気難しい友達と喧嘩でもした?」


「げほっ…な、なんで分かるんですか。」


「ここに来る前…最悪に体調悪かった時にさ、他の音に混ざって聞こえちゃったんだ。日野君と誰かが言い合ってるような声が。」


 そんな、花壇には俺と米山君以外に誰もいなかったのに―――そんな言葉を頭に浮かべてから、すぐに打ち消す。瀬谷先輩は体調が悪い時は自分の『感覚』をコントロール出来なくなると言っていたからだ。


「俺…何か米山君の気を悪くするような事を言ってしまったんでしょうか。」


「うーん、断片的にしか聞こえなかったから何とも…。その米山君って子『雑草のくせに!』とか言ってたけど、雑草に恨みでもあるの?」


「ああー確かに言ってましたね。でもあれは実際の草に言ってるっていうか……そうだ、人を雑草呼ばわりしてるみたいでした。」


 『みんな笑いやがって雑草のくせに』とか言ってた気がするし、『君も雑草供と一緒なんだろ』と言われたような気もする。


「わお。それはまた、すごく個性的な呼び方だね。自分は高嶺の花だとでも?」


「さあ…凄く頭の良い人みたいなんで、思考回路が独特なんですかね。言ってることも難しくて俺にはよく分からなくって。花社会の花壇に入れる・入れない問題とか……。」


「何それどういうこと?なんで君たち花社会について語り合ってるの?」


「それは俺も謎なんですけど、」


 ―――雑草は花壇に入れず、花壇の花達は鉢に入れず、鉢で育てられるような貴重な花は花壇に入れない。

 米山君との会話を一通り説明すると、ベッドからは「ふーん…」と考え込むような声が聞こえてきた。


「じゃあ米山君はきっと、鉢の中にいるんだね。」


「? 米山君はやっぱり高嶺の花ってことですか?」


「そうだね……でも、植わってる花の気持ちはどうなんだろうね。きっと、彼は花に人間社会を被せて見てるんじゃないかな。」


「うーん?」


 ダメだ、やっぱり分からないぞ。なんで瀬谷先輩はあっさり分かったんだろう。特Aクラスの頭脳の持ち主だからか?瀬谷神様だからか?


「まあ、急に怒り出したことと関係があるかは分からないけど。テスト前で神経質になる生徒は多いし、彼もそうだったのかもね。」


「俺もそうかなって思ったんですけど…なんか心配になっちゃって。犬飼への誤解を解くどころか、更に溝が深まった気がします。」


「日野くん達ならきっと大丈夫だよ。人は少しのきっかけで変わるって言うし―――俺なんかほら、この部屋に来た時、千隼が冷たいお茶を出してくれたことにビックリしちゃった。しかも作り置き。あいつちゃんと共同生活出来てるんだね。」


「あ、はい。先輩はシャンプーも買ってきて詰め替えてくれますよ。」


「本当に?あははは、そっか、あいつ案外まめなとこあるからなぁ。」


 先輩の声は面白がってるというより、どこか嬉しそうだ。つい俺も楽しくなっちゃって、「先輩の作ったお茶、おかわりどうですか?」と聞くと、「全部いただこうかな」とノリノリの返事が返って来た。

 さっそく瀬谷先輩分のお茶を準備していると、先輩もベッドの上に起き上がる気配がする。良かった、動けるようで安心した。


「先輩、氷は入れますか?」


「ありが―――日野君!?」


「はい!?」


 驚いて取りこぼした氷が床を滑っていく。それを追うよりも先に先輩を見ると、先輩も目を見開いて俺を見ているではないか。


「どど、どうしたんですか?」


「こっちの台詞だよ、どうしたのその腕!」


「腕?……おわっ、なんだこれ!!」


 右腕にくっきりついている赤いあざに、今度はコップを落としそうになった。なんだこれ、特にぶつけた覚えもないのに、何でこんなのがあるんだ?!


