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この世の人間は、出生時の診断で2種類に分けられる。生きるために吸血を必要とする吸血種『ラミア』と、必要としない非吸血種『オリジン』だ。
大昔は人間は1種類しかおらず、すべてが非吸血種だったらしい。その後、変異種として誕生し、どんどん数を増やしていったのが吸血種だ。
この『ラミア』と名付けられた新種の出現後、非吸血種は人間の原型という意味で『オリジン』と呼ばれるようになった。
ラミアとオリジンの違いは何か、と言われると、さっきも言った通り、第一に吸血行為をするかどうか。そして第二に、ラミアはオリジンよりも身体機能や、何かしらの能力が優れている場合が多い。
たまに「ラミアはオリジンの進化体だ」と言われることもあるが、ラミアは生きる上で食事とは別に、オリジンの血の摂取が必要不可欠だ。その時点で、ラミアはオリジンに依存してるとも言える。
一方で、ラミアもその身体能力を生かして、度々姿を現しては人間を襲う化け物……『ヴィズ』を排除したり、新感染症の抗体を早く身に着けることで、治療薬の開発に貢献したり……と、オリジンにとって助けとなる大きな存在だ。
つまり、持ちつ持たれつの共存関係。…であるのだが、その前に大きな問題点がある。
例えば、腕力が強い幼いラミアがいたとしよう。同世代のオリジンと遊んでいるとき、ちょっと力の加減を間違えただけでも相手のオリジンは大怪我、大変な事態になる。
また、吸血も同じで、おやつ感覚で噛みついたはいいが、うっかり某人気掃除機並みの吸引力で吸ってしまうと、オリジンはカラカラに干からびてしまうのだ。
これらの事故を想像するだけでも恐ろしいが……幼いラミアにとっては何が間違っていたか理解できないし、そもそも自分の力をコントロールすることができない。
では、どう対策するかと言うと―――ラミアとオリジンは生まれてから中学校卒業までの一定期間、学習機関が分けられている。ラミアはラミア専門、オリジンはオリジン専門の学習機関に通い、自身やお互いの性質についてみっちり学ぶことで、共存に必要な知識やルールを身に着けるのだ。
その間、ラミアは吸血できる人間が身近にいないが、オリジンには定期的な献血が義務付けられているので、血液の供給に問題はない。直に飲むか、パックに入っているかの違いだけだ。
そして、高校入学後―――ラミアとオリジンは共学となり、いよいよ一緒に生活する実践が始まるのである。
……が、ここで俺のトラウマが炸裂するのだ。
「俺は7歳の時……公園で友達と遊んでたら、知らないオッサンに腕を噛まれたんだよっ。信じられるか?ダンゴムシを集めることに命を懸けてる、いたいけな7歳だぞ?」
「うんうん、何回も聞いた。信じらんねーよなぁ。マジ殺したい。」
「だろ!?俺はあの日に誓ったんだ……もう、二度とラミアに吸血させないって!」
あれは、間違いなく人生最悪の日だった。
俺に噛みついたオッサンは小さい子が好きないわゆる、『そういう性癖』の人だったらしいが、だからと言っていきなり小さい子に噛みつくなんて、あまりにも非常識だ。ラミアの義務教育機関は一体何を教えていたのだろうか。
幸いにも軽く噛んだだけで吸血されてはいなかったのだが、俺はそれ以来、基本的にラミアの教育機関を信用していない。共存関係であることは大いに結構だし、差別意識は無いが、深くかかわるつもりもない。
自分の身は自分で守るしかないのだ。そう、公園の時みたいに―――
(……あれ?そういえば公園で噛まれたとき、どうやって逃げたんだっけ?一緒に遊んでた友達は、どうなった?)
「おーい、秋人?大丈夫かー?」
「え?あ、うん、大丈夫。たぶん俺のことだから、素早い身のこなしで逃げたんだわ。」
「は?……まあいいや、そろそろ時間ヤバイし、宿題見せて。」
「ハイハイ、スポーツ推薦で志望校行ける奴はお気楽だよ。」
俺なんて自力で行くしかないから猛勉強してるっていうのに。ノートを受け取った能天気さんこと陸は、「あんがと!愛してるぜ!」なんてふざけたことを言いながら必死に書き写し始めた。
……ほんと、どこまでも憎めない奴だ。こいつがオリジンで、幼馴染で本当によかった。