⑤
ぶつり、と皮膚が破れる音がした。
「いっ……!?」
首から鋭い何かが抜かれ、すぐに温かくて湿ったもので塞がれた。じゅる、と液体をすするような音がして、身体からゆっくり力が抜けていく。
(……あれ、変だな、まさか身体までバターになったのか?)
じんわり痺れていく頭が、すっとんきょうなことを真面目に考える。ただ分かるのは、首に男の柔らかい髪が、体温が、息が―――唇があたる箇所が、すごく熱い。
(外はこんなに寒いのに、おかしいな。こんな寒い中で、俺はいま、何をされてるんだ?)
なんで―――――なんで、血を吸われてるんだ?
「えええええええええええ!!!???」
「!?」
夜の公園を、俺の渾身の叫びが突き抜けた。俺の首元から離れた男は、一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに不機嫌そうに血の付いた口元を歪ませる。
「うるっせーな、喉噛みちぎるぞ。」
「いやいやいや、何おま……はっ?なんでお前俺の血吸ってんの!?ラミアかよ!?」
「ラミアだけど。」
「だからラッ!……え、ラミア、なの?」
男は返事しない代わりに口元を指で拭い、さらに指についた血を舐めとった。恐る恐る俺も自分の首元に手を持っていくと、ぬるっとしたものが指につく。……ま、マジで血が出てるんだけど。これどうしよう、急いで病院に行かないと、大量出血で死ぬんじゃないか?
「ちょ、ここ、これ、どどど、」
「何の生き物だお前は。そんなのすぐ止まる。」
……あ、ほんとだ。もう一度首に触れてみると、溢れた血は急激に乾いて皮膚にこびり付いているが、新しい出血はないようだ。
男は息を吐きながら立ち上がった。…想像よりも背が高い。長い脚の膝まで丈があるコートの雪を払い落とすと、再び俺を見下ろした。
「もういいわ。次からもっと考えて行動しろ。じゃーな、馬鹿。」
「お、おい!俺は!?」
「知るか。這って帰れば?」
……え、あいつ本当に帰ったんだけど。
1回も振り返ることなく颯爽と立ち去っていきやがったんだけど。人の血を吸うだけ吸って、帰ったんですけど!?
いますぐ追いかけてブン殴ってやりたいのに、まだ足に力が入らなくて立ち上がれない。さっきまで熱かった身体はウソのように、寒風と雪に晒されて冷えていく。
「し…信じらんねえ……。」
……これぞまさに、人生2度目の最悪な日だ。神様、あんまりです。
もしかして、今朝カップルにかけた呪いのせいだろうか。『人を呪わば穴二つ』なんて言うが、まさにたったいま俺の首には穴が二つ、あけられたというワケだ。マジでほんとに笑えない。
「はっくしゅん!……くそラミアーッ!次会ったら絶対殴ってやるからなああ!!」
―――やっぱりラミアと関わると、ロクなことがない!!




