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『私立峰ヶ原学園』はオリジンとラミア、そして男女混合の共学校だ。1学年5クラス編成と生徒数が少ない割に、敷地面積と校舎が異様にでかいらしい。
また、学園の周辺には学生をターゲットにした店や施設が多いので、生徒はほとんどが学園の寮に入寮する。
それほど条件がいいのなら、お高いんでしょう?……と、思われがちだろうが、学費・寮費ともに庶民代表の日野家でもOKを貰える範疇だ。どうやら、学園長が大富豪でやり手とか、有能な生徒が多いためスポンサーが多いとか、色々な憶測が飛び交っているらしい。
「すっげー、どっかの庭園みたい…。」
校門から校舎までの敷地は長く、きれいな花が咲き誇る花壇、真っ赤な薔薇のアーチ、無駄にスタイリッシュな銅像や、巨大な噴水などあちこちに目を奪われる。
まるで、別世界に来たみたいだ―――俺ド庶民だけど、マジでここに通っていいのかな。一時期はどうなるかと思ったけど、死ぬほど勉強頑張ってよかった…!!
「1年生の皆さんは廊下のクラス割を見てから各教室に移動してくださーい!」
「俺のクラスは……1-Aだって!陸は?」
「残念、1-Cだ。いいか秋人、俺がいなくてもしっかりしろよ。なんかあったらスマホに連絡して。あと、迷子になったらすぐ近くの人に…」
「お前は母さんか!分かったから、早く行けって。」
あいつまで、実は俺のことを小学生か何かだと思ってるんじゃないだろうか。「放課後にな!」とCクラスに歩いていく陸の背中を見送っていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
振り向くと、栗色のウェーブがかった髪をボブカットにした女の子がいた。俺と目があうと、慌てて口を押さえる。
「ご、ごめんなさい。仲がいいなぁって思って。」
「あー…幼馴染なんだ。ちょっとうるさくて困ってるんだけど。えっと……?」
「あっ、わ、私は羽賀 すずめっていいます。鳥の名前で、変……なんですけど。」
「……?そうかな、俺スズメが鳥の中で一番好きだよ。俺は日野 秋人、よろしくね。Aクラス?」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします。」
羽賀さんはちょっと人見知りなんだろうか、慌てたように頭を下げた後は、顔を赤くして、くるりとカールしたまつ毛を伏せている。でも、ふわふわした優しい雰囲気の女の子だ。いまだ緊張がとれていない俺でも話しやすい。
ふと、羽賀さんの口から「あっ」と言葉が漏れた。伏せられていた彼女の目が、ちょうど俺の左胸にある校章に止まったらしい。
この金色の校章の中心には、一目で種族が分かるようにアルファベットの頭文字が掘られている。オリジンなら『O』、ラミアなら『L』だ。
「『O』…日野君はオリジンなんですね。」
「うん、そうだよ。羽賀さんは……」
羽賀さんの校章には『L』と彫られていた。と、いうことは……
「羽賀さん、らっ、ラミアなんだ。」
「はい、そうで―――あ、吸いませんよ!?急に噛み付いたりなんかしませんから!力も加減出来ます!その、オリジンについては学校で勉強しましたし、」
「う、うん、そうだよね!ごめん、今まで俺の周りにラミアはいなかったから、ラミアの人とちゃんと話すの初めてで、緊張しちゃって。」
あぁーーっ俺の馬鹿!つい、羽賀さんがラミアだと知った瞬間、あからさまに声が裏返ってしまった。
俺はラミアを拒否したいわけじゃない―――今朝自分で陸に言ってたくせに。ラミアが全員、過去に出会ったラミアと同じわけじゃないって頭では分かってるのに……心のどこかで、怖いと思ってしまう自分がいる。
「ひ、日野君、あのっ、」
「入学式の前に挨拶があるので、新入生は来た人から好きな席で待っていてくださーい!」
教師の声に、廊下にたまっていた1年生が一斉に教室へと入っていく。羽賀さんが何か言おうとしていたようだけれど、人混みに巻き込まれてそれどころではなくなってしまった。




