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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
期末ピンチ&ラン!!《前》
61/82


(ありがとうって、あんなの当たり前だろ……あーーモヤモヤする―!!)


 放課後、今日こそはテスト勉強するぞ!と気合を入れて苦手な図書室に来たものの、昼間の光景を思い出しては頭を抱えるのを繰り返すばかりで、ちっともはかどらない。


(どうして、米山君はあんなことを?犬飼に対して相当捻れたイメージ持ってるみたいだったけど。…そんで犬飼、お前はもっと怒っていいんだよ!『こういう事はよくある』なんて、そんな慣れたように言うなよ……。)


 俺とスズメが言い返したことに驚いていたくらいだから、今までは周りに何を言われても我慢してたってことなんだろう。

 確かに犬飼はあの騒動以降、特に気にしてる様な発言はなかったし、相変わらずの鉄仮面っぷりだったけど―――その手元でどんどん細かくなっていったハンバーグは、最終的にそぼろ(・・・)のようになってしまっていた。


(……やっぱこのままじゃだめな気がする。米山君と話をして、犬飼への誤解を解けないかな。)


 食堂で耳にしたギャラリーの会話によれば、米山君も相当な勉強家なんだっけ。勉強道具を片付けながら自己学習スペースをざっと見渡してみるが、それらしい人は見当たらない。

 他の場所で勉強しているか、それとも今日は家に帰ったんだろうか?さすがに違うクラスの生徒となると行動が全く分からない。だって、住んでる場所も部活も知らな―――


「あ。」


 待てよ、今日の体育の時に佐々木さんが何か言っていたような?




◆◆◆




(これ、完全に早まったよな…。)


 図書室というクーラー天国から外に飛び出した俺は、日光に首の後ろをじりじり焼かれながら大いに後悔していた。


(佐々木さん情報では米山君は園芸部で、グラウンド周辺の花壇によくいるらしい……けど、別に今日じゃなくてもよかったんじゃね。)


 だってよく考えなくても、米山君に会いたいなら明日Dクラスへ行けば良かったのだ。おまけに今の時期はテスト前で休みになる部活が多いので、そっちの方が確実に会える。

 …普段からあんなに『勢いで行動するな』と陸に言われてるってのに、我ながら進歩がないぞ。

 案の定誰もいない花壇でため息をつくと、タイミング良く吹いた風に色とりどりの花が揺れた。


(おお、いい香りがする。折角ここまで来たんだから、花を見てから帰ろうか。)


 入学式の時にも思ったけど、この学園はどこの庭園だよってくらい植物が多い。なのに、枯れてるのなんて見たことがないから、よっぽど手をかけて管理しているんだろう。

 花壇の花たちは、赤、ピンク、黄色に白、花弁がでかいやつに小さいやつ……どれもすごく綺麗だ。普段は背景の一部として認識しがちで、ゆっくり見ることなど無かったけど、勿体無いことしてたかも。そう思うと同時に、俺って花の名前を全然知らないことに気づく。

 パッと見て分かる花なんてせいぜい向日葵とか、チューリップとか、メジャーなやつばかりだ。たぶんこういう知識は、小さい頃の俺の方がずっと詳しかったに違いない。今はその知識を追い出してでも公式や単語を詰め込まなきゃいけなくなってしまった。


「なーんて、全然詰め込めてないんだけど。」


「ヒッ!」


 小さな悲鳴の後にバシャン!と、水が地面に叩きつけられる音がした。飛び上がりそうになる足を堪えて見れば、米山君が立っているではないか。その足元には大きなジョウロが転がっている。


「よ、米山君!?良かった、今日は会えないかと思…って、待って逃げないで、文句言いにきたわけじゃないから!」


「!」


 ジョウロを拾いあげるなり駆け出そうとした米山君の動きが止まる。助かった、さすがにこの炎天下の中で鬼ごっこをする自信なんてない。


「な、なに。」


「んーっと、は、花、綺麗だね。全部園芸部が世話してるの?」


「全部じゃないけど、花壇をいくつか任されてて…。」


「そうなんだ。えーと、じゃあ、このピンクの花なんて名前?」


「ダリア。」


「あのオレンジは?」


「マリーゴールド。」


「そこの面白い形のは?」


「ケイトウ。」


「じゃあ隣は?」


(…じゃなくって!なに質問大会始めてんだよー!)


