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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
11話 世界に色を付ける魔法少女

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05

「――は、ハッ! お前らみたいな、ドローンとラジコンの差もわからないような連中に、俺が作ったシステムなんてわかるわけないだろ! バーカ!」


 青兎馬は、拘束されながら、青い顔で、パソコン画面に向かう小林へ叫ぶ。

 だが、小林は気にした様子もなく、無線で誰かに連絡をしていた。


「だとか、言ってるけどぉ?」

『ハァ~~~~負け惜しみ乙。拙者の作ったシステム突破できなくて、泣き寝入りした、青兎馬くぅん? 涙で赤い毛並みが青くなっちゃったとかァ? 3年ROMってから出直しなァ????』

「あ゛!? んだとテメェ!!」

『お顔真っ赤。仕方ないですなァ~~青兎馬らしく、拙者が青くしてあげますとも』


 無線越しに、青兎馬を意気揚々と煽っている根倉に、小林は静かに呆れていた。

 もし、現実に顔を合わせていた、根倉も、これほど元気に話していないことは、想像に易い。まさに、ネット弁慶というものだ。


 だが、実力は本物で、小林の目の前の画面が、一斉に切り替わっていく。

 ここで、ライブ周辺のドローンを制御していたようだが、その機能が根倉に掌握されたらしい。


「は……? 嘘だろ、嘘だ嘘だ! ありえない……!! ありえないありえないありえない!!」


 根倉の宣言通り、顔が青くなっていく青兎馬に、根倉の笑い声が響いていた。


『住所特定されてる時点で、確定演出っしょ。これで、ドローンは止めたから、あとは人工怪魔の方だけ。拙者の見せ場終了』


 あとはお任せ。とばかりに無線を切った根倉に、小林も、未だにありえないと何度も呟き続けている青兎馬に、小さく息をついた。


*****


 ドクリ、ドクリと、心臓の脈打つ音が響いていた。

 体が重くて、苦しい。

 一歩進むだけの足が重くて、怠い。


「…………」


 声が遠い。

 楽しそうな、声、が。


 カタリと何かが落ちる音に目をやれば、携帯の画面が光っていた。


「……ぁ、キラピカの順番になっちゃったんだ……」


 10分ほど前に投稿されたらしい、きらりとひかりのライブの予告投稿。

 きっと、もうライブは終わってしまっているだろう。


「初生ライブだったのに……」


 見たかったなぁ……


 他にも、電話とメッセージ通知がいくつか来ている。

 叔父さんの話だと、ドローンとか、怪魔とか、まだいるらしいし、戻らないと。


「めんど、くさい、なぁ……」


 でも、彩花ちゃんたちが頑張ってるステージだし、それを邪魔させたくないし、そもそも、なんで邪魔するんだろ。

 キラキラで、ピカピカしてる、あの子たちの光を消すみたいに、なんで……


「あー……でも、私のせいだっけ……」


 そうだ。そうだった。

 さっきの半分サイボーグの人、私を狙ってたからだって言ってたな。

 じゃあ、私か。私のせいだ。


 手元に新しく使い魔を作り出して、怪魔に向かって放つ。


「あと、どのくらいだろ……」


 早く終わればいいのに。


 そう思いながら、灯里は携帯の画面を消した。


*****


「みんなァーー! ありがとーー!!」


 桜子が歌い終えれば、投影されたピンク色の花のコメントが、現実に聞こえる拍手と共に溢れる。

 そのコメントのおかげで、わかりにくくはあるが、周囲は既に、昼にも関わらず、夜のような暗さが覆っていた。


 この拍手とコメントの波が収まれば、誰もが気づく。この異様な光景に。


「桜子のライブ、楽しんでくれたかなぁ?」

「「「「たのしかったーー!!」」」」


 ドローンや怪魔の情報は、もうほとんど入っていない。

 この異様な光景だけだ。


「かわいかったぁ?」

「「「「かわいかったーー!!」」」」


 この異様な、灯里の魔法だけが、周囲を不安にさせてしまう。


「サクラ・ラブラブー?」


 早く、早く、戻れ。


「「「「ラブリー♡ハートっ!!!!」」」」


 薄くなったコメントが、また増える。


「ありがとーーーー!!!!!!」


 ダメ、だった。


 心の中に、悔しそうな表情を押し留めて、桜子は満面の笑みで、観客たちに手を振り、ステージをあとにする。


 ステージ裾には、暗い表情をした彩花の姿。

 その表情だけで、この後のことは、想像がついた。


「…………」


 光の溢れているステージとは違い、薄暗い裏手は、なおさら暗くなっていて、もはや、白黒どころか、黒しか見えない。

 その中、スタッフは慌ただしく、避難誘導のための準備に入っていて、残っているのは、スパンコールときらりとひかりくらいだった。


「彩花」

「わかってる」


 桜子の言葉を遮るように答える彩花に、桜子も普段はスタッフに見せないような、真剣な表情で、彩花を見つめる。


「ちゃんと、伝えてくる」


 納得はしていないという声色ではあるが、これ以上わがままを通せないと、諦めた彩花の様子に、桜子は音もなくため息をつき、視線を逸らした。

 そして、不安そうに彩花の事を見送るきらりとひかりの傍の椅子に、どかりと座り込み、置かれた新しいペットボトルを開けて、煽った。


『お知らせいたします。現在、池袋周辺にて、大規模魔法が行使されており、避難指示が発令されました。

 ライブ会場周囲に、怪魔などの危険物は確認されていませんが、会場にいる皆様は、落ち着いて、スタッフの指示に従い、池袋駅構内へと避難をお願いします』


 淡々と避難指示を告げる放送と、ざわつき出す観客たちの声。


『落ち着いてください。周辺は、警察や魔法士が、すでに安全な避難経路を確保しています。順番に、焦らず、避難をお願いします』


 これだけ話題になっていたライブだ。白墨事件の事を知らない観客はいない。

 だが、誰もが、テロに巻き込まれるかなどを思った上で来るわけではない。ましてや、実際に巻き込まれたのなら、まともでなんていられない。


『落ち着いて! 落ち着いてください! 怪魔や魔法使い、ドローンの類は、会場周囲には確認されていません!』


 会場のざわつきも、ステージに投げられる罵倒も、嫌というほど聞こえてきた。


「嘘つき! 安全だからやったんでしょ!!」

「役立たず!! こんなこともできないのか!!」


 避難する足を止め、怒りに任せて、他人を非難する人々。スタッフが、無理矢理連れて行き、その声もすぐに小さくなっていくが、それでも不安そうな声は消えない。


『――わた、しは! 私は、信じてます!!』


 そんな不安な声を掻き消すような、彩花の少し震えた声。


『今、戦ってるのは、私が一番信頼して、大切な友達です! その友達は、このブリカラをすごく楽しみにしてて、きっと誰よりも、楽しみにしてて……!

 だから、来てくれたみんなも、魔法少女も、スタッフも、みんな、守ろうとしてくれてる!! 今もそう! だから、だから――』


 嘘つきとも、役立たずとも言わないで。

 それは、このステージに立っている人間が言ってはいけない言葉だ。

 巻き込んだ側の人間なのだから。


 言えない言葉を飲み込み、口元が歪む。

 こうなった以上、幸延彩花個人ではなく、魔法少女として、役割を果たさなければ。


 『だから、信じて、安心して、避難して』と、魔法少女として正しい言葉を口にしようとした、その時だ。


「――――がんばって!! 彩花ちゃん!!!!」


 弾けるような声が会場に響いた。


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