「しかも気持ち悪い形してる!」


「見せて。……これ、手じゃない?1 2 3 4 5、ほら、指の跡が5本ある。」


「手?」


 辛いはずなのに降りて来てくれた先輩の言う通り、確かにそう思えば指の痕に見えてくる。こう、俺の腕をぎゅっと掴んだような―――


「あ!もしかして米山君か!?最後らへんに腕を掴まれたような。」


 あの時はそれどころじゃなくて全然気が付かなかったけど、まさか痣になっているとは。意外と力強いんだな……いや、それだけ感情的になっていたのかもしれない。


「とりあえず冷やそうか。湿布ある?あと、それ千隼には見せないほうがいいかも。」


「確かに、こんなの見たら驚かせちゃいますよね。」


「逆に驚いてくれればいいんだけど、ちょっと怖いことになりそうだからね。」


「怖いこと?」


 よく分からないが、半袖シャツのまま寮の中を歩いたら結城先輩だけじゃなく大勢の生徒を驚かせてしまいそうだ。

 とりあえず棚の奥から解熱用の冷却シートを取り出して貼る。この上から夏用のカーディガンを羽織っていれば見えないし、違和感もないだろう。


「いい感じだね。でも痛みが強かったりしたら我慢せずに言うんだよ。」


「気づかなかったくらいです、そんな痛くないですよ。それに、前に顔を殴られた時だってすぐに治りましたから。」


「…………。」


「先輩?」


「ん?ああ……それよりもさ、千隼が帰って来たみたいだよ。」


 瀬谷先輩がそう言ってから10秒くらい経ってやっと、オリジンである俺は玄関先に靴音を聞くことができた。


「先輩おかえりなさい。」


「ただいま。なんだ、お前もう起きてんの。」


「あはっ…あ、失礼。おかえり千隼。」


「今の『あはっ』はなんだよ。ホラ、さっさと飲め。」


 結城先輩から血液パックを受け取った瀬谷先輩は、美しい笑みを更に深くした。


「あれ、俺にはただいまって言ってくれないのかなー?」


「うるせーなお前元気じゃん。もう帰れば。」


「そんな無理せずとも。泊まっていけばいいんじゃないですか?」


「何をミンミン言ってんのかなー日野は。」


「いやセミじゃないし!」


 またこの炎天下を帰る途中で同じことになっては意味がない。そう思って言ったのに、結城先輩は一目で分かるくらい嫌そーうな顔をしている。


「大体泊まるとしても、こいつどこで寝るんだよ。」


「あ、確かに。俺が床で寝ますよ。」


「日野君にそんなことさせられないよ。いつもみたいに一緒に寝よっか、千隼。」


「ぶふぅ!!」


 え、なにそれどういうこと!?俺が吹き出した麦茶を瞬時に避けた結城先輩は、「誰が寝るか!」と反論しながら俺の顔面に青いタオルを投げつけた。


「そりゃガキの頃の話だろ!いつもとかキモいこと言ってんなよ。」


「あはは、冗談だよ。俺だってデカい男2人で窮屈に寝るのは勘弁だし…あ、でも日野君ならいけるかな?」


「えっ、何がですか?」


「今夜俺と…良い夢みない?」


「ぶふぅ!!」


「お前マジで帰れ今すぐ!」


 俺はいつになったらお茶を飲めるんだろうか。また飛んで来た黄色いタオルで口元からボタボタ落ちる麦茶を必死に拭いていると、「道に捨ててくるんだった」と顔をしかめる結城先輩に、「だから冗談だって」と瀬谷先輩が爆笑している。


(やっぱ幼馴染なだけあって気兼ねないっていうか、仲がいいよな。)


 やっと落ち着いた頃を見計らって麦茶にありつく。同じく血液パックを飲んで一息ついた瀬谷先輩は、スマホの画面を見ながら立ち上がった。


「…はぁ、笑い疲れたしそろそろ帰るよ。」


「本当に帰るんですか?外、まだ暑いですよ。」


「大丈夫。今連絡したから、すぐに迎えがくる。」


 迎えって、誰が?そもそも瀬谷先輩はどこに住んでるんだろう。心の声が顔に出ていたのか、目が合った結城先輩が口を開いた。


「そいつ老舗旅館の御坊ちゃまだから、専属の運転手がいんだよ。」


「センゾクノウンテンシュ!?」


「そう。普段は頼まないようにしてるんだけどね。」


「うっそ!ひええ、私立だしセレブもいるって聞いてましたけど…め、目の前にいたとは。」


 かなり驚きだが、瀬谷先輩の姿勢の良さや、所作の美しさを見れば不思議と納得するっていうか…旅館似合いすぎるだろ!

