表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日野はソレをゆるさない  作者: モモスケ
人を呪わば、穴二つ
1/82

作中に出血・怪我の表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。


―――冬はなぜこんなに寒いのか。


 雪混じりの風が吹くたび、コートとマフラーの隙間を掻い潜る冷気に身体が震え、3歩あるけば鼻水が垂れる。反対側の歩道にはカップルが、これでもかと身体を密着させながら歩いている……別に、羨ましくなんかない。遠い背中に向かって、どっちか足が滑ればいいのにな、と可愛い呪いをかける程度だ。

 ……なーんて、神様今のウソだからね。滑る、とか中学3年の受験生にとっては禁句ワードだ。それに『人を呪わば穴二つ』なんて言うだろ?


「………ん?」


 ふと、カップルが立ち止まった。

 カップルと俺との距離は結構遠いが、男の方が辺りをキョロキョロと見渡したから、俺は慌てて顔を背ける。

 ―――この雰囲気は、もしかしてアレじゃない?路上でキス、略して路チュー。


(え、こんな吹雪の中でするの!?俺、どうしてたらいい?歩いた方がいい?止まった方がいい!?)


 困惑する俺など知るはずもなく、男が女の首を覆っていたマフラーをそっと外す。そして、ゆっくりと顔を近づけ―――女の首に、噛み付いたのだ。



◆◆◆



「おはよー秋人(あきと)。宿題見せ……なんかあった?」


 すっかり冷え切った手で教室のドアを開けると、幼馴染で親友の間宮(まみや) (りく)が真っ先に声をかけてきた。

 夏の大会を終え、野球部を引退してから数ヶ月経った今も食欲は衰えないらしい。椅子に座って大きなパンを咀嚼していた陸は、俺の顔を見上げると、黒髪が伸びた頭を僅かに傾けた。


「朝からヤなもん見たの。……陸は、なんで俺の席で食べてんの?パンくず、すごいんだけど。」


「だってお前の席の方が暖房に近いし。そんで、なにを見たって?誰か雪で滑ったとか、階段から落ちたとか?」


「ああ、そっちの方がマシだったわ。……吸血、してたの。道端で。」


 男が女のマフラーを外し、女も自らコートの襟元を開いて頭を横に逸らす。そして、無防備になった首へ男が噛み付く――― 一切無駄のない流れだった。今でも鮮明に思い出せるのが腹立たしい。


「信じられるか?朝っぱら、しかもクソ寒い道の上でだぞ?せめて場所を選べよ!」


「ふーん。すげえ腹減ってたんじゃないの。……それか、その方が燃える、とか。」


「燃えるって何!?いちゃつくなら尚更、俺のいないとこでやれ!」


 先月、「そろそろ受験に専念したいし…」という理由で 元カノに振られた俺としては、目の前でいちゃつかれることほど心の傷にしみる塩はない。

 しかも、元カノは別れた後に俺のことを、「秋人は顔はいいけど、なんかアレだったんだよねー。」と言っていたらしい。アレってなんだよ、ドレだよ!?……どうせ俺は、顔も身長も勉強も運動も、どれも平均マンですよ。


 …だめだ、余計なことまで思い出してしまった。

 パンを瞬時に胃に収めた陸が、「まあここ座れよ。」と言って席を立つ。親切に感じるけど、ここは元から俺の席だ。


「アキト君が傷心なのは分かるけど、いい加減慣れろって。俺たちだって今では『義務献血』で済んでるけど、高校に上がれば『ラミア』と共学になるんだぞ?もし彼女がラミアだったら、お前も血、吸われるかもよ。」


「は!?」


「だって、吸血って好きな相手とすると、お互いキスよりイイらしいぜ。」


「お……俺は非吸血の、『オリジン』の彼女を作る。よって、吸血はされない!」


「…うん、そうだとありがたいけど。」


「え?今なんて?」


 よく聞こえなかったが、「なんでもー」とへらへら笑う顔がムカついたので、机の上のパンくずをかき集め、顔面に向かって投げつける。

 

(ああもう、この野球バカの爽やか能天気め!お前だって他人事じゃないんだぞ。)


 俺は知っているのだ。俺たち『オリジン』と共存関係にある吸血種―――『ラミア』の、恐ろしさを。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