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すべてはここから

マザーはニッコリ微笑んでパンパンと手を叩いた。

すると何人ものサラがカノン達の前に現れ、その場に座り込んだ。「…えっ?これはどういうこと?」

「これらはみな私に似せて造ったアンドロイドです。テラから子供達を救い出すため活躍しておりました。」

シシィが突然立ち上がり叫んだ。

「そんな!じゃあサラ様は?」

マザーはうなずいた。「あなた方の国にいる巫女姫サラもまたアンドロイドなのですよ」どうりで…

カノンはやっと心にわだかまっていたモヤモヤが吹っ切れた思いでアンドロイド達を見つめた。

「では、テラにいるサラ様はあなたが操作していたのですね…我々は結局あなたに操られていた。」

エリザベートは愕然とした顔で肩を落とした。

「テラにいるサラには人口頭脳が使われています。もちろんベースは私ですが彼女の経験により、独自の考え方をしていると思いますよ。彼女のしていた事は総て私の知るところではありますが、そこには思ってもみない感情の揺らぎや私ならそうはしないだろうという事がたくさんありましたからね。」

アグネスの胸にひとつ引っ掛かるものがあった。

「あの…テラのサラ様の動向がお見通しなら一つお尋ねしてもいいですか?」

「ええ、なんでしょう?」

アグネスは顔をあげてマザーの目をまっすぐに見た。

「サラ様は…サラ様はもう存在しないのでしょうか?」

マザーの目が一瞬鋭く光った気がしてアグネスは首をすくませた。マザーは口許を緩めホホホと笑った。

「エストニアはもう海の底に沈みました。あの不毛の地ではもう何も存在しません。ただの水の惑星になってしまいましたからね」

アグネスは思っていた通りの答えとはいえ、気持ちが沈んでいくのを止めようもなかった。

マザーは壇上から降りて一人一人の手をとり重ねあわせて、最後に自分の手も重ね合わせた。

「皆さん、私を良く見てください。私が本当のサラなのですよ。ですから私の言うことはエストニアの巫女姫サラリの言葉と思って聞いて下さい。先ほどのナオミの説明にあった通り、このユノでは貧富の差が非常に大きいのです。表通りには富裕層の人々の生活圏、裏通りは貧困層の人々が住むスラム街が広がっています。ユノの人口の約3分の2はスラム街で暮らしています。ユノではその人の実力がものをいいます。ですから皆さん、それぞれがここで豊かに暮らすには自身で努力するしかありません。まずは皆さんで暮らす仮の家を用意します。そこで新しい道を探してください。私達が全力でサポートします」

カノンはマザーの真剣な顔に問いかけた。

「なぜ戦争までしようとしていた私達にそんなに良くして下さるのですか?」

マザーはフッと表情を陰らせた。

「言ったでしょう?私はサラなのですもの…力になりたいと思うのは当たり前ですわ」

カノンはうなずいた。「分かりました。ご厚意に甘えさせていただきます。」

マザーはホッとした顔で皆の手を離した。

「もし何か困ったことがあれば、なんでもこのナオミにお申し付けください。」

ナオミは会釈して応えた。

「では早速皆様の仮の住居にご案内致します。」

一同はマザーの神殿から退出しようとして立ち上がった。

その時、マザーはカノン一人を呼び止めた。「カノン様にお願いがあります。テラの皆様の中にはユノへの恨みを心に抱えた方達もいらっしゃいましょう。どうか反乱など起こさないよう説得してください。くれぐれもよろしくお願い致します」「もちろんです。決して恩を仇で返すようなことはさせません」

マザーは安心した顔で巫女達と御簾の内に消えて行った。

「運命の歯車はどこに向かっていくのだろう…」

カノンは今は流されてみようと思っている。行けるところまで行ってみよう…どこの浜辺にたどり着いてもそこで生きてみせよう。

空母を降りてユノの大地を踏みしめる。

草の匂い、降りしきる太陽。

すべてがここから始まる。

テラの女達の運命の歯車が今、回りだしたのだった。

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