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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
きっと、誰かの神様
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「―――秋人!」


「うおぁい!?」


「やっぱ部屋変わった方がいい。俺も一緒に山岸さんに頼むから。」


「え!?なんで!?」


 自分の勘違い言動に爆散してしまいたい願望は、陸の切羽詰まった顔を見たら吹き飛んだ。

 陸の手が俺の肩をしっかりと掴む。


「こんな人と同室なんて心配だし、ラミアは信用できない。訳を話してオリジンと同室にしてもらおう?」


「ラミアは信用できない…って、お前それは言いすぎじゃ、」


「おっと、人畜無害って顔しといてようやく本性が出てきたな。」


「うるさい。そっちこそ、隠してるもん全部出せよ。」


(な…なんだこの超絶険悪ムードは。両想いどころか仲悪すぎじゃね!?)


 どうにか止めたいけれど、両者の顔を見比べるばかりで気の利いた言葉1つも思いつかないし、何か言おうとすれば「口出しすんな」とばかりに睨まれる。

 そもそも、なんで2人がここまで言い合っているかの理由が分からないし、俺はどうしたら……ああ、なんか、


(腹立ってきた……!!)


 というか、俺がこれ以上この空気に耐えられない。 チワワが再降臨する前にと、思い立った勢いで大きく息を吸いこんだ。


「いっ――いつまでやってんだよ!!子供じゃないんだからいい加減…に……?」


 ふと、微かな違和感を感じて口を噤む。


 目配せすれば、しんと静まり返った陸と結城先輩も辺りを見渡していた。先輩の視線の先で倉庫の窓がカタカタと音を立てている。

 やっぱり……この足元がおぼつかない感覚は、チワワのせいではない。


「いま揺れてます、よね?」


「…地震か。おいクソ教師、」


「だーれがクソだボケ。全員揺れが収まるまで倉庫から離れてろよ。ハイしゃがめー。」


「うおっ、押さえすぎだって!」


 突然の地震でさすがに笑いから立ち直ったらしい先生は、容赦無く俺と陸の頭を押さえつけた。

 不安定な地面に手をついて見上げれば、先生と先輩は立ったまま真剣な顔で足元を見つめている。


「長いな……。」


 揺れはそこまで強くないけれど、なかなか収まらない。広い中庭と違って教室にいるスズメと犬飼は大丈夫だろうか。


(でも、掃除はもう終わってるはずだ。)


 俺たちは3人とも部活に入っていないから、スズメは寮に帰るだろうし、犬飼も眼鏡がなければ図書室で勉強せずに帰る……よな、さすがに……そうだと思いたい。


 とにかく早く止んでくれと念じながら待ち続け、やっと倉庫の窓が静かになった頃、俺と陸はそっと立ち上がった。


「やっと止まったか。酷い揺れじゃなくて良かったな。」


「うん。でも教室の方は大丈夫かな……俺、もう戻ります。」


「おう、俺も職員室に行くわ。ゴミ箱置いたらとっとと帰れよ。結城と間宮もな。」


「言われなくても帰る、これ以上付き合ってらんねー。」


 陸が何か言いたげだったけど、口を開く前に結城先輩は背中を向けて歩き出した。きっともう、呼んでも振り返らないだろう。


「―――って先生もいつの間にかいないし!あの人マジで神出鬼没だな……陸はこのあとどうするの。部活?」


「いや、今日はもう寮に帰る。昇降口で待ってていい?」


「うん、すぐ行くよ。じゃあ後でな。」


 ゴミ箱を拾い上げ、校舎へと走る。

 

 途中すれ違う生徒たちの「ビックリしたねー」という声が益々不安を募らせたものの、教室のドアを開けてみれば、綺麗に整列した机たちが俺を出迎えた。

 部屋中を見渡す途中で、教卓に置きっぱなしだった鞄の上に『お疲れさまでした。眼鏡は寮で返して、だそうです。』というメモと飴玉が置いてあるのに気づく。


(良かった、2人は帰ってた。物も落ちてないし……教室がこれなら寮も大丈夫そうだな。はー、地震にはビックリしたけど、陸と先輩が言い合うのをやめたから助かった、なんてね。)


 こんな事思っちゃいけないんだろうけど、正直あの重い空気から助かったし―――2人に面識があったということの方が地震以上に驚きかもしれない。


(分かったのはあまり仲が良くないってこと、アレが告白なんかじゃなかったってことと……陸は先輩が『隠してる』モノを知りたがっている、のか?

