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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
10話 ブリリアントカラーライブ

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03

「あかりぃぃぃん……!!」


 ライブの舞台裏。

 小林から入った連絡に、灯里と熊猫は、困惑しながらも、やってくれば、スパンコールが泣き声のような声をあげながら、灯里に抱き着いてきた。


「こいつ、マジで野獣っていうか、野獣だけど、マジでこいつでいいんか!? 私だけの野獣な王子様がタイプな感じ!? あかりんの趣味ならなんも言わないけどさぁ、おすすめしない!!」

「えーっと……え?」

「知るか。つーか、先輩とダチっつーから、連れてきたんだぞ。嘘ならぶっ潰す」

「マッジッッで、理性ねェのかよ!? こちとら、あかりんと同じ神推しの神友だっての」

「ねぇ、悪いんだけど、今、そんな冗談に付き合ってる暇はないの。本題に入ってくれないかしら?」


 話が進まないと、熊猫が話を促す。


 小林からもらった事前情報では、スパンコールを認識した赫田が、すぐに切りかかったが、とある言葉に、その手を止めたという。


「黒沼さんが危険って、どういうこと?」


 『灯里が危険』それが、スパンコールの言った言葉だ。


「そのまんまの意味。あかりん、この人知ってる?」


 スパンコールが見せてきたのは、ひとりの男の写真。

 灯里は、赫田の袖を引いて、赫田にもその写真を見てもらうが、首を横に振られる。


「じゃあ、本当に知らない」

「うわぁーぉ……あかりんの交友関係全部把握してる系? マジで? あかりん、高飛びしたくなったら、相談しなよ? 手伝うから」

「熊猫さん、見たことあります?」

「どれ? って、こいつ、指名手配犯じゃない」


 熊猫の言葉に、小林もその写真を覗き込み、驚いたように眉を潜めた。


海馬 琉人(かいま りゅうと)。罪状は……なんていうのかな、テロ関係だね。嵜沼さんから、白墨事件の時にも、見かけたって話は聞いたけど」

「あー……なんか、科推が仕事依頼してたっぽいね。つか、今回も依頼してるみたいなんだけどさ。あ、これ、今の姿ね」


 さらっととんでもないことを答えるスパンコールに、小林も熊猫も表情を引きつらせるが、可能性を考えていなかったわけではない。

 白墨事件の時に、嵜沼も海馬を拘束できていたわけではなく、今回もまた関わってくる可能性については、示唆されていた。


「なんか、半分機械になってるらしいよ」


 スパンコールの言う通り、画質が荒く、正面すら向いていない写真だが、それでも確かに見える機械のような部分。

 白墨事件では、身元がはっきりしない人にも治療が行われた。その中に、海馬もいたということだろうか。

 その時に捕まえられれば良かったが、被害者の人数に、顔にまで傷がついているのなら、判別も難しかったのだろう。


「だから、科推も別の連中に依頼しようとしてたんだけど、こいつが半ば強引に脅してきたんだって」

「……科学推進委員会って、犯罪組織的なものじゃないの?」


 何度も話題に上がってくるものだから、てっきり、その人たちが、直接ドローンや銃火器を持って、テロを起こしているのかと思っていた。

 しかし、スパンコールの話では、少し違うような感じがする。


 灯里がこっそり、赫田に聞けば、赫田が答えるよりも早く、スパンコールの笑い声は響く。


「ないない! 科推なんて、ネット弁慶みたいなもんだって! 口先だけの、実務は全部、委託でチェックもできない低能連中! AIの方が、まともにチェックできるんじゃない?」

