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つかの間の夢

カノンは広々とした部屋の中を見回した。

「なんだか気が抜けちゃったわ…」

「そうですね。あの子は騒がしかったけどみんなに元気をくれていたんですよね。」

アグネスまでが寂しげにため息をついているので、見かねたエリザベートは二人に声をかけた。

「クヨクヨしたって始まらないわ!今頃シシィは新しい学校でお友達と楽しく遊んでいるわよ。ああみえて私達の中で1番ハングリーだし、しっかりしてる。大丈夫だってば!私達も前に向かって進まないとね、どう?これから散歩にでも行ってみない?この辺の地理もよく分からないし、ちょっとした探検のつもりで!」

カノンは目を輝かせた。

「いいわねぇ。これからしばらくここで暮らすなら周辺のお店もチェックしておかなくちゃ!アグネスそうしましょう」

アグネスは全く見知らぬ土地を武器無しで歩くのには不安があったが、このままここに缶詰めになっているわけにもいくまいと思い納得した。

「分かりました。でもお二人ともあまりフラフラしないで下さいね。我々にとってはユノはまだ安全かどうか分からないんですから」エリザベートはそんなアグネスをまるで先生みたいだと笑った。

まったくお二人ともお嬢様育ちだから…困ったもんね。

アグネスはキッチンに行くと、みんなに見付からないようにそっとナイフを忍ばせた。

「さあ、行きましょう」

久しぶりの外の空気を吸って3人はやっと生きている実感を噛みしめていた。

こうして外から眺めてみると、この家は表通りではあるものの離れ小島のように周囲に建物もなく木々に守られ、隠れ家にぴったりの場所であった。 アグネスは心の中で呟いた。

やはり…

ユノの人々はテラ人を受け入れていないんだわ。心の中ではね…

この家を見るとよくわかる。

こうでもして隔離しなければ我々は危険ってことね。人の妬みほど恐ろしいものはないってことか…。

アグネスは太ももにくくりつけたナイフをスカートの上からそっと確認した。

曲がりくねった道をしばらく歩くと、立派な家が建ち並ぶ御屋敷街が広がっている。

そこを抜けるとお洒落な店がずらりとならんだメインストリートに出た。

可愛らしい小物屋やコーヒーショップ、デパートらしきビルがあちこち林のように突き出ていた。

つかの間カノン達はここがテラであるような錯覚に陥っていた。

テラの崩壊も愛する人々の死もすべて夢の中の出来事にちがいない。

私達は長い夢をみていたのだ。

「平和な世界ね…またここで頑張れそうな気がするわ」

エリザベートがうっとりした声で話している。

その時、子供達が円筒形の建物からワラワラと出てくるのを見かけた。

「まあ、学校だわ。小学生くらいかしらね」子供達の元気なはしゃぎ声が流れてくる。

「かわいいわね〜アグネス」

「………」

「アグネス、どうしたの?」

エリザベートは口を両手でふさぎ瞳を大きく見開いたアグネスの視線の先を追いかけた。「ウソ…アラン?アランなの?」

その言葉にカノンも声をあげた。

「なんですって!?どこにいるの?」

アグネスはもうどんな言葉も耳に入らなかった。

ただ夢中で走り出した懐かしい弟のもとに。

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