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 昼下がりの庭園に、軽やかな笑い声が響く。

 声の主はこの国の王。小麦色の美しい髪に、薄氷の色をした涼やかな瞳。優しげで穏やかな雰囲気の美丈夫だ。


「陛下、もう笑うのはおよし下さい!」

「いや、すまないな『(ステラ)』……でも、あんまり可愛らしいから」

「訳の分からない説明をしたことのどこが可愛らしいのですか」

「ははは。でも仕方なかったのだろう? シリウスに紺碧の竜の話はできないとなれば、……その部分しか話せない」


 ――――そう。あの夜、宿での出来事。



 ――――『ただのひと』同士、似合いであろう。姫巫女よ、――紺碧のを頼んだぞ。



 そう言った竜の言葉から、シリウスさまに伝えられる部分だけを抜き出したら、「似合いであろう」しか残らなかったのだ。

 ひどく動揺した頭では、その答えしか浮かんで来ず――、結果として「竜に自分たちはお似合いと判定されたから、妾はあなたさまを幸せにすると誓いました!」という、物凄い、阿呆みたいな答えになってしまって――。


 という話を、何故だか陛下に報告する羽目になっているところなのである。


「別に良いではないか。私も似合いだと思うぞ」

「陛下!」

「『星』がそんなに執着するものを、私はシリウスの他に知らないよ」


 そう言われてしまえば、答えに窮してしまう。それはそうなのだ。だって、今までの『星』も、――妾だって、紺碧の竜を眠らせるために日々を生きてきたのだ。その竜が、たとえ『ただのひと』の姿になっていたとしたって、『星』の生きる意味の全てになるのは必然だった。


「神官見習いなんていってひとりで騎士団に出向いて。私のところにやってきてまで外出許可を直談判して。シリウスが傷つかないように王命まで出させて竜に近づかないようにした」


 そういえば、その王命もなかったことにするように迫られたんだっけ、などと、さも可笑しそうに続ける。


「……シリウスを幸せにしたいと奔走している貴女は、『星』としてあるときよりずっと自然に輝いていたよ」


 眩しそうに目を細めて、陛下は静かに笑って。そして卓についていた肘をおろし、居住まいを正した。


「さて。そろそろ本題を聞かないと。私にしか話せないことがあるんだったね、『星』」

「……はい、陛下」


 あのとき、竜から聞いたことは、殆ど騎士への報告には上げていない。歴史上秘匿されてきた内容が多かったため、自分が直接書類を認め、王へ直に渡るよう手配したのだ。

 けれど、それでも尚、書類という形にはどうしても残せなかったことがあった。



「『星』スピカは、その魂を賭しても、竜を眠らせることは出来ぬそうです」



 そう――『星』として求められる力、竜に眠りを齎す『御業(みわざ)』。

 銀竜は、妾にはその力はないと、そう言ったのだ。


 それは、『星』という存在を揺るがすものだ。自分の存在意義を打ち砕く一言。そして、これから先、竜を御する方法はないのだという証明でもある。


「紺碧の竜は、長きの眠りの中で、自分の力を削り続けていたようです。三百年余り、『星』に眠りを重ねるよう言い続けたのは、恐らくそのため。そして、その『星』もまた、『御業』を使い竜を眠らせる度に魂が傷つき、初代姫巫女の力は徐々に失われていった」


 『星』の中の姫巫女の力が弱まっても、竜もまた力を弱め続けていたため、眠りの『御業』は果たされ続けた。そして遂に、竜は『ただのひと』になれるほどに力を削り、魂は流転した。


「妾は、『ただのひと』ほどしか眠らせられない。……価値なき『星』でありました」


 自分を嘲笑するほかない。

 神殿に来て十数年。『星』であるためだけに生きてきた。

 姫巫女に、先代たちに並び立つものとなれるように。たとえもう竜がいなくても、『星』としてお役目を果たせるように、と――。


 けれど、蓋を開けてみれば、何と虚しいことだろう。はじめから自分には、そんな力は備わっていなかったのだ。


「……『星』」

「はい、陛下」

「貴女は無価値などではないよ」

「……陛下」

「貴女がいたから、銀竜と話せた。そして、貴女がいたからこそ、シリウスを見い出せた」


 いつの間にか俯いていた顔を上げる。美しい薄青の瞳が、優しい光をたたえて微笑んでいた。


「貴女は、間違いなくこの国の『星』だ。――ありがとう」


 そう言われてしまえば、もう、泣かずにはおれなかった。

 『星』として与えられる責、それなのに竜はおらず、何のために生まれたのかわからない不安。時に押し潰されそうになりながら、それでも、自分にも何かあるはずだと、足掻くように生きてきた。

 それが、その一言で全て、報われたような気がした。


「だからこそ『星』、私は貴女にも幸せになってもらいたい」


 言われた意味がよく分からず、ゆっくりと一度瞬くと、残っていた涙が一粒ころりと滑り落ちる。


「国王たる私から、此度の竜の対応に関し、貴女にひとつ、褒賞を与えたい」


 突然の申し出に、妾はただぽかりと小さく口を開けて、目の前の美丈夫を見返した。美丈夫はいつも通り、ただ穏やかに笑っている。




「受けてくれるね、――『星』」






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