 運良く米山君に出会ったはいいが、話の切り出し方を全く考えていなかった。

 目をウロウロさせている米山君もきっとこの状況を謎に思っているだろう。それでも俺の質問に素早く答えるあたりよほど花が好きなのか、頭の回転が早いのか、俺の勢いに飲まれてるのか……たぶん全部だ。

 

 次第に、花壇の中には質問できる花が無くなってきてしまった。どうしようと焦る中、米山君の持つジョウロの外側から水滴が落ちてるのに気づく。さっき地面に落としたのを見るに、中に水はほとんど入ってないだろう。


「米山君、水やりに来たんだよね。俺が水汲み直してくるよ。」


「いや、でも…。」


「いいからいいから。ここで待ってて!」


 米山君が渋々差し出したジョウロを受け取ると、急いで近場にある水道へ向かう。

 あの細腕で持っていた割にはジョウロは大きくて…水を入れると更にずしりと重くなり、再び花壇へ戻る頃にはすっかり息が切れてしまった。こりゃまた筋肉痛になること間違いなしだ、園芸部は毎日こんなに大変なことをしてるのか。


「はー、米山君おまたせー…ってあれ、どこ行ったんだ?」


 待ってて、と言った花壇に米山君の姿はない。まさか帰ってしまったんじゃないかと不安になりながら辺りを見渡すと、グラウンドの側にある木の下に、痩身の背中を見つけた。


(あのすげえデカい木は確か…体育の時、佐々木さんと犬飼と日光から避難した木だよな。)


 米山君も俺を待っている間、木陰で涼もうと思ったんだろう。辺り一帯が日光に照りつけられて光っている中、大きな傘の下だけがハサミで切り抜かれたかのように暗く濃い陰になっている。

 ……なんだか、米山君がまた居なくなってしまいそうな気がするのはどうしてだろう。重いジョウロを抱えなおし、出来るだけ急いで木へ歩いていくと、次第に小さな声が聞こえてきた。


「大丈夫……もうすぐ……で、……だよね。」


(米山君の声だ。)


「うん、…したら、……も、一緒に……できる。」


(相手の声は聞こえないけど。誰と喋ってるんだ?)


「そのためには誰かを……え?どうしたの、……っ!!」


 突然振り向いた米山君は俺に気が付いたようだ。一瞬ぎょっとした表情をしたように見えた後、地面に向かってブツブツ呟いている。


「お、お待たせ。ごめん、誰かと話してるの邪魔しちゃったかな。」


「べ、別に。大丈夫。」


 ズレてもいない眼鏡を直しながらそう言う米山君の後ろには太い幹があるだけで誰もいないし、誰かが隠れているような気配もない。

 独り言というよりは会話に近かったような気がしたけれど、声も姿も見えないとなれば、米山君は一体誰と話していたんだろう?


「「……………。」」


 少し気まずい雰囲気が漂う中を、風が通り抜けた。揺れた木の葉同士が触れ合って、サワサワと心地よい音を立てる。


「ここは涼しいなー。そうだ、この木の名前も知ってる?」


「………。」


「俺、こんなデカい木があることに今日気が付いてさ。なんか昔話の中にでも出てきそうな木だよね。そのうち花でも咲きそう………ん?」


 上を見上げれば、緑の中にちらほらと他の色が混ざっているのが見えた。…なんだろう、あれ。体育の時間に下から見上げた時は緑以外のものなど無かった筈だが、見間違いだろうか?


