新しい炎
次の朝、アグネスは爽やかな顔でアランの前に現れた。
「おはようアラン!」「……おはよう姐さん」
アグネスは鼻唄まじりのルンルン状態だ。
アランは結局アグネスにまかれたまま無念の朝を迎えた。
クソ…朝帰りか?
ああダメだ気になっておかしくなっちまう。「あのさ…姐さん昨日…」
「ん?なあに?」
その時、バンとドアが開いてヨンが入ってきた。
「おはようアグネス!あらアランもいたの?ん〜?アグネスったら今朝は格別美人ねぇ。お肌艶々ツルッツルだし、なんかいい事でもあったのかなぁ〜?ねぇアラン、気にあるわよねぇ?」
ヨン、よく聞いてくれた!Goodjob!アランはウンウンとうなずいてじっとアグネスの反応をみた。
「え〜?そうかなぁ、そんな風に見える?」「見える見える!何々、誰か素敵な人でも見つけた?」
アグネスは顔を真っ赤にさせて小さくコクンとうなずいた。
「キャ〜、やっぱり!良かったわねぇ。で?もう付き合ってるの?」
「ううん、私の片想いよ。」
アランはまさかの答えにショックで思考が停止した。
その後、ヨンが出逢ったきっかけやどんな人かも聞き出していたのにアランの耳には一切入って来なかった。
「俺…俺もう行かなくちゃ…」
アグネスはハッとしてアランの方を見た。
うちひしがれた様子でトボトボ出ていくアランを追おうとするアグネスをヨンが止めた。
「アグネス、今は放っておいてあげなさい。いつかはこういう日がくるんだから…。アランだって分かってるわよ。」
アグネスは心配げな顔で閉じられたドアをじっと見ていた。
アランごめんね…
アグネスは心の中で謝りながら、昨夜のカインの言葉を思い出していた。
「アグネス、頼みがある。」
「なんでしょう?私に出来ることなら何でもいたします。」
「驚かないで聞いて欲しい。エストニア王国は滅んではいない。テラの海底でシールドに守られていたんだ。みんな元気で国を守っているよ」
「エエッ?そ…そうでしたか。私達はてっきりもう…ああカノン様達もどんなにお喜びになるか!」
そのとき、部屋の入り口のドアが開いて実とロバートが顔をのぞかせた。
「ま、まぁ!実さん、ロバートさんも!夢でも見てるのかしら?」「夢じゃないよアグネス、元気そうで良かった!シシィはいい子にしてるかい?」
アグネスは目に涙を浮かべて笑顔の実に何度もうなずいて見せた。「ええ…ええあの子がどんなにあなたを恋しがっていたことか!早速知らせて喜ばせてやりますわ」
カインは慌ててアグネスを止めた。
「いや!それはもう少し待って欲しいんだ」アグネスは意外そうにカインの顔を見つめた。
「何かお考えでも?」カインの横顔を見て、アグネスはちょっとした違和感にとらわれた。
カイン様…なんだか感じが変わったような?ううん…きっと気のせいね。
「アグネス、テラは必ずまた再生する。我々はテラが復活した時のために戦力を蓄えているのだ。」
「と…いいますと?」それまでじっと話を聞いていた実が口を開いた。
「テラが復活すればユノはテラに進行してくる。その時に備えて、我々はユノにいるテラ人と反ユノ政府を唱えるグループを取り込みクーデターを起こすべく計画しているんだよ。こんな危険なことに彼女達を巻き込みたくないんだ。だからここで我々に会ったことは内緒にしていて欲しい」
カインはアグネスの肩に手を置いた。
「アグネス…君に会えて嬉しかったよ。」
アグネスはカインにしがみついた。
「嫌です!絶対嫌!私は元々ドラゴンズアイのメンバーです!国のためにどうしてじっとしてなんかいられるもんですか。カノン様達には秘密にしておきます。ですからどうか…どうか私を側に置いて下さい!」
実とロバートはそっと部屋を出ていった。
「アグネス…俺をよく見てくれ。」
アグネスは苦悩に満ちたカインの顔をじっと見つめた。
「アグネス、俺はもう以前の俺じゃない。あの日の事を覚えているか?あの我王が自爆した日のことだ…」
アグネスの脳裏にジョピターが爆発した瞬間の映像がはっきりと浮かんだ。
「ええ…覚えています。我王様はやはり亡くなったのですね…カイン様だけでも無事でいてくれて良かった」
「……いいや。我王は生きているよ」
「まぁそうでしたか!どこにいらっしゃるのですか?ご挨拶せねば…」アグネスはキョロキョロ見回した。
「アグネス、我王はここにいるよ。君の目の前に…」
アグネスはいぶかしげにカインの顔を見ていたがハッと何か思いついたらしく顔を青ざめさせ、小さくつぶやいた。
「まさか…まさかそんな!」
カインはふっと笑った。
「さすがはアグネス、察しが早い。そうなんだ、あのシステムを使ったんだよ。我王の肉体はやはりもう手の施しようがない状態だったんだ。だが、俺はどうしても我王に生きていて欲しかったんだよ。」
アグネスは納得出来ない様子で顔を手で覆い、いやいやをするように首を横にふった。
「では…ではあなたは本当は我王様なのですか?」
「いいや、違う。俺はカインだよ。君と会うまでは俺の意識は眠り、我王の意識が支配していたのに君を見た途端に覚醒してしまった。きっと俺はまた眠りに落ちる。なぜならそれを俺が望んでいるからだ」
アグネスは涙で濡れた瞳でカインを見つめた。
「こっちにおいでJ.J。」
プラチナブロンドが美しいまるで天使のような子が転びそうになりながらヨチヨチ歩ってきた。
「この子はもしかして?」
「そうだよ…アリサ妃と我王の子ジャン・ジャックJr.だ。この子は次期テラの帝王となる。この子のためにも父は必要なんだ。」
アグネスは呆然としてしゃがみこんだ。
カインはアグネスの髪を愛しげに撫でた。
「アグネス…一度だけ言う。君を愛しているだから危険な目にはあわせたくない。頼む、わかって欲しい」
アグネスは幸せだった。この人のためになら死ねる…
「カイン様、私に生きる希望を与えて下さい。私は戦士です!そう教えたのはあなた。そうでしょう?」
カインは哀しげな目でアグネスを見つめ、その唇を指でなぞった。アグネスは瞼を閉じたがとうとうその唇にカインの唇が触れることは無かった。
カイン様は私を部下に戻る事を許してくだすったのだ…でもそれは恋と引き換えなんだ。
私は後悔しない…
たとえ恋人にはなれなくても、この人の傍らにいて共に戦っていく。
それが一緒に生きていくということならば。
アグネスの胸にまた新しい炎が生まれたのだった。




