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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
9話 望むもの

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04

 久遠が去れば、自然と嵜沼の視線は、喧嘩を始めそうになっていた相手である苅野へ向けられる。


「待ってください! 苅野先輩は私たちを庇ってくれて――」

「はぁ……一先ず、中で話を聞くから。桃井さんも怪我を見せてください」


 殴り合いへ発展する前とはいえ、注意されることは目に見えている。なにより、よくわからないままに割り込んでしまった気まずさからも、正直苅野は久遠と同じように、この場所から離れたかったが、こちらを見る嵜沼の目に抗えなかった。


「軽い打撲だとは思うけど、ひとまずこの湿布で様子を見ようか。痛みが引かないようなら、病院で診てもらおう」


 そういって、トレーナーは桜子に湿布を貼った。

 幸い骨折などの大きなケガではなく、少し安静にしていれば問題はない。簡易的な治癒魔法でも行えれば、十分すぎるだろう。


「黒沼さんって治癒魔法使える? 使えないなら、うちのスタッフに使えるのがいるから呼ぶけど」

「えーっと……少しだけ使える気がします」


 詳しく話を聞いたことはないが、赫田がやり過ぎた相手の応急処置をしていたと言っていたし、おそらく使える。

 それならと、トレーナーはきらりとひかりのレッスンの護衛をしている、灯里に声をかけてくると部屋を後にした。


 残されたのは、桜子と彩花のふたりだけ。


「ごめんね。うちのバカ兄貴が」


 おそらく久遠が身内だからと、敷地内に入れたのだろう。

 小林だって、顔を合わせたら殴りかかるような仲だと、幸延家に評判に関わりかねないことは伝えてはいない。


「本当にね。話には聞いてたけど、ホント最悪」

「……」

「ねぇ、家にあんなやつばっかなんでしょ。なんで、魔法士になりたいわけ? アンタなら、歌歌ってた方がずっといいと思うけど」


 桜子の言う通り、彩花が魔法士になったところで、大した魔法も使えなければ、戦闘力も高が知れている。

 正直にいえば、今のように魔法士の広告塔として、音楽隊として歌っていた方がずっと役に立つ。


「…………憧れ、なんだ。子供の時から、かっこいいと思ってて」


 理由なんてほとんどない。

 物心ついた頃から、なんとなく憧れる野球選手やサッカー選手といった感覚。

 大きくなれば、自然と忘れていくような、そんな憧れ。だけど、本気でなりたいと、ずっと思い続けていた。


 まともに魔法を研鑽していたところで、魔法士として大成はしない。それどころか、魔法士になれるかも怪しい。

 だが、こうして客寄せパンダのような知名度を持っていけば、通常の魔法士とは別枠で魔法士になれる可能性が増える。


「ある意味、ズルい考えかも……」


 現実を見ろと。

 何度言われたことか。何度考えたことか。


「でも、応援してくれた人がいるんだ。どっちも頑張れって」


 私のことを初めて認めて、応援してくれた人。

 だから、私は私の夢を諦めちゃいけない。


「だったらなおさら……」

「?」

「なおさら、今回のライブは中止にすべきよ」


 もし、ライブ中に殺されてしまったら、殺されないにしろ、今後の活動に影響がある大怪我を負ってしまったら。

 彩花の本当の夢だって、不可能になってしまう。


「それはダメ」

「なんで!? 私はやめたい!! 私は女優になりたいの! 魔力なんてあったから、”魔法少女”にしかなれなかっただけ!! こんなことで死にたくない!!」


 必死に隠していた本心。

 だが、もし彩花も同じ気持ちなら、そう思い吐き出した桜子に、彩花は驚いたように目を見開き、ゆっくりと目を伏せた。


「…………ごめん。このライブだけは、中止させられないんだ」

「なんでよ……たった一回よ。魔法少女の使命なんて、周りが勝手に言ってるだけで、どうせまたいいネタを見つけたら飛びつくんだから、私たちが命を賭ける理由には――」

「灯里なの」

「……はい?」


 アイドル好きの灯里のためにライブをしたいなんて、そんなくだらない理由だとでも言うのだろうか。

 いくら仲がいいとはいえ、そんなことが命を賭ける理由になるものか。


「違う……その、白墨事件の、犯人。灯里なんだよ」


 正確に言えば、白墨事件の大規模魔法を行使した犯人だが。


 慌てて付け足された言葉に、桜子はしばらく言葉を失っていたが、バツの悪そうに視線を逸らしている彩花に、その言葉が嘘ではないことを悟ってしまった。

 ブリカラが近づくにつれて、かつての事件について何度も特集され、イヤというほど、記憶に残るあの魔法についても耳に入る。

 そして、あの魔法を使った魔法使いへの畏怖も。


「灯里は悪くないの。だから……」

「ぁ、あ、アンタそれ言っていい話!?」

「ダメなやつ!! 本当はめちゃくちゃ口止めされてる!!」

「バ――ッッ!! なんで言ってんのよ!?」

「だ、だって、桜子には言わなきゃって思って……」


 確かに、魔法士になるための、ただの過程ならこの危険すぎるライブをする必要はない。

 だけど、彩花には別の大きな意義があるのだ。それを、本当はやめたいと思っている桜子に黙っているのは、本音を口にしてくれた桜子に対して、不誠実だ。


「だ、だからその……ひとりになっても、ブリカラだけは続けるつもり……だけど、その、桜子がやめるとたぶん、中止になると思うから、その……一緒に出てほしい」


 言い辛そうに続けるが、その目には強い覚悟の宿る彩花の目に、桜子は重い息を吐きだした。


「はぁ~~~~……」


 顔を覆って、長すぎるため息をついた桜子に、彩花も困ったように視線を泳がせるが、ライブを中止にする気などは一切ないのだろう。

 相当、頑固な性格だ。


「こんなギリギリのタイミングでキャンセルなんてしたら、どんだけ損害が出ると思ってんの。私が払える額じゃないんだから、心配しなくたって平気よ」

「な、なんかそれはごめん……」

「帰りに、インスタ用フラペチーノ奢り」

「喜んで! スコーンもつけるよ!」

「……シナモンロール」


 その方が”っぽい”と、いつもの調子で訂正すれば、少しだけ強張っていた彩花の表情も少しだけ緩んだ。


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