 微笑む瀬谷先輩の後光がますます眩しい。ド庶民の俺は今にも「ははーっ」とひれ伏したい気分だ。


「でもその、せ、専属の運転手…さんがいるのに、どうして頼まないようにしてるんですか?」


「忙しい人たちだから、あんまり頼りたくないんだ。別に仲が悪いとか、そういうのじゃないんだけどね。」


「そう…なんですか。」


 直接的な理由は分からないけれど、他人の家のことにこれ以上突っ込まないほうが良いだろう。そう思ったと同時に瀬谷先輩のスマホが震えた―――着信のようだ。


「もしもし、上野さん?……あはは、大丈夫ですよ。すぐ行きます。」


「『上野さん』って?」


「確か運転手の名前。」


「はっ、もう着いたんですか!?」


「そうみたい。じゃあ、お邪魔しました。2人ともありがとう。」


「俺、下まで送りますよ。」


 もう動いたり笑ったり出来るようになったとはいえ、まだ顔色は悪い。ちゃんと車に乗るところを見届けるまで心配だ。そう思い一緒にエレベーターに入ると、瀬谷先輩が突然俺の方をじっと見てきた。


「どうしました?先輩。」


「…ありがとうね、日野君。」


「い、いやいや、見送りくらい何てことないです。」


「それだけじゃないよ。いつもありがとう。」


「……どういたしまして?」


 あれ、俺いま何にお礼言われたんだ?なんて考えてる暇もなく、エレベーターは1階に到着する。

 瀬谷先輩に続いて寮の玄関の外へ出ると、見るからに高級そうな漆黒の車が停まっていた。


「お待ちしてましたぜ、坊ちゃん。」


 ぐっと低い声がして、運転席から黒い背広を身に纏った長身の男が降りてきた。―――30代半ばくらいだろうか。ダークブラウンの髪は後ろになでつけられており、鼻筋が通った整った顔をしているが、その眼光の鋭さには思わず1歩後ずさりしてしまう。


「大丈夫だよ日野君。上野さん『ヤ』が付きそうな職業っぽい顔してるけど、怖くないから。」


「こんな男前に酷えこと言うぜ。それよりアンタ、こんな日は日陰から動かずに迎え呼べって言ってんだろ。」


「気を付けますよ、ごめんね。」


「どーだか。ま、アンタが例えどこでのたれ死のうと俺の知ったこっちゃ無いですが、心配性の女将に給料しょっ引かれると困るんですよ。」


「ほらね、全然怖くないでしょ。」


「…………。」


 い、今のやりとりのどこかに見直すポイントあった?怖いか怖くないか聞かれたらフツーに怖いんですけど。主にずっと眉間に縦皺寄せてる顔が!


「おい、そこの坊主。おまえがあの『日野君』か。」


「は、はははい、日野 秋人と申します!」


 上野さんは俺の頭のてっぺんからつま先まで、ざっと目を通してからフンと鼻を鳴らした。


「うちの坊ちゃんが世話んなったみてえだな。手ェ出せ。」


「はいぃ!」


「おいおい、指詰める訳じゃねえんだ。こっち向けろや。」


 思わず手の甲を上にして差し出すと、白い手袋を付けた大きな手が俺の手をくるりと回し、掌を上に向ける。

 俺の掌の上から上野さんの手が離れると―――飴玉が1つ置いてあった。包み紙にはウサギのイラストがプリントされている。


「これからも何卒宜しく頼む。」


「……は、はい。」


 この強面こわもてからウサちゃんキャンディーが出てくる…だと…!?

 俺が緊張と衝撃でしばらく固まっている間に、上野さんが後部座席のドアを開け、瀬谷先輩に早く車の中に入るよう催促し始めた。


「早く乗ってくださいよ、また女子高生に囲まれてキャーキャー騒がれんのは勘弁だ。」


「それもそうだ。じゃあ日野君、また学校でね。」


「はい、また!」


 なんか……ここのところ瀬谷先輩の意外な姿をたくさん見ている気がする。新しい一面だったり、二面性ギャップだったり、知るたびに驚くことも多いけれど、嬉しい気持ちも大きい。


(『まずは相手をよく知ること』…ほんとその通りだよ藤井先生。)


 日光を反射させながら遠ざかって行く車を見送ったあと、上野さんに貰った飴玉を口に放り込んで―――盛大にむせた。


「あっっっっま!!!あの人いつもこれ食ってんの?嘘だろ!?」




◆◆◆




 その日の夜は珍しく昼間と比べて気温が下がり、風も吹いていた。換気を兼ねてクーラーを消し、窓を開ければ、蝉とは違ったガラス細工のような虫の声が聞こえてくる。

 眠気を誘う生暖かい風に目をこすりながらも、どうにか学習机の前に座った俺は共存学の教科書と睨めっこしていた。


(ラミアは吸血する際、一般的に犬歯と呼ばれる歯の先端部が鋭利になり……先端から分泌される麻酔成分を相手の体内に注入することで、吸血による疼痛を和らげる……と。)


『これ以上僕に関わらないで!』


「………。」


 顎でシャーペンの頭をカチカチ叩きながら、何度同じ文章を読み返しただろうか。少しも頭の中に入ってこない代わりに、浮かぶのは米山君の顔ばかりだ。


(明日Dクラスに行ってみようか。でも、向こうは俺の顔なんか見たくないかも。また逃げられたらどうしよう…。)