何があったかなんて、俺が図々しく聞くべきじゃないけど……陸があんな深刻な顔するなんて、滅多にないから。)


 ……いや、違うなとすぐに頭の中で否定する。


 滅多にないどころか、1度しか見たことない―――あれはいつの頃だったっけ。パッと思い出せないけど、確か前にもあったような……俺はそれを見てもう2度とそんな顔をして欲しくないと思ったような、そんな覚えがある。


 ぼんやり考えながら昇降口へ向かうと、靴箱に背をもたれる格好でスマホをいじっている幼馴染の姿があった。


「陸ー、お待たせ。何見てんの?」


「ん、さっきの地震ニュースになってるか検索しようかなって思ってたとこ。」


 どうやら、調べるよりも俺が来る方が早かったらしい。陸はスマホをポケットにしまうと「帰るかー」と笑った。


(よかった、いつも通りの陸だ。)


 ホッとしながら隣に並んで歩き出す。

 玄関と地面を繋ぐたった3段の短い階段を降りた時、陸がまだ段差の1番上に立っていることに気がついた。


「おーい、どうした?」


「んー……気まずいの嫌だからやっぱ言うわ。さっきはごめんな、喧嘩なんてしちゃってさ。秋人ビビってただろ。」


「い、いや!俺こそ盗み聞きなんてして……おまけに変な勘違いして本当にごめん。」


「いいよ、よく分かってないみたいだし。まあその……あの人とは前に色々あってさ、でももう大丈夫だから気にすんな。」


「う、うん。分かった。」


 陸は暗に、これ以上この話題に立ち入ることを拒んでいるように見えた。きっとこの先にあるのは2人の問題で、俺はそこに土足で入り込むべきではない。


「でも、1つだけ聞いてもいい?」


「なに?」


 階段を降りてくる陸を見ながら、俺は焼却炉の側で繰り広げられた会話を思い出す。


「俺さ、中3の時そんなにこの学園に入りたがってたかな。そりゃまともなラミアがいるとこに入りたいーって思ってたけどさ、俺は陸に聞くまで峰ヶ原はあんまり意識してなかったっていうか……。」


 俺はとにかく、おっさんラミアみたいな奴が居ないところ=偏差値が高い高校に行きたいっていうイメージだけを持っていて、たまたま陸が選んだ学校がその条件に当てはまっていたのだ。

 それから俺も親に相談して、私立だけどそこまで学費が高くないって理由で許可をもらったような気がする。マジで勉強大変だったけど。


 実際の通りを告げたものの、陸は「えっ」と目を丸くした。


「嘘だろ?だって進路説明の授業中とかさ、資料配られるといつも峰ヶ原のページ見てたじゃん。他の学校の説明中も……あと、街で峰ヶ原の制服着た人が通るとガン見してたし。」


「……マジで?」


「マジで。なのになかなか志望校が決まんないとか言うからさ、学費でおばさんの許可が出ないのかなって思ってた。けど、その日も峰ヶ原のページ見てたお前に、野球の推薦枠がある話したら…次の日には『俺も行く!』って。」


 ―――今度は、俺が目を丸くする番だった。

 確かに綺麗で広い校舎とか設備の良さは羨ましいな、と思っていたけど、ただそれだけのつもりだったのに。

 なのにそんな、無意識にガン見してたとか……


「なにそれ俺めっちゃ行きたがってんじゃん!はっずかし!!」


「だろー?でもほら、そういうことってあるじゃん。いくら迷っても、心のどっかじゃもう答えは決まってたんだって。」


「昼飯何にするか迷ったけど、結局オムライスにするやつ?」


「あー?……まあ、ウン、そんな感じってことで。」


「おい、いま適当に流しただろ。」


「ははっ、いーだろ別に。無事こうやって2人揃って合格したんだし……。」


 そう言いながらも語尾を濁すのは、何か気になることがあるのだろう。そしてそれが、結城先輩のことだろうと想像するのは簡単だった。


「秋人、やっぱりさ…」


「陸、俺は相手がラミアだからって理由で部屋を変えたりしないよ。今はラミアのことをもっと知らなきゃって思うし、結城先輩にも同じことを思ってる。」


 ……しかも共存宣言までしちゃったし、と胸中で付け足しておく。


「上手くいかないことも多いけどさ、なんだかんだいつも助けてもらってるし―――ああ見えて優しいとこもあるんだ。たぶん。」


「そっか。……だから嫌なんだ。」


「ん?」


「いや、なんでもないよ。」


「そう?……それにしても『ラミアは信用できない』なんてお前らしくないぞ。どうしちゃったんだよ。」


 歩きながら過去を反復してみるが、俺が知る限り陸の口からラミアを否定するような言葉を聞いたのは初めてだ。

 そりゃ俺を噛んだおっさんラミアには怒っていたけど、ちゃんと他のラミアとは区別出来ていたし、既にラミアの友達も多ければ、献血だって問題なくやっている。―――だからこそ、あの言葉を聞いたときは本当に驚いた。



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