恋に落ちて……
アランは正直戸惑っていた。
アグネスは真っ直ぐに自分に向かってくる。それは以前の自分に向けられた愛情であり信頼だ。
今の自分に彼女の愛情を受ける資格があるのだろうか?
「俺って一体どんな奴だったのかな?負けたくないよ…昔の俺に」アランの胸が切なく痛んだ。
アグネスは約束通り、いつもアランの傍らにいた。
こうして側にいるといろんな事が分かってくるわ…私を含め、みんなもまだ彼のことを良く知らないのよね。
アグネスは積極的にアランを誘ってみんなと食事に出掛けたり、子供達と遊んだりしてうちとけるように仕向けていった。
「アランてさ、思ってたよりずっと気さくでいいやつなんだな」
気難しいイーサンのこの言葉を聞いたとき、アグネスはヤッター!と心の中で叫んだ。
アランはアグネスと出逢ってから、世界が違って見えた。
暗闇から光の中に踏み出していくと、封印していたいろんな感情が流れだし、それはアランを狼狽えさせると同時に深い幸福感で満たしてくれた。
「アグネス、あなたは良く頑張ったわ。アランは自分の殻にとじ込もっていたのね…色々誤解もあったけどあなたのおかげで彼もみんなと仲良くなれた。恋する女のパワーは大したもんね」
ヨンはそう言ってアグネスを冷やかした。
「ヨン、それは誤解よ」
「誤解?」
「ええ…私はアランを弟のように愛しているの。恋とは違うわ」
「アグネスったら…それは酷だわ!アランは完璧にあなたに恋してるのに」
「…え?」
「気が付かなかったとは言わせないわよ!どうするの?すっかりその気にさせちゃって〜」
アグネスはため息をついた。
「ヨン…私、好きな人がいるのよ」
ヨンは驚いて跳びあがった。
「ウッソ〜!ほんとに?全然そんな様子なかったけど…そうかぁ〜そうなんだ〜…アラン可哀想」
アグネスにはどうしてやることも出来ない。カインはまだ心の中に住み続けているのだ。「どんな人?アグネスの恋人って」
ヨンは興味津々で目を輝かせている。
「恋人ではないんだ…私の片想い。告白はしたんだけど返事はもらってないの」
「なんで?」
「返事貰う前にその人死んじゃった…」
「…そうだったんだ。辛いわね。ごめんね、余計なこと聞いちゃって」
「ううん…いいの。なんだかヨンに話したらすっきりしちゃった。声に出して初めて実感したわ。あの人はもういないんだって…」
ヨンはアグネスに抱きついた。
「アグネスは美人なんだからあなたさえその気になればす〜ぐ恋人なんて出来るわよ。イーサンだってアグネスに気があるみたいだしね」
アグネスは苦笑いした。
私はもう誰にもときめかない…私の恋心はカイン様と共に死んだのだから…。
アランはもの影から二人の会話を聞いていた。
アグネスの恋した相手…昔の俺はそいつを知っていたのかな?
アランの心にチリチリと焼けつくような痛みが走った。




