惨劇
アグネス達をなんとか説得したナオミはモニターを消すと、隣にしゃがみこんでいるカノンに声をかけた。
「これでよかった?」カノンは静かにうなずくと涙を拭った。
頬には撲られた痕がくっきりと残っている。ナオミはカノンに肩を貸すとゆっくりと立ち上がった。
「エリザベートのところに連れて行って…」基地内にある病院に入院しているエリザベートは眠ったまま意識が戻らずにいた。
「あんまり自分を責めちゃダメよ。」
ナオミはそう言ってカノンを慰めたが、それが気休めでしかないということもよく分かっていた。
病室のドアをあけると、白いベッドには包帯でグルグル巻きにされたエリザベートが静かに横たわっていた。
ナオミがエリザベートを見つけたのは家の一番奥の部屋だった。
顔面は腫れ上がり、手首はあらぬ方向にねじ曲げられ、太ももには内出血の痕が多数みられた。
苦しさから逃れるためか、床には掻きむしった跡があり、エリザベートの手の爪は無惨にもすべて先が折れてしまっていたのだった。目を覆わんばかりのその姿は男達に乱暴されたことを如実に物語っていた。
ナオミはいくら捜しても見つからないカノンは最初拉致されたものと思っていた。
しかし、図らずして床下からうめき声が聴こえてきて発見することができた。
カノンは頬に撲られた痕があったが、それ以外の外傷は見当たらなかった。
床下から引き上げられたカノンはエリザベートの姿を見て悲鳴をあげ、その場で気を失ってしまった。
後から聞いた話だが、エリザベートは家の周りを暴徒に囲まれるや逃げるのは不可能と悟り、カノンを殴って床下に隠し自分だけが犠牲になったらしいのだ。
責任感の強いカノンのことだ。どんなに苦しんでいるか想像に難くない。
ナオミはカノンの話に耳を傾けた。
苦しみは少しでも吐き出したほうが楽になるからだ。
そしてエリザベートがなぜ自らの身を投げ出したかも知ることとなった。
エリザベートは国でテストパイロットをしていたらしい。
実験台として身を捧げた結果、子供を産むことの出来ない身体になってしまったのだ。
ナオミは絶句した。
それであなたは幸せなの?
包帯の間から僅かばかりのぞいている目にナオミは思わず話しかけた。




