失われた家族
引っ越し当日の朝、アグネスとアランはトラックに乗り込むとヨンやイーサンそして一緒に働いてきた仲間達に大きく手を振った。
ヨンはアグネスがここを辞めると知ると、自分も辞めてアグネスについていくとしばらくグズッていた。
どうやらアランも辞めてしまうと勘違いしたらしい。
誤解が解けた今ではすっかり気をとりなおして元気になった。
「アランのことは私に任せておいて!」
やっとシスコンを脱却できるチャンスが来たわ!
ヨンの魂胆にアグネスは苦笑しながらも「うん、頼むわね。」と素直な気持ちで言うことが出来た。
後は新しい生活の事だけ考えよう…
カノン達の待つ新しい我が家が梢の向こうに見えてきた。
「俺の部屋広いかな?」期待に胸を膨らませていたアランは、家に到着すると喜びいさんで玄関のチャイムを鳴らした。
ところが何度鳴らしても中からは何の反応も返ってこない。
「おかしいなぁ。出掛けてるのかな?姐さん誰もいないみたいだよ。ちゃんと今日が引っ越しだって知らせたのかい?」
「当たり前でしょ!変ねぇ…」
アグネスはハッとした。
家の周りには夥しい数の足跡があったのだ。「やられたわ!」
アグネスはそう叫ぶなり、玄関のドアを蹴破った。
「…一体どうしたっていうんだ!?」
アランは空洞と化した家の中心でそう叫び、ガックリと膝をついた。
「…ナオミなら何か知っているかもしれないわ!基地に行ってみましょう。」
アグネスは呆然としたままのアランをなんとか車に乗せると、猛スピードで車を走らせた。
お願い、なんとか無事でいてちょうだい!
悪い予感を打ち消そうとアグネスは只ひたすら祈り続けた。
基地の入口ゲートに到着すると、身分証を見せてナオミに至急面会したいと告げた。 ゲートのモニターに秘書らしき人物が現れた。
略式の軍服がさらに彼女の若さを引き立てている。
「申し訳ございません…只今ちょっと出掛けておりまして。戻り次第連絡差し上げます」アグネスは「人の命がかかってるかもしれないの!お願い、なんとかしてちょうだい!」と食い下がった。
「なんとか…と言われましても…」
その時、秘書を押し退けてナオミが顔を出した。
「ごめんなさいね…カノン達のことで来たのでしょう。彼女達は基地で保護してるわ。」「今日から私達、一緒に暮らすはずだったのよ。カノン達に会わせて!何があったのか直接聞きたいわ。」
モニターからナオミのため息が聴こえた。
「私もそれがいいと思うんだけど…彼女達が会いたくないと言ってるの。ごめんなさいね」
「そ…そんな…」
「カノンに止められてるから詳しいことは話せないわ。時間が必要かもしれない…少しそっとしておいてあげたほうがいいかも?」
「…襲撃されたんですね?そうなんでしょ!二人は無事なの?ねぇ!どうなのよ?」
モニターをバンバン叩くアグネスの手をアランが掴んだ。
静かに首を横に振ってみせる。
「わ…私のせいだわ!私がグズグズしてたから…ア…アアアごめんなさい…ごめんなさい!」
泣き崩れるアグネスをアランは力いっぱい抱きしめた。




