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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
11話 世界に色を付ける魔法少女

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48/53

01

 長年、危険なことをしていると、理由もなく感じる嫌な予感というものがある。

 そして、それを感じた時は、素直に従っておくに限ることも、身をもって感じていた。


「っとと……」


 海馬は、先程まで自分がいた場所を横切る大きな影に、一息をつく間もなく、取り壊し中のビルの中に飛び込む。

 しかし、足を止めようとした瞬間、見えた黒い影に、すぐさま床に倒れ込んだ。


「…………」


 機械になった腕と足を掠めて行った、黒い影。

 海にいる生物を模した、黒い使い魔。白墨事件の時に現れた使い魔に似た特徴をしている。


 海馬は、身を伏せたまま、場所を移動し、外の様子が確認できる場所まで、移動する。

 その間も、黒い使い魔たちは、何度も現れていた。


「壁も関係なしかよ……」


 時折、見当違いの場所にも使い魔が現れることから、海馬の位置を見えているわけではない。だが、壁も床も関係なしに、現れる使い魔は、十分に脅威だ。


「あれか……」


 使い魔の攻撃から逃げながら、ようやく外を確認できる場所に辿り着けば、見つけた一人の少女の姿。

 ジンベイザメのような使い魔の上に乗っていて、白墨事件当時には、まだ幼かったであろう年齢の少女。当たりだ。

 あれが、白墨事件の大規模魔法を使った魔法使い。


―― 俺の仕事に、泥を塗った張本人。


「――――」


 海馬は、こちらに気付いていない灯里に銃口を向けると、迷いなく引き金を引いた。


「チッ……」


 予想していなかったわけではないが、撃った直後、灯里の周りに現れた黒い布が、銃弾を受け止めた。

 海馬は、すぐに手榴弾をふたつ外に投げ、建物の内側に飛び込めば、案の定、音もなく現れた使い魔。


「今ので、死んでるわけは…………ないな」


 手榴弾が破裂した音はしたが、うまく閃光弾の効果が出てれば、上出来だろう。

 建物の間取りを見ては、自分を追ってくる灯里を、生き埋めにする方法を考え、上に向かった。


「う゛ぅ゛……」


 落ちてきた手榴弾は、使い魔のクラゲの中で爆発したが、強い光と音だけは、外まで漏れ出してきた。

 頭が痛くなるような光が、網膜に焼き付いている。


 薄っすらとしか見えない世界の中、使い魔から聞こえる警戒音。

 海馬はどうか確認できてはいないが、精神魔法ならいいかと、魔法を使えば、先程と似た風を切る音が頬を撫でる。


「……?」

「アンチマジック弾も効かねェのかよ……そりゃもう、使い魔じゃなくて、怪魔だろ」


 恨み言と共に、何度も響く銃声に、灯里は、クラゲの使い魔の中で、眉を潜めた。

 精神魔法は使っているはずだが、海馬にその影響は感じない。

 

「精神魔法が、効いてない……?」


 ようやく形が視認できるようになってくると、こちらを撃っている海馬の姿が、見えてきた。

 顔に大きな傷があり、見える肌のほとんどが機械になっている。


「ハハッ! 精神魔法だァ? 精神魔法なんて、所詮は脳から送られる電気信号の異常! 機械で手足動かしてる俺からすりゃ、異常を検知すれば、エラーを吐くだけの無意味な行為なんだよ!」


 脳から送られる、ありえない異常な電気信号。それを、エラーと処理し、正常な電気信号のみに動作するようプログラムされていれば、脅威とされている精神魔法も脅威ではない。

 すでに、軍事開発ひとつとして、運用され始めている技術のひとつだ。


 そのプログラムを搭載しているとはいえ、正確な銃撃ができているのは、海馬の熟練の技術によるものであり、ようやく灯里を守るクラゲのベールが大きく捲れる。


「あん時のガキといい、テメェといい……俺の邪魔をしやがって!!」


 Sランクの魔法士を相手にするなら、その隙はとても小さいものだ。

 それこそ、ただの人間が戦うならば、その隙は、針に糸を通すような小さな隙だ。


 海馬は、その小さな隙を逃すことなく、灯里に向かって、引き金を引いた。


「…………おいおい、いい加減にしとけよ……?」


 確かに、銃弾は灯里を貫いた。

 だが、灯里には、()()()()()()()()()


「ガキ……」


 それどころか、灯里は、先程の海馬の言葉を考えるように、繰り返していた。


『銃創? なんで……あー、いや、中に弾が残ってるなら、取り除いてください。その子の親には、今連絡を取ってますので』

『おじさん。ダメだった……? 血は、止めたよ? 骨も、折ってなかったよ?』


 事件の後、ひどい怪我をしていた赫田を連れて、嵜沼と病院に行って、赫田はすぐに手術室に入っていった。


『いや、そうじゃない。灯里が止血をしてくれてたから、助かった。でも、少し内側の問題でな。大丈夫。さっきまでピンピンしてたからな。すぐ戻ってくる』


 嵜沼の言葉通り、赫田は、翌日にはすっかり元気になっていて、その翌日には退院した。


 当時は、気にも留めてなかった。だけど、自分を通り過ぎて行った銃弾に、ようやくあの時の言葉が理解できた。


「ヒロくん、撃ったんだ……」


 今回だけじゃない。あの時も。


「――許さない」


 ひどく冷たい言葉が反響する。

 まるで、深い海いるかのような、暗い、とても暗い白黒の世界が、広がった。

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