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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
共存と献血への道
34/82


「共存作戦?……って、何するんですか?」


「そうだなーまずは千隼に嫌われてないことが分かればいいんだろ?」


 献血が終了し、安静時間に入った俺は保健室にずらりと並ぶベッドへと移動する。

 朝原先輩は俺が横たわった後、ポケットから正方形の紙片を取り出した。


「そこで、じゃーん!この絆創膏を日野ちゃんの首に貼ります。」


「…………なんで?怪我してないのに?」


「うだうだ話するよりも、こっちのほうが手っ取り早そうだし――あとはまあ――うん、オレに任せとけって!」


「いま絶対途中で説明省いたでしょ!」


 朝原先輩は俺のことを完全に無視し、首に絆創膏を貼り付けた。首の左側に手をやると、1部分だけ肌とは違う感触がする―――いつの間にこんなものを、と思ったが、どうやら棚から盗んできたのはこれのようだ。


「これ貼ってることが何になるんですか?」


「んー、お守りだよお守り。神様ーどうか2人がケンカしませんようにーって。」


「てきとう!!」


「まあ制服の上着でほとんど見えないからいいじゃん。今日1日我慢しろよ、ジュース買って来てやるからさ。」


「こどもか!!」


 俺の追求を笑顔でのらりくらりと躱した先輩は、本当にジュースを買いに保健室から出て行ってしまった。


「任せとけって言ってたけど……ほんとに大丈夫なのか?」


 若干不安を抱えながら寝返りを打つ。

 ―――流れとは言え、まさか自分から結城先輩のことを知ろうとする日がくるとは夢にも思わなかった。


(もし、もし俺が嫌で部屋に帰って来づらいとかだったら申し訳ないし。今よりちょっとマシになればいい……それだけだぞ。仲よくなろうとかそんなんじゃないから。)


 俺も結城先輩が部屋に帰ってくるたびに緊張するし、気まずいし……それに、授業を休んだうえ職員室であんな話をした以上は「相手が結城先輩だから共存なんて無理です」というわけにもいかない。


(そういえば、前に俺がオムライスが好きって言ったら笑ってたっけ。ちゃんと笑ってんの見たの、アレが最後だな。瀬谷先輩や朝原先輩と一緒にいるときは楽しそうなんだけど、やっぱ俺じゃ―――こんな絆創膏を貼ったくらいじゃ、どうにもならないよ。)


 深いため息を吐いて布団にもぐる。

 山崎先生も席を外しているので、保健室には俺以外誰もいない。静かだし、ベッドはカーテンで仕切られているからくつろぎ放題だ。


(ねむ……朝原先輩が帰ってくるまで、ちょっとだけ寝よっかな……。)


 たまに遠くの方から聞こえる生徒たちの声に耳を傾けながら、暖かい布団に包まれてウトウトする。

 ……あー、俺今すごい幸せ。このまま布団と一体化してもいい……




◆◆◆



 ―――カタン、という小さな音がした。じわりと意識が浮上する。


(ん…………寝て、た?)


 ぼんやりと焦点の定まらない視界を見つめながら、数秒後にやっとここが保健室だということを思い出す。


(いま、何時だろ。)


 もう一度寝てしまおうぜ、と囁く睡魔にどうにか抵抗し瞼を押し上げていると、保健室のドアがスライドする音がした。


(ああ、朝原先輩が戻ってきたのかな……起きなきゃ。)


 ……でも、身体が重くて起き上がれない。

 こちらへ向かって歩いてくる足音を聞きながら、もうちょっと、もうちょっとだけ寝ていたいと、布団を頭までかぶる。


(朝原先輩ごめんなさいー、俺は睡魔に負けます……奴は強すぎた……。)


 カーテンを開けて布団と一体化してる俺を見たら、先輩は大笑いするんだろうな。そしたらたぶん、その声が俺に取りついた睡魔なんか吹き飛ばしてくれる。


 そのときの想像をしてちょっと笑いそうになりながら、またゆっくり眠気に身を任せた………が。


(あれ……入ってこない。)


 朝原先輩はなぜかカーテンの前で足音を止めたまま、入ってこようとしない。


(もしかしたら、俺が寝ているのに気づいて迷ってるのかな?)


