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≫池袋周辺に警察の奴らいっぱいいる!!
写真と共にアップされたSNSのひとつの投稿。
そこには、ブリリアントカラーライブの警備のために、配置されている警察の姿と、不審車両に声をかけている姿。
この様子を見たというコメントや野次馬をしようというコメント、そこから税金の無駄遣いやライブの応援、批難など、とにかく大量のコメントと拡散がつき続けている。
その中には、最初に投稿された写真とは別のものもあり、実際に取り押さえられている写真まである。
「ありゃ……これはまた荒れそうね……」
小林が呆れながら、その投稿をチェックすれば、案の定、その投稿もまた盛り上がっているようだ。
「おい。あの車」
「え? あーあのワゴン車?」
赫田の呼びかけに、流し見ていた画面から顔を上げれば、赫田が指しているのは、ひとつのワゴン車。
企業ロゴなどはなく、何か作業をしているのか、路肩に止めて、運転手が何かの画面を見ている。
この数ヶ月、良くも悪くも注目を集めたブリリアントカラーライブには、科学推進委員会だけではない、先程の投稿者たちのような野次馬たちも多く集まる。
それらを有害、無害と振り分けて、有害であるなら、事前に取り締まる。
いくら、灯里の魔法があるとはいえ、取り締まれるものは取り締まっておく必要はある。
「少しお話よろしいですか?」
これで何台目かの車に、小林は声をかけるのだった。
*****
その頃、ライブ会場は開演を目前に控え、モニターに流れていた出演する魔法少女たちの紹介映像が消える。
不気味な黒い画面に、観客たちは、もうすぐ始まるライブに、息を飲み動きを待つ。
そして、桃色の花びらが一枚、降ってくると、空から降り立ったかのような、高らかに鳴る足音。
「あなたの心のラブリーラプラスッ☆ 桃井桜子でーすっ!!」
弾けるような声と共に、桃色の花吹雪が会場に吹き荒れ、すぐにその花吹雪が逆巻く。
「あなたの世界に彩りを。幸延彩花です」
凛と響く声と共に、たくさんの色の増えた花吹雪が空へと舞い上がっていく。
「「煌めけ! 届け! 世界を彩る一億色の花束! ブリリアントカラーライブ、開演ッ!!」」
桜子と彩花のライブの開演宣言と共に、会場に溢れる、煌びやかな極彩色の花吹雪。
「すごーいっっ!!」
サイリウムを両手に握りしめ、目を輝かせている灯里で、熊猫は何とも言えない表情で横目に見る。
灯里が行っている魔法の事を考えれば、この程度の視覚だけの魔法など、大したものではない。
魔法少女のライブなら、よくある装置による魔法だ。
「まぁ、問題が起きなければ、それが一番だものね」
一曲目が始まれば、観客と同じような反応で、サイリウムを振っている灯里に、熊猫は頬に手を当てるのだった。
その頃、SNSには、一件の動画付きの投稿がアップロードされていた。
≫ 警察が職質した車から、なんかドローンが出てきたんだけど!!
それは、ドアの開いたワゴン車と、拘束されている男、それからドローンを破壊している槍を持った男の写った動画だった。
≫ライブの演出とかじゃなくて? 白墨事件のオマージュとかじゃないの?
≫ガチに決まってるだろ。演出なら、ライブ会場の中でやるだろ。
≫ドローンが吹っ飛んでる先、ビルにぶつかってない?
≫ぶつかってるね。わりと思いっきり。これ、修繕費とか税金で出るわけ? 最悪なんだけど
≫それなー
≫拡大して見たんだけど、壊れてる? これ
≫画質荒すぎてわからん(笑)
≫てか、これって、ちょっと前に話題になってた人と同一人物じゃない? ほら、撮影中だったとかいう……
≫この動画じゃね? 動きも似てるし、その撮影も、あの桜子って魔法少女だったし、ほぼ確。
≫赫田って奴のだろ。ほら、この試合で大暴れしてる奴だよ。
「あーはいはい。それ以上は、個人情報でーす」
根倉は、度を越し始めた投稿に、キーボードを叩くと、投稿を削除し、定型文の警告文を送りつける。
「はぁ~~~~……もう少し穏便に取り締まれないのかねぇ……」
魔法管理局も、ブリリアントカラーライブに関わっているが、大きな案件としては取り扱っていない。
そのため、こうしたネットの監視業務も、根倉の仕事としては割り振られていないのだが、半分は趣味だ。
この監視業務を理由に、魔法少女のライブをリアルタイムで、職務中であっても鑑賞できる。
「ふひひ……ネットのコメントの監視業務なんて、AIで危険な単語を振り分けておけば、余裕だし? これこそ、仕事を選べる人間の特権! いやーサイコーですわ」
心底楽し気な表情で、複数の画面にライブ映像を流しながら、根倉は、背もたれにもたれかかった。
*****
自分に向けられているスマホを睨めば、大抵の人は慌てたように、短い悲鳴をあげて逃げていった。
「手は出さないでよ? お前を止められるのなんて、黒沼ちゃんくらいなんだから」
勝手に写真を撮られる上に、ネットにアップされれば、殴りたい衝動に駆られるのは理解する。
しかも、赫田に関しては、これで二度目だ。文句を言いたい気持ちもわかるが、ここで暴れられれば、小林も庇い切れない。
なにより、赫田を止められるのは、灯里くらいで、その灯里は、ライブを楽しんでいるところだ。
赫田としても、それは邪魔したくないらしく、大きな舌打ちと共に、苛立った様子で、槍を肩に乗せている。
「いやはや……まったく、扱いやすいんだか、にくいんだか……」
小林も、犯人たちを別動隊に引き渡しながら、警戒を続ける。
赫田を含めた、戦闘力の高い魔法士のおかげで、ドローンや人工怪魔は今のところ、全て押さえ込めている。
このまま行けば、ライブは中止せずに済むだろう。
「みぃーーーーっけっっ!!!! 野獣!!」
安心したのも突かぬ間、突然響いてきた声に、小林と赫田は、身構えながら、その声の方へ目を向ける。
そこには、派手なギャルな身なりをした女。
「スパンコール!?」
つい先日、灯里たちを襲ったスパンコールが立っていた。