 あー、ダメだ全然集中できない!ヤケになって唸りながら頭を拳骨でぐりぐり刺激していると、隣の学習机に座る結城先輩から『何やってんだこいつ』と言いたげな視線が送られてくる。


「こ、これは頭を刺激する体操ですから。」


「まだ何も言ってねえけど…体操だったのか、そりゃ失礼。」


「なるほど、失礼なこと言おうとしてたんですね。」


 交わした会話はそれだけで、お互いまた机に向かい合う。横目でひそかに見た感じ、片肘付きながらゆったりと何かの本をめくっている結城先輩は、勉強しているよりも読書をしているに近い。

 テスト前だってのに余裕かよ。くそー、俺だってやれば出来る!はず!


(ええと、この問題をやってみるか……ふんふん……は?『この場合、ラミアが持つ特殊抗体αが結合する様子を構造式で表せ』?何これ、突然化学が始まったんですけど。)


 ―――マジか、全然分かんねえ。そもそもなんで共存学の分野に大嫌いな化学が割り込んで来るんだ。

 でもさ、テスト範囲ってことは授業で習ってるってことだよな。頼みの綱である授業ノートを見返してみると、ふにゃふにゃした字で解読困難なうえに、隅っこに『NAZO!』と書き込まれている。……こりゃダメだ、我ながらYABAI。

 

 この問題は後回しだ。クラスの誰かに聞いてみよう―――そう思った時、佐々木さんの声が耳元で蘇った。


『結城先輩に教えて貰えばいいじゃん。』


「………。あの、先輩?」


「なに。」


「お、俺にべっべべべおおおおしてください!!」


「……『べおーする』って?」


「スミマセン今のは忘れてください…。」


(やっぱ無理だよ佐々木さん、勉強教えてくださいなんて言えない!!)


 そりゃ俺だって教えてもらえるもんなら教えて欲しいけど100%断られるだろうし、嫌味を言われるならまだしも……本気で迷惑がられたらどうしよう。折角同じ部屋で生活できるようにまでなったのに、少しのきっかけでまた最初のように戻ってしまうかもって思ったら、


(……嫌、だ。)


 息が止まりそうなくらい冷たかった琥珀色の瞳を思い出すと、胸がぐっと痛くなる。しかも、このタイミングで米山君が頭に浮かんで『うざい』と言うもんだから、益々きつい。


(あー、やめやめ。何考えてんだ……こりゃあれだな、俺もテストのストレス出ちゃってんだよ。NAZOにしちゃってる時点で自業自得なんだけどさ。)


「なに百面相してんだ。」


「え、や、なんでもないです。」


「…あっそ。それより、お前寒いの?」


「え?いやどっちかと言えば暑……」


 言いかけた途中で結城先輩の琥珀色の目が俺のカーディガンを見ているのに気づき、急いで言葉を飲み込んだ。


「えーっと、寒気がしたから着てみたんですけど、多分気のせいなんでオッケーです!」


「は?このクソ暑いのに寒気とか…」


 上野さんみたいな皺を眉間に寄せた先輩は、しばらくしてから俺の机に手を伸ばした。

 俺の目の前で、共存学の教科書が閉じられる。その意味が分からずに先輩を見上げると、今度はその手でベッドを指さした。


「寝ろ。」


「はっ?」


「いいから早く寝た寝た。」


「いや全然良くないです。俺勉強しないと…」


 平然とした顔で俺の枕をポンポン叩いてた先輩は、枕を両手で持ち上げると横にゆっくり伸ばし始めた。


「してもしなくても変わんねーだろ。10秒以内に寝ないと枕真っ二つにすんぞ。」


「俺の低反発枕ー!わ、分かりましたよ…いや分かんねぇけど、寝ればいいんでしょ、寝れば!

……ん?まさか、もうカウント始まってます?」


 先輩が頷いたので、瞬時にベッドに飛び込む。人質(?)の枕が頭の下に差し込まれたかと思ったら、足元に畳んであった布団を投げるように被せてきた先輩は、「よし」と呟いてから学習机に戻っていった。

 残された俺はと言えば、完璧なスリーピングスタイルのまま呆然と天井を見上げるのみだ。


(なんだこれ……ま、マジ意味わかんねー!テスト勉強妨害罪だろ、ただでさえ眠いのに布団に入っちゃったら俺…もう…寝るしか……。)


 すぐに睡魔がやってきて、驚くほどすんなりと身体が沈んでいく。ダメだ、目を開けてられない。明日起きたら絶対文句言ってやるからな―――


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