L:卒業
時々、あの子の夢を見る。いつも明るくて、ひたすらに前向きで、誰よりも優しかったあの子は、人生における唯一の親友と言ってもいいかもしれない。
あの子に無理やり生徒会副会長に推薦されて、柄でもないのに色んなことをやらされたことを覚えている。駆け抜けるような一年で、あの子と家族よりも長い間一緒にいて、気がついたら私たちの役目は終わっていた。引継ぎが終わった日、備品だらけの物置で私は尋ねた。
「それにしても、なんで私だったの?もしかして、同じクラスだったからとか言うんじゃないでしょうね?それとも嫌がらせかしら?」
「違うよー。私ってお馬鹿で暴走気味でしょ?かんなちゃんみたいなしっかりしてる子の方がいいなって思ったの。かんなちゃんのことは前から気になってたしさ。私、かんなちゃんと一緒だから会長やろうって思えたんだ」
あの子がはにかむ。私はそれまで知らなかった。人間というものがあれほどまでに無垢に笑えるのかと。あの子の側にいれば、私だってあんな風に素直に笑えるかもしれない。淡い期待があった。救いを求めていた。幸福な時間の持続を願っていた。
卒業式がやってきた。涙ぐみながら思い出話に花を咲かせる生徒たちの中で、私はあの子を探していた。あの子は椅子に座っていて、多くの友達に囲まれていた。卒業証書を入れた筒を手に持ち、あの子は感動の涙を流していた。
私も輪に加わりたかった、でも、できなかった。『一緒に帰ろう?』の一言が言えなかった。あまりにもあの子が眩しすぎて、こんな自分が声を掛けちゃいけないと思ってしまった。性格も、境遇も、価値観も何もかも違い過ぎた。
私は一人ぼっちで廊下を歩く。走り回る生徒たちと逆方向に進んで行く私は、既に生を憎み始めていた。私の願いは見事に打ち砕かれて、幸せなどただの砂上の楼閣に過ぎないことを思い知らさせる。結局は永遠など存在しない。喪失こそが世界の真理だと悟ったのだ。。卒業とは喪失の疑似体験だ。将来にやってくる多くの喪失や別れに慣れさせるための装置だ。人は失うことにおいて永遠を知り、順応して問うことをしなくなる。私は違うが――。
この夢を見た時、私の目はいつも涙で濡れている。
あの子とはもう音信不通だ。今、何をしているのかわからない。これからも知ることはないだろう。孤絶した私の存在など、当の昔に忘れているに違いない。
あの卒業はそういう意味だったのだ。そうだ、あの日からだ、私が生を憎むようになったのは。