「いや、やっぱり黄色っぽいものが枝に付いてる。これってもしかして、つぼみ?こんなにたくさん…俺たちが見た時には何も付いてなかったのに…」


 幹に触れようと手を伸ばした瞬間、米山君が勢いよく顔をあげた。


「やめろ!」


「!?」


「え、あ、…そ、その木。触らないで。」


 び、びっくりした。反射的に手を引っ込めると、必死な顔をした米山君と花壇に来てから初めて目が合った。また睨まれるかと思いきや、すぐに目を逸らし、乾燥した唇を前歯で噛み始める。


「ご、ごめん。そんなに大事な木なの?」


「…関係ないでしょ。じ、ジョウロ貸して、水やるから。君はもう用がないならどっか行って。」


「用は、一応あって……その、犬飼のことなんだけど。」


 言うならこのタイミングしかない。ジョウロから出た水が綺麗な弧を描いて花壇の上に降り注ぐのを見ながら、心を決める。


「米山君、犬飼のこと誤解してるんじゃないかな。あいつ本当に、すげー努力してんだ。」


「努力?そんなの…そんなの、絶対に僕の方がしてる。それなのに平然とした顔で人の上をと、飛び越えていく。あいつはいつもそうだ。」


「『いつも』って、2人は知り合いなの?」


「別に…全国模試とかの順位表に、名前が載ってたのを見ただけ。」

 

 えっ、それだけ?うっかり出そうになった言葉を寸前で飲み込む。


「ならやっぱり誤解してると思う。犬飼は勉強ができない俺のこと見下したことなんか無いし、調子乗ってるとこも見たことないし。

あんなに頭良いくせに、どっかボケてるっつーか、抜けてるところもあってさ。えっと、それが妙にクセになるっていうか……とにかく、一緒に居て楽しい良いやつなんだよ。」


 うーん。必死に口を動かした割には、説得がド下手くそな自覚はちゃんとある。それを体現するかのように、米山君の眉間にはしわが寄った。


「何が言いたいの?というより…なんで君がわざわざそんなこと言いに来るんだ。た、他人の事だろ。」


「そりゃあ、友達だからだよ。米山君だって、友達が覚えのないこと言われてたら止めるだろ。」


「………….。」


「犬飼って表情変わんないように見えて色々考えてる。昼のことも、すげえ気にしてたよ。」


 ―――少なくとも、ハンバーグを粉砕するくらいには。それに、犬飼は動揺すると固まるタイプっていうのも入学式の時に検証済みだ。平然として見えたというのも、そのせいが大きいだろう。

 返事がない米山君の横顔を見ると、犬飼にあったよりも濃い隈が目の下に確認できる。


(『僕の方が絶対してる』って言うくらいだ、米山君も勉強頑張ってんだ。…俺、ちょっと言い過ぎたかな。)


 花の質問大会から折角少し喋ってくれるようになったのに、また心を閉ざされてしまいそうだ。一旦話題を変えようと水滴が輝く花々に目を向ける。


「水やりって大変だね。毎日やってんの?」


「………まあ。」


「そうだ、タンポポは植えてないの?俺好きなんだ。」


「そんなジミな雑草植えてどうすんの。」


「ざっ……そっかぁ。」


 そっかー雑草なのかタンポポって!?いや、でも花には違いないよな。うん。

 ちなみに虫はダンゴムシ、花はタンポポ、鳥は雀というのが俺のイチオシだが、昔母さんに「ウチの子ジミ専」と言われたことがある。


「…入れないんだよ。」


「えっ?」


「雑草はどうしたって花壇の中には入れない。ここには綺麗な花を咲かせて、人気がある植物だけが入れるんだ。」


「雑草にだって綺麗な花があるだろ。」


「あれはウジャウジャ生えて他の植物の栄養まで奪い取る。いらない草だよ。」


 米山君はしゃがむと、花壇に生えていた細い草を次々と取り除いていく。


「それで、花の中でも特に綺麗で貴重な花は、鉢に単体で植えられ大事に育てられる。」


「あー…胡蝶蘭みたいにデカくて高いやつとか?」


「そう、選ばれた花。だけど、これも花壇には入れない。」


「うーん?」


 今度は俺が眉を潜める番だった。雑草は花壇に入れず、花壇の花達は鉢に入れず、鉢で育てられるような貴重な花は花壇に入れない―――米山君は何が言いたいんだ?


