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日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
ラミアとオリジン
15/82

 俺がほっと一息ついた一方で、羽賀さんは一気に力が抜けたのか、座り込んでしまった。


「大丈夫?羽賀さん。」


「は、はい……2人とも、本当にありがとうございました。でも、どうしてここに?」


「俺はトイレからの帰りに道に迷っちゃって。――そうだ、なんで犬飼君はここに?」


「……急に痛いって言うし、遅いから。どっかで倒れたかと思って。」


「え、もしかして俺のこと探しに来てくれたの?」


 犬飼君は何も言わずにスマホの写真を確認し始めた。否定しなかったということは、俺を心配して来てくれたってことでいいんだよな?

 うわー、超意外だけどめちゃくちゃ嬉しい。でも、俺はただ単に緊張して腹を下しただけだから申し訳なさすぎる………うん、これは秘密にしておこう。


 俺が脳内会議に勤しんでいる一方で、犬飼くんはスマホから羽賀さんに視線を移した。


「ラミアの力なら、いくらでも突き飛ばすなりして逃げられただろう。なぜ抵抗しなかったんだ。」


「そりゃそうだけど、上級生が怖くてできなかった、とかじゃないの?」


「それは……。」


 羽賀さんはゆっくり立ち上がると、胸の前で両手を強く握った。


「ご存知だと思いますが、ラミアはオリジンよりも強い力を持っています。学校では、万が一のことがない限りオリジンに対してその力を使ってはいけないと学びました。」


「だが、力を加減する練習もしただろう。」


「その通りです。……ですが、さっきは正直怖くて、うまくコントロールできる自信がなかったんです。日野君と同じように、今まで私の周りにはオリジンがいませんでしたから。……それに、」


 伏せられていた顔が上がり、丸っこい目が俺と犬飼君を順番に見た。


「ラミアとか、オリジンとか関係なく、同じ人間を傷つけることを私はしたくない。」


「!!」


「……なんて、私が弱虫なだけです。私、いつも名前のことでからかわれて、言い返す勇気もなくて、ウジウジして周りを苛立たせてしまって……あまりお友達も、いなくて。

―――でも、初めて日野君に名前を好きだって言ってもらえて、すごく嬉しかったです。」


「でっでも俺、あのとき酷い態度取っちゃって、本当に……」


 俺は本当にどうしようもない大馬鹿野郎だけど、こうしてもう一度向かい合うチャンスを貰えたら、絶対言うって決めてたことがある。


「……羽賀さんごめん、俺はあのとき、羽賀さんがラミアだってことしか見えてなかったんだ。

でも、今は『羽賀 すずめ』っていう女の子が、どんなに優しくて強い人間なのかを知ってるし、これからも知っていきたいと思う。だから、その、もしよかったらなんだけど……俺と友達になってくれないかな。」


「もっ……もちろんです!こちらこそ、よろしくお願いします!!」


 ―――ちゃんと言えてよかった。

 羽賀さんの泣きそうな笑顔を見て、やっと俺の胸の重みが消えていく。


 そして次に、俺たちのやり取りを黙って見守っていた犬飼君を見上げる。


「犬飼君も、探しに来てくれてありがとう。嫌じゃなかったら、なんだけど、俺と友達になってくれないかな。」


「…………。」


「あ、別に無理じゃなくても……いいんだけど……。」


 犬飼君は一瞬目が合うと、すぐに逸らしてしまった。

 ……あ、これは本気でダメなやつかもしれない。やっぱりうっとおしく話しかけすぎたかな。

 俺がそっと自己反省を始めようとしていると、羽賀さんがくすくすと笑い始めた。


「犬飼君は、日野君のことを心配して来てくれたんですよね?それはもう、お友達だと思いますよ。」


「えっ!?ほんとに!?」


「…………。」


「その眼鏡カチャってしたのはどういう意味なの!?」


「あの、もし良かったら、私も犬飼君とお友達になりたい……です。」


「……ん。」


「なんで羽賀さんにはすぐ返事するの!?おい犬飼君!」


 犬飼君は相変わらず無表情で何考えてるか分からない。もういい、そっちがそのつもりなら、勝手に友達だと言い張ってやる。むなしい!


「……『君』はいらない。」


「え?何て言った?」


「名前、いちいち『君』付けなくていい。」


「あ!なるほどです。私のことも、よかったら『スズメ』って呼んでください。……もし高校でお友達が出来たら、名前で呼んでもらいたかったんです。」


「えっ、あ、じゃあ、俺も好きなように呼んで。」


 うわ、こういうの新鮮でちょっと照れる。中学に入学した時以来じゃないだろうか。



―――――………うん?入学??あれ???



「日野君?どうしました?」


「や、やや、やばい俺たち…………入学式忘れてる……!!」


「……あ。」


 和やかだった空気は、一瞬で凍り付いた。


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