 もしそうなら申し訳ない。どうぞ入ってくださいと声をかけたほうが良いだろう。

 布団から頭を出して、口を開きかけたとき―――カーテンの向こうで、フッと息が漏れた。





「 噛まれた腕、大丈夫?」




「――――っ!!?」




 飛び起きて、カーテンを思い切り開ける。

 ……しかし、そこには誰もいない。静かな部屋に、同じようなベッドが並んでいるだけだ。


「……はっ……はあっ……だ、誰だ……!?」


 俺の声が響いただけで返事はない。それどころか、物音ひとつしない。


(おかしい、確かに、そこに誰かいたのに!)


 ―――いま、いま一体何が起こった?全身の皮膚に鳥肌が立っているのに、冷や汗が止まらない。

 ベッドの上で震える腕を抱きしめたとき、また保健室のドアが勢いよく開いた。


「日野ちゃーん、ごめん遅くなった。そろそろ教室に……って、どうしたやっぱ具合悪くなったのか!?血、血飲めば治る!?」


「い、いい、いまそこに誰か、」


「えっ、オレら以外誰もいないけど……日野ちゃん?」


「なんで、腕…腕のこと知って、」


「日野ちゃ―――おい、オレのこと見ろ!!」


 誰かが俺の頭を掴むと、鼻がくっつきそうな距離で俺の目を覗き込んだ。

 ずっとぐるぐるとさまよっていた視点が、宝石みたいに輝く瞳に惹き込まれる。


「………あ、朝原先輩。」


「……うん。はは、やっとこっち見たな。どっか具合悪いところは?」


「無い、です。」


「じゃあ、なんでそんな顔してんの。嫌な夢でも見た?」


「夢?―――あ、そうか、夢だったのかな。俺、寝てたし…ってすみません!ほんとに寝ぼけてただけかも、」


「夢でもいいから、何があったか話せるよな?」


 優しい声に頷くと、「よし。」と朝原先輩の顔が離れた。いつの間にか鳥肌も震えも収まっている。


 しばらくして落ち着いてきたら、本当に今のが夢だったのか、現実だったのか分からなくなってきた。こんなに恐怖を感じたのに―――実際には、カーテンの向こうには誰もいなかったんだから。

 夢であってほしい。けど、夢だったら……死ぬほど恥ずかしい……!!


「ああああの、マジで夢かもしんないんですけど!いまさっきそこに誰か来て……。」


「うん。」


「か……噛まれた腕は大丈夫かって、聞かれました。」


「噛まれた腕?……って、職員室の時してた話だよな。そこ今も痛かったりすんの?」


 俺は右腕のシャツの袖を捲ると、ちょうど肘と肩の中間を指さした。


「いえ、全然。軽く噛まれただけだったらしいんで、ほらここ、薄く跡が残ってるだけであとは何ともないです。」


「これか……軽く噛んで、跡が残る……ね。」


「??、今なんて言いました?」


「んーん、なんでもねーよ。で、声は女だった?それとも男?」


「声は………すみません、あまりよく思い出せない。でもよく考えてみれば、この腕のことを知ってるのって俺の仲良い友達2人と、幼馴染くらいだし……ま、マジで夢だったんだと…思います……。」


 恥ずかしいわ情けないわで顔から火が出そうだ。眉間に皺を寄せている朝原先輩に向かって、土下座する勢いで頭を下げる。


「お騒がせしてすみませんでした、俺は大丈夫なんでこのことは忘れてください!」


「………ふーん。まあ、日野ちゃんがそう言うなら。でも、これ飲み終わったら教室まで送らせてくれよな。」


 そう言うと、朝原先輩は俺にりんごジュースを差し出した。


「あ、ありがとうございます。」


 ほんの少しだけど俺より身長低いし、髪はピンクだし、小さい顔に大きな目という女子が羨むような容姿をしているのに……この朝原 圭って人は。


「先輩……男前すぎますよ。」


「へへっ、そーだろ。オレは女子に大人気・学園一のおとこだからな!日野ちゃんもオレに惚れていいぜ、守ってやんよ!」


 思わず笑ってしまったけれど、なるほど、いまなら女子が騒ぐ気持ちがわかる。


 もしどこかにラミアのことを『ヴィズと大差ない血を吸う化け物』と呼ぶオリジンがいるなら、俺は今すぐこの笑顔が眩しい男前を見せてやりたい。



























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