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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
2話 強くてかわいい魔法少女
7/44

03

 ダンスレッスンの休憩時間に、足音をぴたりと近くで止まり、顔を上げれば、魔法少女仲間である桃井桜子が立っていた。


「彩花。ちょっといい?」

「うん」


 笑顔ではあるが、彼女のキャラであるかわいらしさが一遍もない口調に、これから怒られることだけを察して、視線を逸らした。


「朝のアレ、どういうこと?」


 体力測定後の大問題は記憶しているが、朝は何の問題も起こしていないはずだ。


「男子と一緒だったでしょ」

「赫田の事?」


 確かに、昨日、今日と事件を起こしているのだ。桜子も翌檜学園に通っているため、危ない噂は耳にしているだろう。

 そんな危ない人間と関わるなという注意だろうか。

 どうしても、テレビに出ているだけあり、注目されているのだ。交流関係だって見られる。


「あの話のこと? それなら、赫田が悪いわけじゃなくて――」

「ちがーっう!! アイドルが! 男子と! 一緒に登校!! 大問題だわ!!」


 予想外過ぎた桜子の言葉に、首を傾げてしまう。


「いい? アイドルは卒業するまで、みんなの恋人。恋愛も匂わせも禁止!!」


 桜子は、魔法少女の事を必ず”アイドル”と言うし、誰よりもアイドルであろうとする。

 それは、アイドルというものを理解しきれていない自分には頼れるし、ファンを一番に思う姿勢は尊敬している。


 しかし、言われてようやく桜子の注意したいことを理解できた。

 女子と男子が、一対一で登校してくるなど、高校生にとって大イベントであり、付き合っているのではないかと噂されるからやめろということ。


「一応、下駄箱までもう一人先輩と一緒なんだけど、それでも、ダメ……?」

「下駄箱から教室までに、何人の目があると? しかも、その目が学校の外では三人だなんて見てるとでも? 場面だけで切り取られるに決まってんでしょ」


 少なくとも、桜子の耳には、昨日、今日と赫田を彩花が止めたことと、一緒に登校してきているということが、見事に混ざり、既に付き合っているのではないかと勘繰られているところまで聞き及んでいる。

 今のところ、赫田がアイドルである彩花に惚れているだけではないかとか、彩花ちゃんマジ女神などと、適当な言葉で流されているが、2日でこれでは、1週間もすれば、確実なものとして噂になる。


「う゛……だ、だって、寮が一緒だから、一緒に来るでしょ」

「時間ずらしなさいよ……って、アンタ、実家じゃないの?」

「実は、今、家出してて……」

「はぁ!?」


 桜子は、アイドルをプライドを持ってやっているため、言いふらすようなことはしない。

 だから、正直に昨日のことを教えれば、大分不快そうに怒っていたけど、最後まで話を聞いてから、大きくため息をついた。


「まぁ、気持ちは、わかる」

「でしょ!」

「でも、アンタ、それでこれから続けられるの? 具体的には、”ブリリアントカラーライブ”成功させられるの?」

「それは絶対にさせる!!」


 食い気味に桜子の質問に返せば、その勢いに驚いたように目を見開いていた。


「ブリリアントカラーライブだけは、絶対に成功させる。この気持ちだけは、誰にも、桜子にだって負けないから」


 ”ブリリアントカラーライブ”

 7月26日池袋で行われる魔法少女たちのライブ。

 それは、10年前”白墨事件”が起きた場所と日付であり、今でも恐怖の歴史として残っている白墨事件を魔法少女の力で払拭しようという企画だ。


 失敗なんてしたら、あの色のない世界を恐怖する人が増え続ける。それは、ダメだ。


「……やる気があるなら、まぁいいけど。メインで、私とアンタが選ばれた意味、わかってんでしょ」


 ブリリアントカラーライブは、事務所関係なく魔法少女が集まるライブだが、中心となる魔法少女は決まっている。

 それが、桜子と彩花だった。

 理由は、白墨事件に巻き込まれた魔法少女だから。


 幼い時、白墨事件に巻き込まれ、傷つきながらも立ち上がり、今度は人々を鼓舞する、なんともお誂え向きなストーリーではないか。


「寮ってことは、自主練、あんまりできないんでしょ。新曲は、外で練習できないし」

「あ、でも、今いる寮、人少ないから、自主練できるかも。管理人さんに聞いてだけど」


 正直、反対はされないような気がするし、練習場所は確保できそうだ。できなければ、どこか安いスタジオを借りるしかない。

 それに、小林が報告ついでに、泣く泣くスーツケースに詰めなかったものも持ってきてくれると言っていた。

 

「ふーん……そ」

「え、なんかダメだった?」


 少し不機嫌そうに頬杖をついている桜子に、またアイドルとしてダメな発言をしてしまったかと聞くが、別に大丈夫だと、顔を逸らされた。


「彩花ちゃん。桜子ちゃん。ドキュメント用の撮影だけど、何話してたの?」

「ひみつのガールズトークなので、取材NGでーす☆」


 カメラとマイクを向けられると、すぐにいつもかわいらしいキャラに変わる桜子は、本当に凄いと思う。


「そう言わずにさぁ」

「ダメですって~桜子と彩花ちゃんの、ふたりだけの秘密の推しクレープ屋さんの話なんですから」

「クレープ? ふたりは、どんなのが好きなの?」

「桜子は、イチゴとクリープたっぷりのクレープがかわいくて好きだなぁ……彩花ちゃんは?」


 急に話を振られ、全く話していない話を想像して、答える。


「私は、食事系とか――」

「あー! ガレットも好きだもんね! 駅前のだとよく食べてるの……なんだっけ?」


 全く記憶にないが、つまり桜子的アイドルNGという勧告である。

 実際、これに気が付かなかった時に、事務所から訂正するように言われたことがあるため、素直に話を合わせる振りをする。


「あーえっと、チョコバナナ?」

「そうそう! 桜子的には、ブリュレ風も好きなんだけどね」


 どうやらクレープらしい甘い物を答えろということだったらしい。

 本当に、こういう時にアイドルというものがよくわからなくなる。

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