運命を握る者
ナオミは郊外の家にカノン達を送り、もと来た道を帰って行った。ここは人通りもなく、富裕層の住む表通りとはいっても外れにあるのでとても静かだ。
やっと落ちついたナオミは先ほどの神殿でのやりとりを思い出していた。マザーの秘書的役割をもう5年近く務めているが、テラにいるサラとかいうアンドロイドの存在を今日初めて知った。
「そんな大事なことを秘密になさるなんて…」
エストニアの女達の話を聞いてからナオミには妙な胸騒ぎが続いていた。
カノンが疑問を抱いたように、ナオミにもマザーがなぜこんなにも彼女達を大事に扱うのか理解しがたかった。貧困層に不穏な動きがある現在、敵であったテラの生き残りなど大切にしていては彼らの怒りを増幅させるだけであろう。
それとも何か理由があるのか…
直接マザーに問いただしてみよう。
ナオミが神殿に戻ると巫女達がただいま来客中なので少し待つよう言い渡された。
「今頃誰かしら?」
ナオミは奥殿の柱の角に身体を潜めてしばらく様子を伺っていた。すると中から男の怒鳴り声が聞こえてきて、ナオミは思わず腰のピストルに手をかけた。「なんということをしてくれたんだ!一体どういうつもりで?あなたともあろう方が…」マザーの知り合いか?ナオミはピストルから手を離した。
「とにかく、この件は秘密裏に事を運ばねばなりませんぞ。こんな事が外にもれたら大パニックが起こる!とにかく全力で探しだすほかありませんな。我々はこれで失礼します。早速対策を練らなければ…」
バタンと扉が開いて姿を現したのはユノ大統領トニー・ハミルトンと側近のキム・チャンリーであった。
ナオミは二人が神殿を出ていったのを確認して素早く奥殿に入っていった。
脇息にもたれかかり何か考えこんでいる様子のマザーの背中は、まるで老女のように老け込んで見えた。
「…マザーただいま戻りました。」
マザーはしゃっきりと背筋を伸ばし、ナオミに振り返った。
さっきの姿はまるで嘘のように少女のような笑顔がナオミを包む。「お疲れ様でしたね。皆さんお気に召したようですか?」
「はい、シシィ様などよほど嬉しかったのか走り回っておられました。」
「そう…安心しました。あなたももう下がって休みなさい」
ナオミは思いきってたずねてみた。
「大統領が今時分何のご用でここにいらしたのですか?」
「………」
マザーには珍しく言葉につまっているようだ。
「私はマザーの一番近くにいる者と自負しておりましたが思い違いでしょうか?」
マザーはため息をついた。その瞳には疲労の色が表れている。
「そう怒らないでおくれ…」
「怒ってなどおりません。ただ私は悔しいのでございます。なぜ私を信用してくださらないのか…私はマザーの影。何でもお申し付けください!」
マザーはしばらく沈黙したが、ナオミは諦めなかった。
マザーは観念したのかやっと重い口を開いた。
「あるものを探しています。」
ナオミはにじり寄った。
「あるものとは何です?」
「サラを捜しているのですよ」
ナオミは首を捻った。「先ほど彼女達にもう居るわけはないと話しておられたではありませんか?もし、万が一生存していたとして今さら何をしようというのです?すでに無用の長物でしょう?」
マザーは苦渋にみちた表情でスクリーンに映る青い惑星を見つめた。
「サラはテラも、ユノの運命をも握っているのです。本人がまだ気付いていないのが幸いですが…」
「ではサラはまだテラに?」
「言ったでしょう。私はサラでもあるのです。死ぬはずはないのですよ。大統領にもお願いしましたが、ナオミあなたにもお願いします。なんとしてもサラ捜し出してください!」
すがりつくマザーの手をとりナオミは誓った。
「分かりました必ずや私が見つけてごらんに入れます」
ナオミにはまだまだわからない事ばかりだが、とりあえず今はサラ探索に乗り出す事にした。
きっと全て明らかになる日がくる…
ナオミは立ち上がってテラの大海原を思い描いた。




