運命の歯車
アランは郊外にあるカノン達の家の前で息を整えた。
ここに来るのは2度目だが、やはり緊張してしまう。
インターホンを鳴らすと、アグネスがドアを開けてくれた。
「寝坊助アラン!やっと来たわね。」
アランは照れ笑いしながら家の中に入って行った。
あの頃より随分家具や調度品が増えて、いかにも女の子の家といった感じだ。
窓には白いレースのカフェカーテンがそよそよと揺れていた。
「久しぶりね〜アラン!コーヒーでいい?」エリザベートがニッコリ笑うと、本当に大輪の花が咲いたようだとアランは思う。
そんな華やかさをエリザベートは持っていた。
カノンは相変わらず口元に微笑を浮かべてアランを迎えてくれた。「あれから中々来ないからエリザベートと心配してたのよ」カノンは軽くアグネスを睨むふりをしてアランの顔を見た。
「すみません…色々忙しくしていたもので。カノンさん達もお変わりありませんでしたか?」
「アランが謝ることはないわよ。でも、もっと遊びに来てくれると嬉しいわね。私達は相変わらずのんびり暮らしてるわ。働きにでようとも思ったんだけど、最近は物騒だから止めておけってナオミに言われてしまって…」アグネスは眉間にシワを寄せてため息をついた。
「まったく…逆恨みもいいとこですよ。恨むならこんな世の中にした政府だわ!」
「黒い羊飼い…というんですってね?怖いわ。私達もなるべく目立たないように暮らしてるつもりなんだけど…」
エリザベートの言葉にアランは慌てて弁解した。
「あ…それは誤解です。黒い羊飼いは反政府組織で、今街中を騒がしてるのは彼らを騙ったチンピラ共ですよ」アグネスが不思議そうにアランの顔を見ている。
「なんでそんな事知ってるの?」
「エッ!…ええと…ニュースでそんな事言ってた気が…」
アグネスはアランの肩に手を掛けてうなずいてみせた。
「実は…今日はお二人にお願いがあってここに来たんです。」
アグネスの改まった態度にアランは何を言うつもりなのかドキドキしながら次の言葉を待った。
「私…ここに戻ろうかと思ってます。」
エリザベートは跳びあがって喜んでいる。 「キャア本当?嬉しいわ!アグネスが戻ってくるのね」
アランは呆然とした。そんな…突然に…なんで?
カノンはエリザベートをたしなめて、二人に話しかけた。
「あなたが私達を守ってくれようとしてるのはわかるけど、それじゃあアランが寂しくなってしまうんじゃなくて?これは提案だけど、どうせなら二人一緒に越してきたらどうかしら?ねぇアラン」
アランはドギマギしながらもコックリうなずいた。
「じゃあ決まりね!アグネスも異存はないでしょ?」エリザベートは脚をバタバタさせて喜んでいる。
「え…ええまぁ…。」カノンはアランを優しい目で見つめた。
「アラン、あなた花は好き?」
アランは何度もうなずいた。
「大好きです!特にチューリップが。」
アグネスはハッとして顔をあげた。
今でも懐かしく思い出す。
アランと二人で暮らしていた家の前には毎年色とりどりのチューリップが揺れていた。
「アラン、この家の庭にチューリップを沢山植えてちょうだい」
アランはカノンの言葉に目を輝かせて喜んだ。
「じゃあ…早速、来週にでも引っ越します。」
アグネスはそう二人に宣言すると、アランを連れて学院に帰って行った。
アグネスはこの時の事を後に何度も後悔することになる。
どうして…どうしてあの時…!
無情にも運命の歯車はすでに動き始めていたのだった。




