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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
きっと、誰かの神様
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(なんでスズメと犬飼にタッグを組まれると、抵抗できないんだ?)


 眼鏡を少し下にずらすことでどうにか視野を手に入れた俺は、両手でゴミ箱を抱えて廊下を進む。


 追い出されたAクラスの方から「犬飼君、それはカタツムリじゃありません!!」とスズメが叫ぶ声が聞こえるけど……大丈夫だろうか。こんなに眼鏡の度が高いということは、犬飼はいま周りが全然見えていないはずだ。


(犬飼、こんなに視力が落ちるほど必死に勉強してきたんだろうな。俺に何か出来ることがあればいいのに。)


 俺のトラウマ然り、犬飼の理由然り―――人にはみんな、色々事情があるものだ。そして、それは陸だって同じだろう。いくら幼馴染とはいえ、俺に言いたくないことは必ずある。


(……さっさとゴミ捨てて教室に戻ろう。)


 そう思って顔を上げれば、前方から見知った人達が歩いてきていた。向こうも俺に気づいたらしく手を振ってくる。


「おっ、マジで掃除してんじゃん。日野ちゃんお疲れ!」


「朝原先輩、瀬谷先輩!」


「丁度会えて良かった、1日経ってどうかなって心配してたんだ。園田先生が日野君なら教室で掃除の刑を受けてるって教えてくれてね。」


「俺なら大丈夫ですよ、ほら、先輩たちの手当てのお陰で顔も腫れてないでしょう?」


 ゴミ箱で指をさせない代わりに左頬を向けて見せる。すると、予想とは違った具合に驚いたのだろうか、顔を近づけてまじまじと見られるもんだから変に緊張する。


「へー……千隼の言ってたとおりだぜ。」


「本当だ、酷くならなくて良かったよ。湿布がよく効いたんだ。ね?」


「? はい、本当にありがとうございました!」


 ゴミを溢さないよう首だけで頭を下げれば、2人ともにこっと笑って頷いた。


「それはそうと、日野ちゃんって眼鏡使うんだ。」


「いえっ、これは犬飼ので……その、遊びで付けてるんです。」


「遊び?お互いの持ち物を交換する的な?」


「へえ、1年生は面白い遊びするね。眼鏡似合ってるよ。」


「いやー……恥ずかしいです、あはは。」


 なんか誤魔化せたのはいいけど、理由がお子様すぎてマジで非常に恥ずかしい。1人で悶々としている一方で、「犬飼君のねぇ…」と眼鏡をまじまじと見つめていた朝原先輩が声をあげた。


「そうだ!じゃあオレのも貸してやるよ。ちょっとごめんな、」


「えっ?」


 何をするかと思えば、朝原先輩は自分の髪からヘアピンを1本抜いて―――俺の前髪をそっと留めたではないか。


「おーいいじゃん!前髪分けると雰囲気違う、可愛い!」


「かわ!?ちょ、コレどうしたら――」


「へえ、なら俺はどうしようかな。……ああ、いっそこれ変えてみる?」


「待って、瀬谷先輩!?」


 俺の制服に手を伸ばした瀬谷先輩は、緑色のネクタイを静かに解いてしまった。そして、同じく解いた自分の青色のネクタイを俺に結び直す。


「はい出来たよ。これで日野君も2年生、なんてね。」


「おおー、一気にクオリティ上がったんじゃね?やっぱ何事も本気にならないとな。」


「俺、仮装コンテストしてるわけじゃないんですけど!」


「そう?でも付けた側としてはなかなか……うん、良い感じだよ。ネクタイは明日返してくれればいいからさ。」


「や、そういう訳には、」


「ヘアピンはあげるな。ゴミ、重くねーか?手伝う?」


「あっ、いえ、平気です。」


「そっか、じゃあ気をつけてな。」


(えー!俺このままで行くの?いまどんな格好!?しかも見送ってくれてるし!!)


 なんだか楽しそうな2人の手前、外すに外せないまま廊下を後にする。

 ……気が付いたのだが、意外なことにクラスメイトの側を通りかかってもバレないどころか、ネクタイの色を見て道を譲ってくれるではないか。これはもしかして、変装の効果アリってことなのか?


(ち……ちょっと楽しいじゃねーか…!ピンはともかく、ネクタイと眼鏡は今外しても持てないし、ゴミを捨てるまでこのままにしとこ。)


 それでも万が一バレた時を考えると恥ずかしいので、ゴミ箱に膝を打ち付けながら競歩のごとき速さで移動する。

 そして焼却炉にたどり着くと、火の気のない中(結局眼鏡は防護としても必要なかった)にゴミを放り込んで一息ついた。―――これでミッションクリアだ。



「よし、帰…」


「……い、早くしろって!」



 微かに聞こえた声に、踏み出そうとした足が止まる。



(いいい今の声はもしや………陸!!?)



 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない―――けど、そうだったらやばい!!

 

 急速に近づいてくる声と足音に、慌てて側にあった倉庫の裏に駆け込んだ。

 抱えていたゴミ箱を置き、壁から半分顔を出して様子を伺えば―――寸前まで俺がいた場所に来たのは予想通り、陸と結城先輩だ。


「なんであんたといると女子が集まる?ロクに話も出来ない。」


「知るか。もう移動しねーからな、面倒くせーし……俺はお前にする話なんてない。」


「あんたが無くても俺は山ほどあるんでね!」


(ああああ待って陸、俺がいなくなってからにしてー!!)


 咄嗟に隠れてしまったけれど、こんなことなら堂々とすれ違えばよかった。これでは本当に盗み聞きになってしまうじゃないか!


(今ならまだ間に合うかもしれない。……でも、それで空気を壊したりしたら?)


 まさに今から告…大事な話をします!って時に、コソコソ出てくる生徒……しかもよく見たら幼馴染……想像しただけでも最っっ悪だ。


(そ、それならここでゴミ箱を被って耳塞いでるほうがマシだ!要するに俺が2人の話を聞かなきゃいいんだろ!?)


 ああもう、それ以外にいい方法が思いつかない。この脳みそバターが!!……って俺は結城先輩か!


 焼却炉は使われていなかったはずなのに、辺りに漂う煙の臭いが焦りをあおる。

 陸が何かを言う前に、後ろを向いてゴミ箱を掴み、それを被ろうとして―――


 煙草を咥えたまま固まっている園田先生と、バッチリ目が合った。



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