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「おーい、さっさと席につけー。」
俺が犬飼君に再チャレンジするか猛烈に迷っていると、教室にスーツを着た男女が入ってきた。
わらわらと生徒たちが席に着くのを見ながら、2人は教壇に上がる。そして、黒板に『園田 涼平』『藤井 真澄』と書いた。
黒髪長身、切れ長の目をした男が教卓に手を置く。
「まずは入学おめでとう。俺はAクラスの担任になった園田 涼平、ラミアだ。こちらは副担任の藤井先生。」
「藤井 真澄、オリジンです。よろしくお願いします。」
藤井先生は肩までの髪をハーフアップにした、大人しそうな女性だ。俺たちも、まばらに「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「さて、自覚はあると思うが、今日からラミアとオリジンは共同で学園生活を送ることになる。各自義務教育中に学んだことを忘れず行動するように。もちろん高校でも、俺たち教師が授業でサポートしていくから安心しろ。」
「今まで身近に互いの種族がいた人も、いなかった人もいるでしょう。まず大切なことはお互いのことを知り、そして思いやることです。種族概念にとらわれず、同じクラスメイトとして友情を育み、切磋琢磨してくれることを私達は願っています。」
「あと、高校からはラミアが直に吸血することが法で認められているが、あくまで双方の同意の上のみだ。それを破った場合、即・退学処分になるんで、心しておけよ。」
園田先生の眼光に、無意識に背筋が伸びる。……この人、絶対ケンカ強い感じの人だ。昔やんちゃしてましたって感じの人だ。逆らってはいけない。
「―――ま、取り合えず最初に言っておくのはこんなとこだな。お互いを気にするなんてせいぜい最初の1か月くらいで、すぐ慣れるから安心しろ。普通に学園生活を楽しんでくれ。……節度を持って、な。」
園田先生はニッと笑ったが、最後の言葉に妙な威圧感があった。俺の左隣の女子なんか、なぜか敬礼してるんだけど。おい、汗がやばいぞどうしたんだ落ち着け。
「じゃあ、今から出席代わりのプリントを配りますから、氏名と生年月日、種族を書いてくださいね。書き終わったら、体育館前に集合してください。」
藤井先生が話すと教室の空気が穏やかになったが、俺は魚の骨が喉に刺さったように気分がスッキリしない。
机の上のプリント用紙を見つめながら、さっきの藤井先生の言葉を思い出す。
『まず大切なことはお互いのことを知り、そして思いやることです。』
お互いのことって……ラミアについてなら、今まで勉強してきたからある程度知っている。
思いやるという感情は……身近にいなかったラミアに対して考えたことは無い。
(いや、たぶん先生が言っているのはそういうことじゃない。俺がいま、知らなきゃいけないのはきっと……)
ふと、右隣の犬飼君が、なぜかTVのリモコンを持って固まっているのが目に入った。
…なにやってんだ?サイズ的にペンケースと間違えて持ってきたんだろうか……??
(模試上位の天才のくせに、ペンケースとリモコンを間違えるとか、どんだけうっかりさんだよ!)
そのシュールすぎる光景に、いまにも噴き出しそうな俺の喉から、魚の骨が抜けていく。
―――ほら、クールな天才でもこういう間違いをすることあるんだ。全然、『ロボット』なんかじゃない。これはきっと、クラスで初めて俺が気づいた『犬飼 翔真』の一面だ。
俺は右隣にそっとシャーペンを差し出しながら、犬飼君と、そして羽賀さんとも友達になれるような予感がしていた。




