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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
3話 魔法少女おでかけ
9/44

01

 昇降口の前で、壁を背に寄り掛かり携帯を見ている彩花に、生徒たちは遠巻きにそれを見ながら通り過ぎていく。


「生彩花じゃん。初めて見た」

「待ち合わせ?」

「例の彼氏? ヤバい奴って話じゃん」

「聞いた聞いた!」


 遠巻きに聞こえる彼女たちの言葉に、桜子が気にしていた理由がよくわかった。

 小さくため息をつきながら、目の前の携帯に映ったメッセージを眺める。


『先生に捕まった』


 ただそれだけ書かれたメッセージに、よく知らない彼女たちの言葉以上にため息をつきそうになる。


 放課後、買い物に行こう。


 それだけの約束だが、ブリリアントカラーライブが近づけば近づくほど、宣伝の収録も練習も増える。

 なにより、せっかく灯里と出かける約束をしたのだから、出かけたい。


「…………」


 一年と違い、二年は新学期とはいえ、すぐに通常授業が始まるため、先生に捕まったというのも授業の関係だろう。

 それなら、それほど長くはならないはずだ。

 昇降口近くにいることを返せば、既読はつかない。


「おい」


 翌檜学園は、芸能関係者も多いため、物珍しそうに見てきても、声をかけてくる人は少ない。

 どちらにしろ、最初から喧嘩腰に声をかけてくる人の方が少ないと思うが。


「何」


 ただ今回ばかりは、心当たりのありすぎる相手のため、携帯から顔を上げれば、不満気にこちらを睨む久遠の姿。


「お前、男の家に転がり込んどいて、なんだその態度」

「寮に入っただけだけど?」


 きっかけは久遠の言葉であることには違いないので、少なからず両親から何かを言われたのだろう。

 でなければ、学校でわざわざ声なんてかけてこない。少なくとも口論になることがわかっていて、外面が大切な生徒会長であるのだから。


「は? 隠してるつもりかよ。彼氏の家に泊まってるって知られてんだよ。アイドルなんて男に媚び売る仕事だってのは知ってるけどな」


 鬱憤が溜まっているのは理解するが、どこをどう取ればそういう解釈になるのか。

 やはり、相手にしてはいけないタイプかと、携帯に視線を落とせば、痛みと共に携帯が地面に落ちる。


「人が話してるんだぞ。何、携帯見てんだよ」

「他人の携帯を叩き落すのはいいわけ?」


 さすがに睨むが、久遠はむしろ満足気で、呆れてしまった。

 携帯を拾い、電源が入ることを確認すると、これ以上久遠に絡まれないように移動しようと鞄にしまう。


「逃げんのかよ」


 何か返したら負けだ。

 無視して歩き出した時だ。小走りで外に出てくる足音に、少し目をやれば、出てきた灯里の姿に足を止めた。


「よかった! まだいた!」


 灯里は、安心したように彩花に近づくと、ふと久遠の方に目をやる。


「…………」


 少し渋い顔で灯里の顔を見ている久遠と彩花を、交互に見やると、彩花の方に一歩近づき、小声で知り合いかと尋ねられる。


「……一応、二番目の兄」

「邪魔しちゃった……?」

「ううん」


 むしろ、ちょうど良かった。


「話は終わったから」

「そう?」


 こちらを睨みつける久遠が、そのよく回る口を回さない理由は、おそらく灯里のせいだ。


 幸延家で、才能もあって、将来魔法士になるため育てられている云わばエリートのような存在は、この翌檜学園内では一目置かれる。

 だからこそ、横暴であっても生徒会長を任せられる。

 しかし、魔法だけの才能であれば、久遠に勝る生徒は存在する。そういった生徒たちを敵に回せば、たちまち今まで積み上げてきた信頼や信用は失われる。

 故に、イレギュラーな存在である灯里に、それらを見極める時間が必要だった。


「それより、早く行こ。デートだよ。ブクロデート」


 アイドルが”デート”と言うのはマズい気もしたが、女子同士だし、プライベートなのだからいいのかと、灯里は軽く久遠に会釈をしてから彩花についていく。


「また起きりゃいいな。白墨事件」


 嫌味のつもりであろう言葉に、少しだけ足を止めそうになるが、じっと久遠を見ている灯里の腕を掴み、駅に向かった。


「――――編入書類?」


 電車の中で、教師に呼ばれた理由を話す灯里に、彩花は驚いたように何度か瞬きを繰り返す。

 てっきり翌檜学園には、赫田と同じように一年から入学していたのかと思っていたが、今年から入学したらしい。


「うん。ほとんどヒロくんが一緒にやってくれたんだけど、また帰ったらやらないと……」


 めんどくさいとため息をつく灯里に、彩花は驚きを隠せていなかった。

 力の強い魔法使いは、扱いを知らなければ魔力を暴走させる危険もあるため、高位になればなるほど、翌檜学園の方から招待される。

 結果的に、将来有望な生徒が集まり、また魔法で犯罪を起こした場合、素早い犯人の特定に役立つ。


 その翌檜学園に編入ともなれば、その生徒の魔法の才能はずば抜けた物であることの証明であり、普通は大騒ぎになる。


「何で騒ぎに――」


 なってないのかと言いかけたところで、脳裏に過ったある事。

 入学式から連日のように、派手に暴れていた人物がいた。

 複数人の高位の魔法使い相手に、魔法を使わず素手で、ひとりで返り討ちにした新入生が。


「あー……うん。なるほどね」


 情報のはっきりしない編入生より、実際に起きた事件の方が興味を引く。


「10年ぶりの池袋!」

「あれ以来、行ってないんだ」

「うん。行けるようにしておけば、ブリカラもひとりで行けるから、ついでに場所も教えてほしい」


 白墨事件の後、テロの主犯が捕まっていないこともあり、池袋から人が消えた。

 駅から出れば撃たれる、襲われるなどと風評被害も広がったが、それもこの十年で回復してきている。

 元通りではないが、また活気づき始めているのは事実だった。だからこそ、国や都は、このライブに力を入れている。


「当日は特設ステージが組まれるから、駅前から案内の人が立ってると思うよ」

「超大規模ライブらしいもんね」

「うん。展望台からなら見渡せるかも」

「展望台?」

「サンシャインの」

「…………何見るの」

「えっ、す、スカイツリーとか……?」


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