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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
11話 世界に色を付ける魔法少女

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06

「――がんばって!! 彩花ちゃん!!!!」


 弾けるような声に、顔を上げれば、どこか見覚えのある女の子が叫んでいた。

 その子のお母さんらしき女性が、女の子の腕を掴んで、避難させようとしているが、女の子は全身を使って抵抗している。


「だってだって!! 彩花ちゃんは、強くてかわいい魔法少女だもん!!」


 大きな涙を浮かべながら、期待したまなざしを自分を見つめる女の子。


「絶対に、大丈夫だもん!!」


 自分の事を信じると、そう言ってくれているのに……


 あぁ、クソ……

 キラキラと輝くのは、涙じゃなくて、笑顔にしたかったのに。

 泣いて応援されるのではなく、笑って応援してほしかった。


 私はまた、何もできなかった。


「――――」


 マイクへ手をやり、女の子へ、避難するよう促そうとした時、その場にいた全員が、思わず耳を抑えてしまうようなハウリングが鳴り響く。


「よぉぉぉーーくッッわかってんじゃん!! 神の歌は、世界を浄化するんだよ!」


 会場いっぱいに広がるスパンコールの声に、観客だけではなく、彩花も含めたスタッフたちまでも、何事かと空を見上げる。


「あと一曲! まだ歌が残ってるのに、途中退出なんて中折れもいいところダロ!?」


 音割れを起こしながらも、捲し立て続けているスパンコールの声の後ろに、小さく聞こえる慌てた桜子たちの小声。

 しかし、それでスパンコールが止まるとも思えない。


「無観客ライブ? 言ってろ言ってろ! こちとら、ブクロのライブ飛び出して、ネットの電波で、全世界に発信してんだ!!」


 実際、止まることなく捲し立てているスパンコールの声が、突然切れると、騒がしいような妙な静けさが、会場を包み込んだ。

 先程までの重い空気はなく、先程の放送は一体何だったのか。そんな疑問ばかりが、その場にいた全員の思考を占めていた。


 彩花もその中の一人で、スピーカーをつい見上げてしまっていたが、すぐに聞こえるインカムの声。


「とにかく!! 幸延彩花ガチファンのガチ考察&解釈した結果! あの歌は、今、この場所で、あかりんに届けなきゃっしょ!」

「あの歌って……」


 そう言われて、まさかと頭に過ったのは、彩花自身が作った、未公開の曲。

 結局、ライブには、間に合わなかったはずだ。


「なんで、スパンコールがそれを……」

「乙女のヒミツってやつー? ほらほら、イケてるギャルは、ミステリアスって言うじゃん?」

「言わないよ!」


 意味が分からないと叫ぶ中、またインカムに入ってきた声は小林だった。


「今の放送なに!? 何する気だ!? スパンコール!」

「なにって決まってんじゃん。神曲をブクロ全体にかき鳴らす」

「ハァ!? そんなのしなくても、黒沼ちゃんのところには、赫田が行ってるから、彩花ちゃんは心配しなくていいからね!」

「んなこと言ってるから、こんなことになってんじゃん」


 小林とスパンコールの言い争いを聞きながら、彩花は、観客たちの方を見ては、足を止めて、こちらを心配そうに見つめる人たちと目が合った。


 こちらを罵倒する人たちじゃない、純粋に心配してくれている人たち。

 まだ、自分たちに希望を持ってくれている人たち。

 魔法少女(わたし)に、まだ期待をしてくれている人たち。


 悪意に掻き消されそうになっていた、その思い。


「――やる。やります」


 届けたい思いをちゃんと、届ける。


 強くて、かわいい、魔法少女。

 世界は救えなくたって、大切な友達の願いひとつくらい、叶えてみせる。


「スパンコール、流して!」

「さっすが神!! こんなエモシチュ逃すわけないよな!」


 きっと、この後、怒られるだろう。

 でも、それでいい。

 今ここで、歌わないと。

 灯里に届けないと。


――絶対に、後悔する。


 滲む涙を強く拭って、マイクを握り直す。

 誰かに届けるんじゃない。

 灯里に届ける。絶対に。


 握り直したマイクに向かって、大きく吸った息を、気持ちを、思いっきり吐き出した。


*****


 輪郭すら見分けるのが難しい暗闇の中、赫田はようやく、その黒い塊を見つけた。

 大柄の赫田ですら、ゆうに越す大きな人影。それは、ドレスでも纏っているかのように、ひらひらと裾をはためかせている。


「やっと見つけた……!!」


 槍を構えて、踏み込むと同時に、赫田に襲い掛かる大きな魚影。

 それを避け、魚影を切りながら、踏み込む。


 よほど、赫田を近づけたくないのか、近づくたびに、勢いを増す攻撃を捌きながら、赫田は楽し気に笑っていた。


「やっぱ、戦うなら、先輩に限るな!」


 恵まれた体躯に、恵まれた魔力。その上、好戦的な性格。

 その辺にいる怪魔では、満足できなかった。

 その辺にいる魔法士でも、満足できなかった。

 唯一、赫田が戦いを挑んで、勝てなかった相手。それが、灯里だった。


 何度戦っても、命の危機に、アドレナリンが溢れ出す。

 この興奮は、他には変えようがない。


「だけど――――」


 人影が、ゆらりと赫田へ手を向ければ、ひと薙ぎにその腕を落とした。


「テメェはいらねェ」


 静かにその人影を睨みながら、赫田はそう、吐き捨てた。


*****


 光が弾けた。

 眩しいくらいの、光。


「彩花ちゃん……?」


 キラキラと眩しい、彩花ちゃんの声が、聞こえる。

 あの時と同じ、まっすぐこっちを見つめる、きれいな歌声。


 がんばれって、手を伸ばしてくれてるような、そんな感覚に、私も手を伸ばした。

 その光に向かって。


「――灯里ッッ!!!!」


 切り裂くような閃光に、強く腕を引かれた世界は、目が眩むような、鮮やかな世界だった。



「ヒロ、くん……?」


 珍しく怪我をして、汗もいっぱいかいて、息も切らしたヒロくんが、そこにいた。


「はぁぁぁぁ~~~~……」


 目が合えば、腕を掴んだまま、ヒロくんは、大きくため息をつき、そのまま地べたに座りこんでしまった。

 周りを見れば、既に怪魔もドローンもいなくなっている。

 全部、倒し終わったらしい。


 代わりに、町中に響いているのは、彩花ちゃんの歌声。


「え……これ、ブリカラの放送!? 町中に流してるの!?」

「あ゛ー……なんか、新曲の発表だからだとか、なんとか言ってた」

「そういうの、こういうライブであるんだ!?」

「…………知らねェけど、あんだろ。たぶん」

「じゃあ、早く戻ろう! 立てる? 運ぶ?」


 珍しく疲れているヒロくんに声をかければ、ヒロくんは考え込むように、こちらを見上げると、気合を入れるように立ち上がった。


 彩花ちゃんの新曲が終わるまでに、間に合ったかというと、少し怪しい部分もあった。

 だけど、終わりかけのタイミングで、ステージの上に立つ彩花ちゃんと目が合えば、彩花ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて、手を振ってくれた。


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