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黒い影

俺はその日を境にアグネスを姐さんと呼ぶことにした。

昔の自分は彼女をそう呼んでいたそうだ。

昔の自分の気持ちが良くわかる。

きっと自分は彼女の恋人にはなれないと諦め、代わりに兄弟になったのではないだろうか?

恋人以外の一番近い存在に…

姐さんの惚れた相手はどんな人だったんだろう。

本当はカノン達に聞きたかったが、アグネスの前ではさすがに憚られた。

「まぁいいさ。今度は1人であの家に行ってみよう」

帰り際エリザベートはアランに「ここがあなたの帰る場所よ。いつでも帰っていらっしゃい」と言ってくれた。「アランにも実家ができたわね!」

と言ったときのアグネスの顔が忘れられない。

休み明けに学院に帰ると、ヨンがニヤニヤしながら近付いてきた。「アグネス!アランと何かあったでしょ?」アグネスはヨンの感の良さに舌を巻いた。

「なんでそう思うの?」

ヨンは身体をよじらせて「だぁってぇアランったら、な〜んか貫禄でちゃって前より大人?みたいな雰囲気よ。あなたもすっかり明るくなったし、な〜んかあなたと彼の間には誰も割り込めない!みたいな空気が漂ってるのよねぇ。怪しいわぁ」その時、アランの呼び声が聞こえてきた。

「姐さん!あれ?姐さんどこだい?」

「アラン!こっちこっち!」

ヨンは首を捻った。

「姐さん?アグネスどういうこと?」

「だから、そういうことよ!」

アグネスは、青い空の下でたなびくシーツからひょっこり顔を出した。

「そこにいたのかぁ」アランは満面の笑みでアグネスと何事か笑いながら話していた。

ヨンはやれやれと思いながらシーツのシワをパンパンとのばした。アグネスは楽しいひとときを過ごし、夕飯の準備にとりかかった。「あら?玉ねぎが足りないわ、買って来なくちゃ」

エプロンを外し、ヨンに買い物に行くと告げて学院を出た。

買い物に出るのは久しぶりだ。

食材はほとんど業者が届けに来る。

たまに足りない時だけ商店街まで買い出しに行っていた。

八百屋の店先には色とりどりの野菜が並んでいた。

アグネスが玉ねぎに手を伸ばした瞬間、目の前が真っ暗になった。薄れゆく意識の中で声が聞こえた。

「ふん、テラの生き残りごときが大きな顔しやがって!」

謎の男達は気を失ったアグネスを裏路地に引きずり込み服を引きちぎっていった。

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