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正式に私立峰ヶ原学園の生徒となって初めての登校日。
同じ校舎を目指して歩く、大勢の生徒たちの集団に混ざりながら、俺、日野 秋人は―――早くもこの学園の敷地の広さを恨み始めていた。
「つ、着かないんだけど……!」
「まあそう焦んなって。松葉杖に慣れてないんだ、ゆっくりでいいよ。」
「こんなに歩きにくいなんて……今度はカタツムリになった気分だ。」
「知ってるか秋人、カタツムリは捻挫してるのに走り回ったりしないんだぜ。昨日塩でもかけとくんだったなー。」
隣をゆっくり歩く陸は冗談交じりで、しかしきっちりと釘を刺してきた。
……それもそうだ。昨日の騒動を終えて今朝起きてみたら、熱は下がっていたものの、俺の足はまた歩けない状態に戻ってしまっていたのだ。
それでも、気合で行けるかな?と思い、痛みを我慢してエレベーターに乗ったら、たまたま先に乗っていた管理人の山岸さんに速攻でバレた。そして、わざわざ職員寮から往診に来てくれた保健室の先生には頭が上がらない。
「いや本当にご迷惑をかけてしまって……陸も鞄まで持ってもらってごめん。」
「俺?…俺はいいよ。それより、落とした生徒手帳は見つかったんだろ?」
「あ、うん。見つかってほんとによかった。」
昨日の騒動のことは陸には言ってない。熱が出たことはもちろん、同室者の結城 千隼が以前俺を助け、吸血したラミアだったってこともだ。
(だって、前に俺の部屋で話した時のことを思い出してみろ……言ったら陸は絶対心配する。)
よって、俺は昨日『無くした生徒手帳を探して寮を走り回った』ということにしたのだ。陸は今回は疑っていないようで、それ以上追求することはなかったのでホッとした。
「そういえば、秋人の同室の先輩どうだった?」
「えっ!?」
「えって……結城先輩だよ、どんな人だった?」
「ん゛ーーー……ちょっと癖のある人だった……けど、あまり部屋に帰ってこないみたいだから、大丈夫そうかな。まだ初対面だから何とも言えないよ。」
実際はちょっとどころじゃなかったし、会ったこともあるし、ハッキリと嫌なやつだと言えるけどな!
でも、くそラミ…じゃなかった、結城先輩は昨日あれから帰ってこなかったし、エリさんの言っていたことは正しいのだろう。だとすれば、同室とはいえあまり関わらなくて済むはずだ。
どうにか2年間耐え切ろう―――そう自分を励ましていると、誰かに背中をポンと叩かれた。
「おはよ日野!」
「んえ?あ、おはよう?」
「日野君、足大丈夫ー?」
「う…うん。」
顔も知らない生徒が、軽く手を振りながら去っていく。―――え、いまの誰?困惑顔丸出しで陸を見上げると、陸は口元を緩ませていた。
「なんで笑ってんのさ。」
「だってさぁ……んー、秋人ドンマイ。」
「は!?どういうこと?……おい。」
「いてっ、急に松葉杖使うの上手くなってんなよ。学校行けば分かるから!」
いくら聞いても陸は笑うばっかりで教えてくれない。俺は松葉杖で陸をつつきながら、そういえば何か心当たりがあるような、無いような―――。
「あ、お姫様抱っこの子だ。」
「たしか日野君、でしょ?私も入学式出たから知ってる!」
(なるほど、こういうことかー!!)
昨日色々ありすぎたおかげで、すっかり入学式のことなんて頭から吹っ飛んでいたが、周りは違ったようだ。
廊下を歩く俺を見て、他の生徒たちがヒソヒソと話している……そりゃそうだ、入学式であんな入場をしたのは過去でもきっと俺とスズメ、そして犬飼だけだろう。
とにかく急いで周囲の目から遠ざかってしまいたいが、スピードが出ないのでどうしようもない。俺が必死にちまちま歩いていると、見かねたのか周囲から声が飛んできた。
「日野君、そこ段差あるから気を付けてな。」
「あっどうも。」
「脇に杖を押し付けちゃだめだよ。」
「は、はい、気を付けます。」
「ねーねーイケメン君はなんて名前なの?」
「間宮 陸っすー。」
「階段上がれる?私がお姫様抱っこしようか?」
「結構です!!」
「姫様が通るぞー道を開けろーっ。」
「お願いだからやめて!!!」
……き…消えたい。恥ずかしさで蒸発して消えてしまいたい。
いつの間にか女子と楽し気に連絡先を交換してる陸の一方で、俺はいますぐ中庭に飛び出し、松葉杖で穴を掘って埋まる想像ばかりしていた。