「しっぽ切りされる側だろ。テメェ……一応、法人だしな。表向きは、きれいなんだろ。捕まえられねェって騒いでるのは、それが原因だ」

「その辺は、こっちとしても、ちょっと耳が痛い話ね……」


 熊猫が困ったように、苦笑いになってしまう。


「それで、海馬が今回の件に関わってきた理由が、黒沼さんってわけ?」

「でも、その人、知らないけど……」


 半分機械の珍しい見た目なら、赫田も灯里も、さすがに覚えているはずだ。

 ふたりに直接かかわりが無くても、ふたりが数ヶ月前まで住んでいた田舎ならば、そんな見た目、すぐに話題になる。


「でも、明らかに、あかりんのことを探してた」


 ブリリアントカラーライブへの襲撃も、海馬が適当な理由をつけて、推奨したことだ。


 ブリリアントカラーライブを襲撃すれば、過去に白墨事件の発端となった、大規模魔法を使った魔法士を見つけられるかもしれないと。

 自分に大怪我を負わせた、犯人を見つけられるかもしれないという、ただそれだけの理由で。


「まぁ、青兎馬にハッキングを頼んだっぽいけど、ウチのパクリすっから、ヨユーで弾かれたっぽいっしね。マジダッサッ」


 楽し気に笑うスパンコールの手元の携帯を見つめる、黒い単眼の何か。


「い゛っ……!?」


 驚くスパンコールを尻目に、その単眼の何かは、徐々に増えていくと、その携帯を凝視している。

 慌てて、腕を振って、その単眼の何かを払おうとするスパンコールの手を掴む灯里。


「…………」

「あ、あかりん……?」


 決して、強く握られたわけではないが、背筋にイヤな感じが走っていた。

 経験上、今すぐに逃げなければいけないような、そんな危機感。


 じっと携帯を見つめる灯里は、何か得体のしれない何かのように感じられて、スパンコールも静かに息を飲む。


「見つけたら教えて」


 静かな灯里の声が聞こえたと思えば、単眼の何かは、現れた時と同じように、消えていく。


「――――」


 画面越しにしか見ていない、得体のしれないそれに、スパンコールは何を口にするべきか、迷っていたその時だ。

 元気な足音と共に、灯里の背中に飛びついたふたつの影。


「だれだれ? その人! めっちゃイケてる!!」


 きらりだった。

 派手なギャルの格好をしているスパンコールの事を見ては、目を輝かせていた。


「ぇ、あ、はぁーん……センスあんじゃん。そっちも、そのピンとか手作り? チョーイケてんじゃん」

「でしょでしょー? ひかりと一緒に作ってるんだー!」


 ライブ用ということもあるのだろうが、きらりとひかりの衣装には、たくさんの手作りのアクセサリーがつけられていた。

 それらをスパンコールが褒めれば、ふたりとも嬉しそうに表情を緩める。


「あ、そうだ。灯里ちゃんに、これ、渡しに来たんだよ」

「?」


 渡されたのは、サイリウムにつけられそうな、茶碗に盛り付けられた白米のチャーム。


「ラ・ラ・ライス用のサイリウムチャーム!」

「かわっ……! いいの? 衣装じゃないの?」

「灯里さん用に作ったんです。一番好きだって聞いたから」

「わぁぁぁぁぁ……!!」


 嬉しそうに目を輝かせている灯里に、スパンコールも少しだけ困惑していたようだが、その本当に喜んでいる様子の灯里に、徐々に表情を緩めていく。


「あと三つだよ。ちゃんと見てね」

「あ、そっか……」

「何かあったんですか?」

「ううん。ちょっとやることができちゃって……でも、録画したのは見るから……!! 間に合わなかったら、そっち絶対見るから……!!」


 本当に悲し気に答える灯里に、きらりとひかりも、残念そうに顔を見合わせるが、灯里の仕事の事を思えば、何も言えず、首を横に振った。


「大丈夫ですよ。お仕事頑張ってください」

「灯里ちゃんのところまで、聞こえるように歌うから! 大丈夫だよ!」

「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……がんばるぅ……すぐ出せるように、サイリウムにはつけとこ……」


 拗ねるような表情をしたまま、サイリウムにもらったチャームを装着する灯里に、小林も熊猫も、苦笑いを零すのだった。



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