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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
人を呪わば、穴二つ
3/82

 すべての授業と放課後の自己学習を終え、学校を出た時にはすっかり日は落ち、外は真っ暗になっていた。

 幸いにも雪は降っていないが、夜独特のキンとした寒さが、コートの上から身体の芯まで染みてくる。コンビニに寄って何か食いながら帰ろうかと思っていたが、雪が降る前にさっさと帰ったほうがよさそうだ。


「あー腹減ったぁ…。久しぶりに近道するか。」


 情けない音を立てる腹をさすりつつ、いつも通る大通りへ続く道ではなく、小道へと歩を進める。夜は街灯が少ないせいで暗いし、人通りも少ないが、この道を選ぶだけで結構な時間短縮になるのだ。


 ざくざくざく、ざくざくざく


 スマホの電池が切れかけていたせいで、音楽を聴きながら帰るのは諦めた。半分凍っている雪を踏む俺の足音だけが闇に響く。


(なんか……すごく寂しいんだけど。)


 やっぱり、陸が「俺も一緒に居残ろうか?」って言った時、断らなければよかったかも。明日からは暗くなる前に学校を出ようか。…でも、家に帰ると「ちょっと休憩~」と速攻で寝るのは目に見えている。そもそも、受験する高校のレベルを上げすぎたかもしれない。


(俺本当に、受かるのか……いやいやいや、弱気になったら駄目だろ。この受験生活もあと少しだし、高校のランクを上げたのだって、あのオッサンみたいな変なラミアが少しでも居ない学園生活を送るためだ。俺は出来る子、俺はできる子だぞ日野 秋人……って、)


 ―――何か、聞こえる。


 俺の足音じゃない、もっと小さな音だ。自分に気合を入れるのを中断し、足を止めて周囲に耳を澄ませてみる。するとまた、か細くて、高い音が途切れ途切れに聞こえてきた。これは………たぶん、


「泣き声……女の子?」


 どうしてこんな時間に女の子が?―――時折しゃくりあげる泣き声へ向かって、自然と早足になる。進むたびに聞こえる声が、少し大きくなってきた。

 とにかく声がする方向へと向かっていたので、目的地なんて気にしていなかったけれど、不規則に点滅する街灯を通り過ぎた辺りで、俺はやっと自分がどこに向かっているのかに気づいた。


「うわ、超久しぶり……。」


 そこはまだ俺が小さいころ、よく遊びに来ていた思い出の公園だった。

 

 …そして、俺がラミアに噛まれた、トラウマの公園でもある。

 

 夜だからか、俺が大きくなったからだろうか。ここは、こんなに寒くて、狭くて、寂しい所だっただろうか。誰もいない公園で、遊具だけが黒い影となって佇んでいる。


「ひっ……ひっ……。」


「あ……っと、君、大丈夫?1人なの?」


 いかんいかん、誰もいないだなんて。一瞬でも、肝心の女の子の存在を忘れてしまうとは。

 声の方向に目をやると、ブランコの上にはやはり、幼稚園くらいの小さな女の子が座って泣いていた。耳の上で2つ結びをしていて、子供用の防寒ジャケットを羽織っているその子は、涙をいっぱいに浮かべた目で俺を見上げると、小さくうなずいた。


「どうしてこんな所にいるの?お家の場所わかる?」


「わ、かんない……。」


「迷子か……交番に行けばいいのか?とりあえずここは寒いし、夜は『ヴィズ』……怖いお化けが出るから、別の場所に」


「お、おばけでるの?やだ、どこにもいきたくない!」


「え!?あ、いや違くて……そうくるか。」


 こ、子供ってむずかしー!!怖がらせてどうするよ俺!

 ここにいると凍死の危険性もあるし、ヴィズはおろか、不審者にだって狙われそうだ。とにかく一緒に来てほしいのだが……どうしたら伝えられるだろうか?

 俺は必死に、陸の年の離れた妹と遊んだときのことを思い出す。陸のやつ、妹を諭すときはどうやってたっけ…。

 悩んだ末にまずブランコの前にしゃがんで、目線を同じくらいの高さにする。今はもう、女の子の目から涙が流れていないので少し安心した。切羽詰まった感じで色々言うと怖いだろうから、できるだけ優しい感じの口調で、ゆっくり話しかけてみる。


「お、お兄ちゃんもね、実はいま迷子なんだ。」


「え……。」


 おっ、顔が上がった。ぱちりと丸くなった目と視線が合う。


「すごく寂しいし、お腹もすいて泣きそうだ。」


「そうなの?だいじょうぶ?」


「もし君が一緒に来てくれたら、すごく頑張れる気がするよ。よかったら、俺のために一緒に来てくれない?」


「…………。」


 少しの間のあと、女の子は小さくうなずいた。

 よっっっしゃあーー!!でも俺いまやってること間違いなく不審者だぜくそー!!


「ありがとう。じゃあ、行こうか。」


 女の子はぴょんとブランコから降りると、上目遣いで俺の手を握ってくる。よっぽど寒かったのだろう、手は氷のように冷たい。

 俺はきょうだいがいないから、妹がいたらこんな感じだったのかもしれない。こんなに可愛かったら陸が溺愛するのも分かるなあ。…そんなことを考えていたら、俺を見上げた女の子がにっこりと笑った。


「わたしも、おなかすいてたんだぁ。おにいちゃんがさみしくないように、たべてあげるね!」


「―――は?」


 ごめんいま、何て言った?そう聞き返すよりも早く、俺の視界は反転した。




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