ナオミ
アグネスは個室に入るとため息を漏らした。ここはまるで刑務所だわ…
鋼鉄の扉が重い音をたてて閉まると、壁際に寄せられたベッドに腰をおろした。
ギシギシとスプリングの音だけが狭い部屋に響いている。
狭い窓から見えるのは白い廊下の壁だけであった。
「…なによやっぱり捕虜じゃない!」
思わずそう叫ぶと監視カメラがジージー音をたてて追いかけてくるのに気がついた。
「プライバシーもなし…か、いい加減にしてよ!私達をどうするつもり!?」
壁に掛かっているモニターに軍服を着た女が写った。
25歳くらいだろうか、ショートヘアの美人だ。
「女子寮担当のナオミ・マッカーシーです。何かご用があれば私が承ります。どうぞよろしく」
「ちょっと、なによここは?まるで刑務所じゃないの。いつまでこんなとこに閉じ込めておくつもりなの?」
ナオミは表情も変えず事務的に答えた。
「個人面談が済むまでですわ。あなた方には新しい戸籍や住まい、そして働く場所を提供します。面談はもうすでに始まっていますからもう少々お待ち下さい。」
アグネスはイライラしながらたずねた。
「もう少々ってどれくらい?」
ナオミはリストの紙らしきものを見ている。「多分明日には順番が回ってきます。」
「…わかったわ。それまではここから出られないのね?」
「はい、そうなります。」
「分かったわ…」
ナオミは挨拶をしてスクリーンから消えた。「カノンやエリザベートはもう面談終わったのかしら?」
アグネスは天井のシミを眺めながら布団を被った。
長い夜が明け、部屋に届けられた朝食を食べ終わったころ、スクリーンにナオミが現れた。
「おはようございます。本日9時よりあなたの面談が始まります。私がお迎えに行きますのでそれまではお部屋で待機してください」「了解よ!」
スクリーンのスイッチが切れると、アグネスは頭の中の整理を始めた。
まずはアランの居所を知りたい。
もう戦争が終わったというなら軍もアランを必要ではないはずよね。
正直に聞いてみよう…下手に動けば命とりになる。
考えを巡らすうちに時間がきた。
鉄のドアが開いて、ナオミが現れた。
「お待たせしました。私の後についてきて下さい。」
空母の中はそれ自体が都市といってもいいような造りになっていた。
「ナオミ、あの建物は?」
「あれは教会ですわ」「じゃあ、あっちの丸い建物は何?」
「…あれは…政府の施設です」
歯切れの悪い答えを誤魔化すようにナオミはアグネスに話しかけた。
「これからあなた方を我々のマザーのところにご案内します」
「えっ?面談じゃないの?」
ナオミは初めて笑顔を見せた。
「あなた方はエストニア王国に連なる方々。すでに調べはついています。面談など無意味…マザーの判断に委ねよと大統領が仰せです」
どうしてウソついてたの?最初からそう言えばいいじゃない!
アグネスの考えなど見透かしたようにナオミは言った。
「マザーの話をすれば余計に眠れなくなるでしょう?だから黙っておいたのです」
アグネスは声をあらげた。
「そのマザーって何なのよ一体?」
「我らにとっては神同然のお方…お会いになれば分かります」
アグネスは、目の前に現れた見覚えのある風景を前にゴクリと唾を飲み込んだ。




