2つの魂
エレノア皇太后はカプセルで息を引き取った息子の美しい髪を愛しげに撫でてやった。
「まさかこの研究がこんな時に役立つとはね…母として複雑な気持ちです」
周りの人々もかける言葉も見つからず、ただカインの意識が戻るのを待つしかなかった。ロバートはカインの顔色を確かめながら皆に話しかけた。
「みなさん、この研究は元々ガーディアンとパイロットのシンクロ率をあげるために開発されたものです。今まで行われた人体実験はたった一度だけ。しかも人体から動物という、いわば人間の意識が働きやすい環境においてのみなのです。それでもやはり後遺症は残り我が娘エリザベートは、もはや子供を産むことの出来ぬ身体になってしまいました。今回はより特殊で、肉体を失った我王の魂をカインに無理矢理移しました。それによってどんな事態が起こるのか正直私も予測がつきません。あとは意識が戻るのを待つのみ…どうか呼び掛けてやってください。彼らを意識の底から引き上げてやる手伝いをするのです」アリサは我王の亡骸にしがみついて泣いているばかりだ。
セシリアはがカインのそばに行き、その手をそっとつかんだ。
「カイン…いいえ我王、どうか目を覚ましてちょうだい。私達のもとに帰って来て!」
実はカインの身体を揺すぶった。
「おいカイン、もう終わったぞ早く起きろ。ぐずぐずしてると夕飯に間にあわん。」
カインの眉がピクリと動いた。
「う…」
ロバートが顔を近づける。
「気が付いたか…」
ゆっくりとまぶたが開いていく。
「ここは?…みんなどうしてここに?」
キョロキョロ見回しているカインにサラが声をかける。
「お帰りなさい我王」「サラ?ここはエストニアなのか…」
「そうですよ。あなたは今カインの身体にいるのです。横を見てみなさい」
隣のカプセルに横たわっているのはあろうことか自分自身であった。
「俺は死んだのか?」ロバートが答えた。
「医学的にはあなたは死にました。しかし科学的には生きています。カインを借宿として魂はそのまま残りました。」
我王は頭を抱えた。
「どうしてこんなバカなことをしたんだ?それじゃあカインはどうなる?」
ロバートはため息をついた。
「いまの段階ではなんとも言えませんな。なんせ初めての試みです。あくまで予測ですがカインの意識は眠っている状態ではないでしょうか?」
我王は疲れた様子で横たわった。
「俺の身体は処分するんですか?」
ロバートはうなずいた。
「この肉体はもう機能しませんから」
サラは我王を慈愛のこもった瞳で見つめ優しく話しかけた。
「我王…肉体がなくともあなたはれっきとしたエストニアの王です。カインは今のエストニアにはあなたが必要だと申し、自ら進んでこの役目をかってでたのですよ。私は我王の影なのだからあなたが存在しなければ自分の存在価値はないとまで言っておりました。テラが滅亡した今、あなたが皆の希望なのです。この星を再生するために力を尽くしましょう!」
我王はすべてをなげうって自分を助けてくれたカインの思いを胸に、王としてなすべき事を考えていた。




