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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
11話 世界に色を付ける魔法少女

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04

 声に振り返った灯里と、その肩を強く掴んだのは、嵜沼だった。


「おじ、さん……?」

「殺してないだろうな!?」


 険しい顔で、息を切らしながら、灯里の後ろに倒れる、四肢の残っていない海馬を見て、嵜沼は大きく息を吐き出した。


 まだ死んでいない。

 恐怖と怒りが混ざった表情をしているが、まだ、生きている。


「人を殺すな。何度も言ってるだろ。それは、大きな責任を伴う行為なんだ」

「でも……この人、テロリストなんでしょ? それに、ヒロくんのことを殺そうとして、彩花ちゃんたちみたいな、がんばってる人を邪魔して……」

「だとしても、だ」


 海馬が逮捕され、裁判に掛けられれば、死刑は免れない。

 それを嵜沼は、否定もしなければ、これだけ大勢に迷惑をかけて、反省もせず、生きられるくらいなら、という感情もある。


「お前は、一般人だ。どれだけ、Sランクだなんて大層な魔法使いでも、その責任をまだ負う必要はない」

「責任、って別に、いいよ。そんなの。法律の話なら、いいんじゃなかったっけ? 護衛とかの任務だから、正当防衛とか、そういうのになるって話じゃなかった?」


 今回、ブリリアントカラーライブの警備として雇われているのだから、法的に、警備に必要だった戦闘での被害については、個人の責任にはならない。

 赫田が、よくやりすぎだと、頭を抱えられているのだから、それは間違っていないはずだ。


「そんな雑にしか覚えてねェのに……あぁ、でも、法律の話じゃねェよ。心の話だ。お前の、いや、俺や、周りの奴らのだ」


 理解できないとばかりに、眉を潜める灯里に、嵜沼は片方の眉を下げる。


「は、ハハ……! こんなバケモノに、何が心だ……!! 災厄に感情があるとでも!?」


 裏返った声で叫ぶ海馬に、灯里の視線が向きそうになるが、もう一度軽く叩かれる肩に、嵜沼へ視線が戻る。


「ここはもういい。あとは俺がやっておく」


 無線からは、ライブ会場に向かう人工怪魔やドローンの数が一気に増え、応援を呼ぶ声がひっきりなしに聞こえている。

 それに、この大規模な空間魔法が続いている限り、世間の不安は拭われない。


「キラピカのライブ、見たかったんだろ?」

「ぁ……そっか、もう時間、そんなに経ってるんだ……」

「そうだよ。早く、行ってやれ」


 こくりと頷く灯里がビルを出ていくと、嵜沼は先程とは打って変わった、冷たい視線を、海馬に向けた。


「テメェには、聞きたいことが山ほどある」

「ハッ……! お涙チョーダイのクソ演技に、代金を払えって――」


 今度、海馬に襲ったのは、本物の痛みだった。

 人間の急所というものをよく知った、同種の人間が行う、拷問に近い痛み。


「テメェに価値を決められるほど、安い人間じゃねェんだよ」


 よく知った冷たい視線と表情に、海馬は、引きつった口端をより上げた。


*****


 会場の近くでは、一気に増えた怪魔とドローンの処理に、魔法士たちは追われていた。

 しかも、怪魔の一部は、同士討ちまでしていて、現場は混乱を極めていた。


「苅野! あまり前に出過ぎるな! 俺たちは、駅までのルート確保をできてればいい」

「は、はい!」


 担任からの声に返事は返すが、複数の怪魔を相手にしながら、自分の位置も気にしろというのは、なかなか難しい。

 また視界の端から現れた、黒い影のような魚型の怪魔に、苅野は小さく息を飲むが、直後、その魚の首が飛び、近くにいた犬のような怪魔の首も飛んだ。


 怪魔の首をふたつを、一瞬にして飛ばした赫田は、槍を大きく振りながら、心底楽しそうな表情をしていた。


「ヒャッハハハッ! いいじゃねェか! 先輩のもいるおかげで、退屈しねェ!!」

「は……? あ゛、やっぱ、これ、黒沼の使い魔も混じってんのか!」


 薄々、同士討ちしている怪魔の内、どちらかは灯里の使い魔ではないかと予想していたが、確信が得られない状況では、下手に伝えてることもできない。

 とはいえ、怪魔と使い魔の見分けがつかないため、灯里の使い魔がいるとわかったところで、対処のしようはないのだが。


 そもそも、目の前の赫田も、容赦なく灯里の使い魔を切っているようだし。


「あ゛? 気づいてなかったのかよ」

「見分け方でもあんのかよ」

「魚」

「あんだ……」


 てっきり、見分けがつかないから、どちらも切ってるのかと思っていたら、わかった上で切っているらしい。

 これで、灯里と赫田が仲が良いのだから、本当によくわからない関係だ。


 確かに、苅野も、灯里が、時折空中を泳ぐ魚を出していた記憶はある。

 ここに本人がいないのに、怪魔に攻撃していると考えると、少し怖い部分もあるが。


「つーか、黒沼は!? この魔法使ってる奴のとこか!?」

「ア゛? あ゛ー……別に問題ねェよ」


 苅野の問いかけに、一瞬、苅野を睨む赫田だったが、すぐに乱暴に自分の頭に手をやると、頭をかいた。

 そして、携帯を取り出すと、大きな舌打ちをすると、携帯をしまい、大きく槍を振るい、また走り出す。


「あ、おい! 単独行動は危ねーぞ……って聞いてねェ……」


 苅野の呼びかけなど無視して、どこかに走っていく赫田に、苅野もため息をつくしかない。


 どんどん暗くなって、色が見えにくくなっている様子は、おそらく7年前の白墨事件と同じ状態なのだろう。

 この魔法を使った誰か、その誰かと灯里が戦っているのか。

 自分が手を貸すことなどできないだろうが、歯がゆさは感じてしまう。


「よそ見をするな!!」


 担任の声に、慌てて顔を上げて、怪魔からの攻撃を避ければ、その先にいた別の背中を丸め、こちらを威嚇する猫のような怪魔。


「ヤベ……ッ!」


 慌てて体を捻り、怪魔から距離を取るように転がるが、攻撃は来ない。


 何故かなど、考える余裕はない。

 体を起こすと同時に、怪魔との距離を詰め、その首に剣を突き刺す。


「フシャッッ!!」


 怪魔が悲鳴を上げるが、腕や足を震わせるばかりで、攻撃してくる様子はない。

 そのまま、力いっぱい、剣に体重をかけて、怪魔の首を切り裂いた。


「――――」


 その時、ようやく顔を上げれば、その怪魔は、じっと苅野の事を見ていた。


「ぇ」


 だが、それ以上の怪魔は声をあげることはなく、静かに毛を逆立てたまま、ゆっくりと目を閉じた。

 その様子は、あの時の苅野たちに、懐くことなく威嚇ばかりしていた猫に、どこか似ていた。


「うそ、だろ……?」


 あの猫は、保護してもらったはずだ。

 そんなことは、ありえないと否定する苅野の脇を、制御を失ったドローンが、落ちて行った。

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