お前なんか嫌いだ!
アグネスは早速、様子を見にやってきたナオミに学院のメイドになりたいと訴えた。
「テラでの経歴からみてもあなたには軍で働いてもらいたかったのだけど…どうしてあの学院なのかしら?もしかしてもう会ったの?彼に」
アグネスはうなずいた。
「アランはガーディアンコロシアムでクロノスごとあなた方に拐われました。昨日会ったアランは私のことをすっかり忘れていたんです。彼に何をしたんですか?」
アグネスの敵意に満ちた目に怯んだ様子もなくナオミは正面から見返した。
「あれは我々政府が仕組んだことではないのよ。クロノスを拐ったのは黒の羊飼いと呼ばれている過激派グループなの。」
「そんなの言い訳よ!ちゃんと抑えられなかったユノ政府の責任だわ。」
カノンが声をあらげて反発した。
「ええその通りだわ。でもね、本当のところを伝えておきたかったのよ。実は今、あちこちで暴動が起きているの。政府はその沈静化にやっきになってる。正直言って手が回らない状況よ。だからあなた方にも気をつけて行動して欲しいわ。」
「ええ、分かりました。それで学院の件は?」
カノンはなんとかアグネスの望みを叶えてやりたかった。
「いいわなんとかしましょう。学院の中なら安全でしょうから」
アグネスはホッと胸を撫で下ろした。
ナオミはポツリと呟いた「無駄だと思うけどね…」
それから一週間後…
白いレースのエプロンを着けたアグネスは学院の厨房でジャガイモを剥いていた。
「あ〜あこれじゃあ元の大きさの半分ね。」ため息をつきながらカゴに山盛りになっている野菜類を恨めしげに眺めた。
その時、後ろからふいにアランが声をかけてきた。
「そんなんで昼に間に合うのか?あと90分しかないんだぜ」
アグネスは声を弾ませた。
「大丈夫よ!私の料理は見てくれは悪いけど味は良かったでしょ?これさえ剥けたら後は簡単なんだから!」
アランは腕組みしながら、いぶかしげな顔つきでアグネスを見ている。
「しかしここまで押し掛けてくるとは…あんたストーカー?思い込み激し過ぎるよ。一回医者にみてもらったほうがいいぜ」
アグネスは包丁の手を止めてアランの方を振り返った。
「アラン、思いだして!私達テラで一緒に暮らしていたのよ。あなたはアニメオタクで部屋中フィギュアだらけだったわ。」
アランは鳩が豆鉄砲喰らったように目を丸くして弾けるように笑い出した。
「アハハハハ!俺…俺がアニメオタク?あんた何言っちゃってんの?しかも俺と同棲してたって?なかなか面白い話だな。じゃあ、あんたは俺の女だったってことか…新手のナンパにしちゃあ、つまんない筋書きだぜ。」
アグネスは立ち上がった。
「そ…そんなんじゃないわよ!ああもう、なんて説明すればわかって貰えるの?」
アランは苛立つアグネスをおもむろに抱きすくめた。
「ア…アラン?」
アランはアグネスのスカートの中に手を差し入れてきた。
「や、止めて!!」
「フフフ…最初から言えよ。こうするのがお前の望みなんだろう?」
アグネスは必死に抗ったが、アランはビクともしなかった。 アグネスはなんとか手を滑らせ、反対側の太ももにくくりつけたナイフをアランの喉元に突きつけた。
「どきなさいこの野獣!」
ナイフの冷たい感触にアランは驚いて跳び退いた。
「…物騒なやつだな。冗談だよ冗談!そんなマジになるなって…ほら、昼飯間に合わなくなるぜ。俺は退散するからよ!な?」
アグネスはジャガイモを手にするとアランに向かって投げつけた。「バカヤロー!お前なんて嫌いだ。あっち行っちゃえ!」
アランは厨房から逃げ出していった。
後に残されたアグネスの顔には涙の跡がくっきりとのこされていた。




