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≫【準備OK?】ブリリアントカラーライブ 次の曲は『ラ・ラ・ライス』!!
コメは炊いた? スイッチ押した?
みんなのコメが会場に届くよ!
写真付きでSNSに投稿された、きらりとひかりの公式アカウント。
≫は? ライブ続けんの?
≫待ってました! コメは一升用意しております!
≫一升(一生)な
≫言わせるなよ。恥ずかしい。
≫俵で買ってきたぞ!! 任せろ!!
≫カレーと明太子も用意してあります! 準備万端です!!
投稿直後から、一気に盛り上がるコメント欄には、ライブを続けるのかという意見も流れているが、ファンたちの待望のコメントに流されていく。
その熱狂の中、ステージに、きらりとひかりが現れれば、また熱量は上がり、歓声が響く。
「コメの準備はできたァ?」
「今日は、ブリカラ特別仕様のカラースプレーな、かわいいコメ!」
「「せぇーーーーのっ」」
ふたりの代表曲でもある『ラ・ラ・ライス』のお決まりのセリフを叫ぶ。
「「コメ炊けェェェェエエエエエッッ!!!!」」
ふたりの声と同時に、会場にいっぱいに流れていく、色とりどりの大量の『※』の弾幕。
≫え、生放送と連動してるの? マジかよ!? これは参加せねば!!
「連動してるよーっ! コメ足りてないぞぉ!」
「もっともっと! みんなの弾幕、もっとすごいって知ってるよ?」
きらりたちが、ネットの生放送で見ている彼らに呼びかければ、もっと現れる大量コメントの弾幕。
もはや、きらりたちが見えなくなりそうな勢いだ。
「うわぁ……これ、機械壊れたりしないです?」
桜子が心配そうに、終始流れ続けるコメントを投影し続けている機械へ目をやる。
確かに、舞台装置として、用意してあった投影機ではあるが、急遽、ライブを生放送しているコメント欄と連動して、投影している状態だ。
ネットで大流行した『ラ・ラ・ライス』は、コメントととの掛け合いも含めた歌で、この大量のコメントの弾幕も、彼女たちにとってはいつもの事だ。
それはもう、世界から色が消えかけているなど忘れてしまいそうなほどの、目が痛くなるような極彩色だ。
「5分なら、なんとか? えーっと、次は、桜マークだけ投影されるようにしてェっと……うっげェ……もうこっちに偽善者共が来やがった……※弾幕に負けてるけどな!」
生放送のコメントが、会場に投影されていると聞いて、さっそくコメントに『白墨事件再来』『逃げて』などのコメントを記載しているユーザーがいるが、圧倒的な『※』も数に埋もれてしまっている。
「さ、桜子。本当にいいの……?」
スパンコールが、投影するコメントの調整をしている中、彩花は次のために準備をしている桜子に、心配そうに声をかけた。
「本当に危なくなったら、中止にするわよ。でも……アンタが、口を滑らせたせいで、これが先輩が戦ってるだけってわかっちゃってるんだから、仕方ないでしょ」
舞台に出ていないとはいえ、桜子が、アイドル用のキャラを被らず、彩花を睨む様子に、彩花も引きつった表情でしか、謝れなかった。
「というか、謝るなら、あのふたりに謝りなさいよ。多分、察してるわよ。この魔法、先輩が関係してるって」
「え……」
「じゃなきゃ、誰も協力なんてしないわよ。どう見たって、白墨事件じゃない。これじゃあ」
「……うん。ごめん。ありがとう」
「ホントよね。一生お礼言われても、言われ足りないレベルよ」
「う゛、うん……」
きらりとひかりの親は、ふたりを止めていたが、それでも、彼女たちはステージに出ると言ってくれた。
そして、桜子も。
「私のステージも含めて、約10分。これで、元に戻らなかったら、アンタの番になる前に、たぶん中止になるわ」
今の状況で、ステージに立ってもいいと言ってくれた魔法少女は、彩花も含めて、この四人だけだ。
なにより、約10分あれば、熊猫たちも、安全な避難誘導ルートを確保する。
おそらく、彩花の順番が回ってくる前に、もう一度、中止について審議され、この黒い世界のままだったら、中止になる可能性が高い。
「そしたら、自分で言うのよ。ライブの中止のこと」
「…………うん。わかった」
できる限りの時間稼ぎをしてくれている。
灯里だって、それまでに決着をつけてくれるはずだ。
だから、大丈夫。
*****
義手の利点は何か。
まずは強度だ。人間の皮膚や骨より、ずっと硬く、丈夫だ。その代わり、感覚というものはないが、破壊された時、痛みを感じないというのは、利点ともいえる。
そのどちらも、想定を上回るバケモノが目の前にいなければ、という話ではあるが。
「おいおい……いくらすると思ってるんだよ」
「うるさいな……」
また、金属の拉げた音が響く。
痛みはない。だが、背筋が引きつる感覚がする。
恐怖だ。
この7年間、自分のプライドを潰されたことへの怒りだけで、目の前のバケモノを、ひどく、醜く殺してやることしか考えてこなかった自分の心が、恐怖を理解しようとしている。
海の底へ沈んでいくように、徐々に圧倒的な力が、近づいてくる感覚。
「バケモノが……」
こんなもの、ただの災害だ。
人間なんかじゃない。
「人間のフリなんて、してんじゃねェよ」
人を守るなんて、人間染みたことしてるんじゃない。
ただただ黒い目が、俺を写し、その最期を告げようとした。
「――灯里!!!」
だが、その最期は、ひとつの声で止まった。




