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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
共存と献血への道
33/82

 保健室に行くと、入学式からお世話になっている山崎やまさき先生が「園田先生から聞いてるよ」とすぐに献血の準備を始めてくれた。

 オリジンとして生まれてから、腕に針を刺すのはもう何回目だろうか。隣に座る朝原先輩が「痛い?」「この機械でやんの?」などと言いながら興味津々に見てくる。


「こんなに血抜いて、具合悪くなったりしねーのか?」


「たまになる人もいますけど、もう何度も義務献血してきましたから慣れてますよ。」


「そっか、一定の年齢まで定期的に献血するんだっけ……。こうして俺たちのために血を採ってくれてるのを見るとさ、口が裂けても『食料』だなんて言えねーよ。」


 「馬鹿だよな、そいつら。」と呟く朝原先輩はどことなく元気がない。普段明るく笑っている印象が強いせいか、一気に寂しい空気になる。……話題を変えよう。


「あ…朝原先輩は園田先生と仲がいいんですね。」


「前に雅人が言ってたと思うけど、去年オレたちの担任だったんだ。3人ともしょっちゅう怒られてたけど、その分仲が良いっつーか、気にかけてくれてるって感じかな。オレの頭も、教頭から何度かばってくれたことか。」


「なかなかのピンクですもんね。あ、眉毛も染めてるんですか?」


「んーん、これオレの地毛なんだよね。」


 ―――えっ、マジで!?確かにヘアピンで留められてる髪は生え際もピンクだし、眉毛1本たりとも黒い毛は見当たらないけど……地毛がピンク色ってアリなの!?

 思わずガン見していると、先輩は堪えられないといったように噴き出した。


「なーんつって、冗談だよ!これはオレのアイデンティティーだから変えないんだ。」


「ア、アイアデ…?」


「それよりさ、日野ちゃん吸血は嫌だって言ってるけど、千隼に吸血されたんだろ?その時はどうだったの?」


 なんで瀬谷先輩も朝原先輩もそのことを知ってるんだ。結城先輩から聞いたのか?


「……あの時はいきなりすぎて、怖いよりもビックリしました。ヴィズから助けてもらったことには感謝してますけど……結城先輩って普段からあんなに急に吸血するんですか?」


「いや、そんなに腹が減るほど吸血する相手には困ってないしな。」


「……でしょうね。結城先輩、たまに部屋で会うと香水の匂いしますし。」


「え、千隼って寮に帰ってんの?」


「はい。……3日に1回くらい、夜少しだけですけど。」


 そう言うと、大きな目をさらに大きくしていた朝原先輩は、にやーっと顔いっぱいに笑みを浮かべた。


「へぇーマージかぁー。帰ってきたらどんな感じ?なんか話す?」


「いや話すっていうか、こないだは鍵かけるの忘れてて怒られました。」


「はっはぁー!心配性なやつめ。」


「ですよね、寮なんだから泥棒なんて入らないのに。」


「いや……まあ、そうだな。でもさ、あいつ去年は半年に1回くらいしか帰ってなかったんだぜ。それを今じゃ定期的に、ちゃんと夜にねぇ……通りで女子が…」


 半年に1回って、それじゃ寮を借りてる意味ないじゃん。同室者は3年生だったらしいから、さぞ勉強し放題だったに違いない。

 

 ……それにしても、ブツブツ独り言をいう朝原先輩はなんだか楽しそうである。


「でもいつも嫌味言われて、言い合いみたいになるし。俺、先輩に嫌われてると思いますよ。」


「そーなの?日野ちゃんはやっぱいきなり吸血したこと怒ってる?」


「えっ、俺ですか?……そりゃ腹立ちましたけど、代わりに命助けてもらってますし、一応感謝もしてます。でも、周りにとっては吸血なんて当たり前なのに、俺が『くそラミア』って大騒ぎしたから、結城先輩怒ってても仕方ないかなって。」


 学園に入ってから、吸血と献血がいかに世間では『あたりまえ』かということを知った。ラミアの学生の中には「ヴィズを倒してもらっておいて、吸血したら怒るなんておかしい」と言う人だってたくさんいるかもしれない。

 では、偶然助けた人間が大の吸血嫌いだったせいで、くそラミア呼ばわりされた結城先輩はどんな気分かと想像すると、そりゃ顔を見るたびに嫌味の1つくらい言いたくなるだろうなと思う。


 だから、最近ではあのことを思い出すと腹が立つ反面、感謝もしてるし……罪悪感もあるのだ。


 俺の気持ちが沈む一方で、朝原先輩はしばらく「くそラミア…!」と俯いて肩を震わせていたが、急に立ち上がると奥で作業している山崎先生に見つからないように忍び足で歩き出す。そして、棚から何かを取り出して戻ってきた。


「だーいじょうぶだって!千隼はそんなことじゃ怒んないよ。むしろ怒ってたら一切日野ちゃんに関わらないからね。」


「そうでしょうか……。」


「そーそー!でも、そうだなぁ……さっきの話と同じでさ、取り合えずアイツのことを『知って』くれれば、日野ちゃんなら上手くやっていけると思うぜ。せっかく同室なんだし、2年間ずっと今の感じのままじゃ気まずいだろ。」


「た、確かにそれはすごく気まずい……ですけど、結城先輩を知るっていってもどうやって?1ヵ月経ってもまだ名前と、食べ物の好き嫌いしか知らないレベルですよ?」


「えっ、食べ物の好き嫌い?なんて言ってた?」


 少し早口になりながら、先輩はぐっと顔を近づけてきた。


「好きなものは無くて、嫌いなものはオレンジジュースだそうです、けど。」


「……へえ……そっか、千隼はそう言ったんだな。」


「朝原先輩?」


 先輩は急に押し黙ると、天井を見上げながら何かを真剣に考えているようだったが―――またこちらを向いた時には、何事も無かったように笑って俺の肩を叩いた。


「よし、じゃあ千隼と日野ちゃんの『共存』作戦―――やってみようぜ!」



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