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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
いざ、波乱の学園生活
23/82


「お姫様抱っこの日野君がきたぞ!」


「おはよーっ昨日の話聞かせろ!あ、日野って呼んでいい?」


「お、おはよう。いいよ。」


 1-Aに着いた後も、案の定クラスメイトに囲まれた俺とスズメ、犬飼は質問攻めにあった。

 スズメはオロオロしてるし、犬飼は完全無視で本読んでるしで、質問をすべて請け負う状態になった俺は今世の聖徳太子だったに違いない。

 スズメのナンパのくだりは内緒にして、俺がすっ転んで捻挫したところを2人に助けてもらったことにした。


「全員席に着け―。」


 しばらくすると、園田先生と藤井先生が教室に入ってきた。やっと席の周りから人がいなくなり、解放された俺は机に突っ伏す。

 右隣の犬飼が本から顔を上げた。


「つっ…かれたー。」


「大丈夫か、日野。」


「そう思うなら本読んでないで助けろよー。……でも俺、一番迷惑かけたAクラスには怒られても仕方ないって思ってたんだけど、」


「むしろ楽しんでいたな。俺も羽賀が何か言われるんじゃないかと心配したが、本人はなぜか友達ができたと驚いていた。」


「俺もだ。意外だよなあ、この学園ってもしかして変わってる………あれ?犬飼、俺の心配は?」


 眼鏡をカチャっとして、犬飼はまた読書に戻ってしまった。

 

(だから何なんだよ、そのカチャッは!……というか、園田先生の話中によく読書できるよな。)


 以前園田先生に向かって敬礼していた左隣の女子なんか、相変わらず針金が入ってるかのように背筋を伸ばして聞いている。


「―――と、連絡事項はこのくらいか。あ、そうそう、1限目はオリエンテーションのビデオ観る予定だが、犬飼・羽賀・日野の3人は職員室に来るように。」


「えっ。」


「どうしたー日野。来なかったら迎えに行くからなー。……どこへでも。」


「喜んで行きます!」


 瞬間的に、俺の背骨は針金と化した―――俺たちは完全にボスの存在を見逃していたのである。




◆◆◆




 1限目の最中、人影の少ない職員室で、俺たち3人は園田先生を前に固まっていた。先生の切れ長の黒い目が、俺たち1人1人に向けられる。


「さてと、なんで俺に呼び出されたか分かるか?」


「はい…。」


「そうだよなあ、あんな入場の仕方、俺は教えてないもんなぁ?」


「はい…。」


「俺、あのあと教頭にすっげー嫌味言われたんだけど。」


「はいぃ………。」


 グサリグサリと、見えない刃物が身体に突き刺さるような気分だ。スズメは小刻みに震え、犬飼は石像のように遠い目をしている―――もう駄目だ、こんな空気耐えられない。

 俺は松葉杖のせいで腰を折れない分、首を限界まで下げた。


「園田先生、あんなことしてすみませんでした!反省してます。」


「すっ、すみませんでした!……でも、元を辿たどれば全部私が悪いんです!」


「スズメ……いや、元を辿れば俺が足をくじいたからいけなかったんです!」


「……元を辿れば、あの上級生だろう。」


「おーい全員違うモンを辿ってるぞ、モトモト言ってるだけで全然分からん。誰か分かるように説明しろ。」


 まるで先生のその言葉を待っていたかのように、犬飼が素早くスマホを取り出した。


 犬飼の無駄のない説明を聞いた後、園田先生は腕組をしたまま長いため息を吐いた。


「なるほどな………だが、理由はどうあれお前たちがやったことに変わりはない。」


「はい、本当にすみません…。」


「ま、反省してればいいよ。もう終わったことを責めても仕方ないし、俺も教頭いんの忘れて爆笑したし。」


「は?」


「だが、罰として3人にはしばらく学園内の掃除をしてもらうことに決まっている。教室だけじゃなく、プールとか、中庭とか、開かずの倉庫とか……な。結構しんどいぞ。」


 開かずの倉庫という名前に不安しか感じないが、むしろそれで済むなら、と俺たちは無言で頷く。


 園田先生は「よし」と呟くと、急に立ち上がった。先生は背が高くてシュッとしているけれど、たぶん着やせしてるタイプだ。体格が良いし、近くで見ると威圧感がある。


「さて、と。話は戻るが……羽賀をナンパし、日野が足を捻き、さらに俺が教頭にキレられた『元』は、さっきの写真のやつらで間違いないんだな?犬飼。」


「はい。」


 俺の足と、しれっと入ってる先生の件についてはどうなんだろうと一瞬思ったが、言わないほうが身のためだろう。


「先生、どこへ行かれるんですか?」


「決まってんだろ羽賀。俺は昔から、やられたらやり返す主義でな。俺の可愛い生徒に手を出したらどうなるか指導しに行くんだよ。」


「待って、教師が笑顔で指鳴らしながら言うセリフじゃないですよね。」


「日野、心配しなくてもお前の仇は取ってやるから安心しろ。」


「まだ死んでないです。むしろこれから誰か死にそうです。」


「お前らは教室でクソつまらんビデオ観とけ。死ぬほど退屈なオリエンテーションビデオをな。」


 この人、絶対オリエンテーションが面倒なだけだな―――軽い足取りで職員室を出ていく園田先生を見送った後、俺は先生のデスクの上に目をやった。


 いくつか置いてある写真の1つに、黒いバイクの上で鉄パイプを握った集団に混ざって笑う先生を見つけてしまった俺は、人生なにが起こるか分かんねえなと実感した。



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