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「どどど、どどどうしましょう!!すみません2人とも私のせいで……!!」
「落ち着け。」
一見冷静に見えるが、妙に眼鏡を押し上げる回数の多い犬飼君が、スマホの画面を見る。
「この時間なら、Aクラスは入場し終わってるかもしれないが、Eクラスはまだかもしれない。他のクラスの入場に紛れて入り、点呼に間に合えばまだマシだ。」
……なるほど。確か入学式は、AからEクラスまで全ての新入生が入場・着席した後、次はAクラスの生徒から出席番号順に名前を呼ばれる。
名前を呼ばれた生徒は起立して返事をするのだが、そのとき3人もいなかったら、さすがにまずいだろう。
そうと決まれば、急いで体育館に向かうのみだ。お互い硬い顔を見合わせた後、一斉に走り出したが―――足を踏み出した瞬間、俺の右足首に激痛がはしった。
耐え切れずに立ち止まり、ズボンの裾を捲ってみると、足首が紫になっているではないか。
「ひ、日野君その足……!」
「いって……いつの間に?どっかで捻ったのかな。」
「上級生に向かって急に走った時だろう。変な体勢で飛び出してたから。」
「マジで?……あ、羽賀さんが気にすることじゃないから!ほんと大丈夫!俺遅れて行くから、2人だけでも先に向かってて!!」
「…………わかりました……。」
羽賀さんはまるでこの世の終わりのような顔で足首を見ていたが、俺の言葉を聞くときゅっと唇を結んで頷いた。
そして、走り出すかと思ったら―――なぜかしゃがんでいる俺の肩に、腕を回してくる。
「……羽賀さん?」
「スズメですよ、日野君。……私、ラミアであることがお友達の役に立つなんて、思ってもみませんでした。」
「は?え、ちょ―――うわっ!!」
膝裏にも細い腕が回ってきたと思ったら、一気に俺の身体が宙に持ち上がった。
―――え、ナニコレナニコレ、冗談だろ!?
仰向けになったまま言葉も出ない俺の一方で、やけに近くにある羽賀さんの顔が、得意げに微笑んでいる。
「私が日野君を体育館まで運べばいいんですよ!」
「いやいやいやいや!!この体勢はさすがにマズいって!!俺1人で歩け――」
「あ…やっぱり私に運ばれるのは怖いですか?絶対、力加減間違えませんからっ……。」
「そうじゃなくて、このおお、お姫様抱っこが――」
「何も問題ない。早く行くぞ。」
「はい!」
「犬飼ふざけ――」
「日野君は安心して私に抱かれててください!」
「男前かよ!?ちょ、まっ……スズメさーーーーん!!」
誰か俺の話を聞いてくれ!!―――俺の叫びなど気にも留めず、猛スピードで走る羽賀さん…もといスズメに抱えられた俺は、割と本気で辞世の句を考えていた。
そして、体育館に着いた時にはちょうどEクラスの入場が終わり、これから点呼が始まるところだったらしい。
入口に突然お姫様抱っこで現れた2名の生徒と、先導するように何食わぬ顔で赤絨毯を闊歩する男子生徒に会場中が注目することとなった。
………これが、後の『入学式バージンロード事件』である。
俺は高校生初日に大変不名誉な称号と、ちょっと変わってるけど、大切な2人の友人を手に入れたのであった。




