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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
共存と献血への道
30/82


「はい、じゃあ今日の歴史の授業は『ヴィズ』についてです。中学でも習ったと思うけど、それよりも深く掘り下げて学びますからね。」


「「はーい。」」


 藤井先生の耳触りの良い声に生返事をしながら、俺は窓へ目をやる。

 この晴れ渡った空が広がる外へ出れたら、さぞ気持ちがいいだろう。こうしてずっと座って睡魔と戦っているよりもよっぽど有意義だ。


(今日の昼は外のベンチで食べようって、犬飼とスズメに言おうかな。)


―――俺達がこの学園に入学してから、1ヵ月が過ぎた。


 校内や寮内を歩いていても「お姫様抱っこの子たち」と噂されなくなってきたし、窮屈な机の下でうずうずと足踏みをする俺の足はもう、松葉杖や包帯は必要ないほど良くなっている。


「次は23ページを開いてね。誰か読んでもらおうかな……じゃあ、犬飼君。」


「はい。」


 藤井先生に指名され、俺の隣の席の犬飼が立ち上がった。

 睡魔に負けそうになっていた俺は急いで背筋を正す。犬飼は一瞬俺に目をやった後、教科書を読み始めた。


「『ヴィズ』は古くから人間と共に存在し、過去の文献にも『呪・霊・病魔・疫病神・妖・死神』など様々な名称で記されている。

発生の経緯や個体数などは未だ不明確であるが、その異形の存在は人間を襲い、時には病や厄災を運んでくると言われている。そのため、現在の名称『ヴィズ』には『with』と『virus』の2つの意味が込められている。」


 おお、今のよく噛まなかったな。相変わらず犬飼はどんな長文でもスラスラと読んでしまう。

 ただ、抑揚が無さすぎるため、国語で長い詩を朗読させたときはお爺ちゃん先生が「念仏じゃん…」と呟いたのは記憶に新しい。


「はい、ありがとう。ヴィズに関しては『夜行性である』『人間の心の弱さに惹かれる』『災厄が具現化したもの』など諸説ありますが、人間を襲うことや病を振り撒く元凶であることは、皆さんも知っていますね。

去年も新型ウイルスの流行のおかげで、何度も学級閉鎖にあいました―――」


 ぼんやりと目を向けた教科書には、松明たいまつを持った人たちが黒いもやと対峙している古い絵が挿絵として載っている。


(本当に、ヴィズって昔からいたんだな。)


 その名の通り、ある意味こいつらも俺達と『共存』してきたということか。人間を襲う上に、たびたび新型のウイルスや感染症を流行らせるというはた迷惑な奴らだけど。

 もし、俺達人間に『ラミア』という新しい種族が生まれてなかったら、ヴィズを倒せないわ、病気への抗体を身に付けられないわで大変なことになっていたに違いない。


(その代わり、ヴィズもだんだん進化してるのか?俺が会ったのは、この絵のもやよりよっぽどハッキリした獣だったし……絶対この『陰陽師』っていう弱そうな人じゃ倒せないだろうし。)


 『過去にヴィズと対峙した人物の例』の挿絵では、着物を着た色白の男の人が、星に似たマークが描かれた紙を持って立っている。

 ……センジュツ、ゴボウセイ、シキガミ?本当にこんな人がいたのか不明だが、そんなまじないでヴィズを倒せたら苦労はしない。


 俺だって星のマークぐらい描けるぞ、と挿絵とにらめっこしていたら、教科書の上に小さく丸めた紙が飛んできた。

 左隣の席に座っている女子―――佐々木さんを見れば、口パクで「あけて」と言っている。


(なになに……『朝こっそり日野の机に手紙入れたから、結城先輩に渡して欲しいの。お願いね!』……って、はぁー!?いつの間に!?)


 慌てて机に手を突っ込むと、奥の方から花柄の可愛らしい封筒が出てきた。

 ―――勝手に何してんだよ、つーか佐々木さんは園田先生主義者じゃなかったっけ?と目で訴えると、佐々木さんはショートカットの頭を振りながら小さく前方を指さした。

 視線を向けてみれば、前列に座っている小動物系女子・阿部さんがチラチラとこっちを伺っている。


(ああ、これは阿部さんが書いた手紙なのか。直接結城先輩に渡す勇気がなくて困っているところを、佐々木さんが入れ知恵したってとこかな。)


 春の季節やイベントがある度に「私の代わりに渡して欲しいの!」と頼まれるのは、陸のせいで昔から慣れている。でも、まさか高校に入ってからこんなに頻繁になるとは……さすが顔だけは良い結城 千隼、恐るべしである。


「8年前に起きた事件では、ヴィズが1か所に大量発生したこともありました。それにより、周辺の人と建物に多くの被害が―――」


 ……だが、残念ながら俺はその代行を断ることにしている。だってキリないし、自分で渡したほうが良いに決まってるからだ。

 それに何より、結城先輩はここ1ヵ月まともに部屋に帰ってきていない。たまに戻ってきたかと思っても、「鍵くらいしろバター」「マーガリンの方が優秀だわ」などと憎まれ口を叩いてはすぐ出ていく、の繰り返しである。


(別にマーガリンと張り合って無いし!しかもたまに香水臭いし……高校生のくせにどんだけ女の人と遊んでるか知らないけど、こういう手紙を渡してくる人が可哀そうだ。)


 よって、佐々木さんに口だけで「むり」と伝えると、今度は手のひらで顔を覆った後に、阿部さんを指さした。

 視線を向けてみれば、なにかをグッと堪えるような顔で阿部さんがこちらを見ている。


(え……泣く?断ったらここで泣くってこと?なにそれ新手の脅迫じゃない?)


 今まで睨まれたり、牛乳パック潰されたりで脅された事はあったけど、泣くぞって言われたら一体どうしたらいいんだ!?


 ………俺はさんざん迷った末に、渋々手紙を鞄に入れるしかなかった。








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