「んーと、花社会もなかなか難しいんだね?」


 精一杯考えて出した返事だったけど、米山君は目元1つ動かさないまま、また唇を前歯で噛んでいる。


「それ癖?やめなよ、血が出ちゃうよ。」


「……君はなんであいつなんかと友達になったの。」


「えっ、犬飼のこと?入学式の時に隣の席でー、いや、ポイントはTVのリモコンだったか…?」


 筆箱ではなくリモコン片手に固まっていた犬飼を思い出すと自然と口元がにやける。


「いやーほんと犬飼は…あれも二面性っていうか、ギャップだよなぁ。米山君も犬飼とちゃんと話せば勉強家同士、気があうと思うよ。」


「………んで…」


「米山君?…ちょっと、マジで血出てるって!」


 米山君の唇は噛み締めすぎて血が滲んでいる。慌てて鞄からティッシュを取り出して差し出すけれど、俯いた顔は上がらない。


「なんで…なんであいつばかり……僕と同じだと思ってたのに。」


「よねや…」


「うるさい!うるさいうるさい黙れ!みんな黙れよ!!」


「え…お、落ち着けって、どうしたんだよ。」


 肩を震わせる米山君の青白い肌からは汗が吹き出し、さらに強く噛み締めた唇からは、血が染み出していくではないか。


「いつもそうだ…気味が悪い、おかしいって皆笑いやがって雑草のくせに、こんなに必死にやっても、どうして、どうして……」


「よ、米山君、」


「君だって本当は僕のこと馬鹿にしてるんだろ。気持ち悪いやつだって思ってるんだろ!」


「!」


 昼間の鋭さはどこへやら、今にも泣きそうな米山君の目が俺を見た。周囲から蝉の声が遠のいた代わりに、あの大きな木が葉を揺らす音が、なぜか近くに聞こえている。


「…思わないよ。」


「嘘だ!嫌だと思ってる。」


「思ってないよ、米山君。」


「嘘、嘘だ…!」


「嘘じゃない。でも、血が出てるのは痛そうで嫌だから、これで押さえて。」


「嘘……」


 出来るだけ瞬きをせずに米山君の目をじっと見返すと、先に相手の目が揺れた。

 どのくらいそうしていただろうか、眼球がカピカピに乾いて涙が浮かんできた頃―――少し躊躇うように伸びた手が俺の手からティッシュを受けとり、唇に当てる。


(あ、ちょっと…落ち着いてきた、かな?)


 ひとまず良かった。変わらず流れている汗も拭いてあげようと米山君の頬にティッシュを当てると、小さく声を上げて立ち上がってしまった。


「あ、ごめん、嫌だったよね。」


「………。」


「それと、たぶん俺が気を悪くする事をたくさん言っちゃったんだよな?それもごめん。でも本当に、犬飼の誤解を解きたい気持ちはあるけど、米山君のこと嫌だとかは思ってないから。」


 ただ少し気になるのは、米山君の感情の起伏が激しいことだ。元々どんな性格の人物か知らないけれど、周りの生徒からは一度もそんな話は聞かなかったし、皆昼の件には驚いていた。


(ヒステリーとか癇癪っていうより、あの汗と震えの感じは怯えてる…に近いような。この時期のせいか?とすると、テストのストレス……)


 ちょっと悩んでから再び鞄を拾い上げる。鞄の横側にぶら下げている紐を外して米山君に差し出すと、今度はすぐに受け取ってくれた。


「…な…何これ。ヒヨコ?」


「そそ、可愛いだろ。ヒヨコ型の防犯ブザーなんだけど、一応対ヴィズ用なんだ。」


「知ってる、特殊音波のやつ…でも効果に確証はないし、今時こんな製造番号古いやつ使ってる学生いないんじゃない。しかもヒヨコって。」


「うっそマジで?陸が音はまだ出るからセーフって言ってたんだけど、アウトかな?」


 この黄色いヒヨコ型のブザーは、ピンポン球くらいのミニサイズで、小学生の時に学校から支給されたものだ。

 去年までヴィズに出くわすなどと思ってもいなかったから、身につけたり買い替えるという発想はなかったけれど、高校入学を機に陸(黒いペンギン)と一緒に付け始めたのである。


「さあ…それで、これがどうしたの。」


「米山君に持っててほしいんだ。」


「なんで?い、いらない。学園内なんだから必要ないでしょ。」


「そうだけどさ、テスト期間だし万が一ってこともあるだろ。米山君目の下の隈すごいし、疲れてるように見えるし心配で……お節介かもしれないけど、お守りだと思って。」


 顔の前で両手を合わせてそう言うと、米山君はヒヨコをまじまじと見つめてから呟いた。


「…なんで、どうして僕なんか心配するの。他人だろ。」


「はは、さっきと同じだけど、やっぱり友達だからかな。うざいかもしんないけど、俺にはもう他人だとは思えないよ。」


「と、友達……?」


「うん。えっと、迷惑じゃなければ。」


「……迷惑… じゃ、」


 白い手がヒヨコをぎゅっと握りしめ、まだ薄っすらと血が滲む唇が動きかけた時―――米山君は弾けたように背後を振り向いた。彼の視線の先を追えば、あの大きな木がザワザワと音を立てて揺れている。


(おっ、いい風…………じゃない?あれ、いま全然風吹いてないけど、なんであの木は揺れてるんだ?)


 いくら感じようとしても、やっぱり風は吹いてない。汗が伝う首を傾げていると、米山君はゆっくりこちらに向き直って―――丸眼鏡の奥にある目が、俺を睨んだ。


「そう言うことか、だ、騙されないぞ。」


「へっ?」


「都合のいい言葉ばかり言って、僕を騙す気だな。所詮君もうるさい雑草供と一緒なんだろ。いらない、いらない、そんな奴はいらない!!」


 な、なんだあ?そう言うことってどういうこと?

 落ち着いたと思っていたのに、また急に早口で喋り始めた米山君は顔を歪め、頭を掻きむしった。


「だ、騙す?俺が米山君を?なんの話?」


「だってそう言ってた!君が僕を騙してる、気をつけろって!」


「誰が言ったんだよ、そんなこと。ここには俺しかいないだろ。」


「うるさいうるさい、友達なんて嘘だ!!」


「嘘じゃないってば。ほらまた血が出てるから、落ち着いて!」


「触るな!」


 米山君に向かって伸ばした腕は掴まれ、振り払われてしまった。見かけから想像した以上の強い力に驚く間も無く、地面に尻もちをつく。

 うおっ、コンクリートくっそ熱いな!?マジで目玉焼きでも出来るんじゃないかってくらいの温度だ。

手のひらを地面から浮かせることに必死になる一方、頭上から「あっ…」という声が聞こえた。


「そ、そっちが悪いんだからな。僕は友達なんてい、いらないし……もう全部遅い。これ以上僕に関わらないで!」


「米山君!!」


 走り去る背中を見送るのは、今日何度目だろうか―――俺と同じく地面に転がるジョウロを拾い上げ、ため息をつく。


(どうしてこうなるんだ。俺が米山君を騙してるって?…全部遅いって、なにが?)


 思い返せば米山君の言葉は不可解なことばかりだ。一時は友達になってくれる気がしたのに、次の瞬間には鋭く睨まれる。一体何が米山君の心を動かしてるんだろう?

 

 花壇を立ち去る寸前、木を見つめる米山君の姿を思い出し、もう一度後ろを振り返る。

 風がなくてもあんなに揺れていた葉は時が止まったかのように静かで、重い影を落とし続けていた。


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