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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
9話 望むもの

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03

 ブリリアントカラーライブは、魔法管理局の仕事の中では優先度の低い仕事だった。

 だが、世論の注目度は高く、もちろん失敗は許されない。故に、魔法士を志す学校から将来有望な魔法使いの学生を集めることにした。

 翌檜学園もそのひとつであり、学園としては重要な案件として、実力として申し分のない生徒会長である久遠を、今回の派遣の代表にした。


 もちろん、幸延家として失敗など許されない。

 むしろ、この派遣をトラブルなく終了させられたのなら、将来的にも大きなアドバンテージになる。

 故に、例えその護衛対象が気にいらない妹であっても、仕方ないと割り切る。仕事であり、任務に私情を挟むものか。


「なんで、アイツばっかり……」


 問題は、別の奴だ。

 代表になってすぐ、兄である刹那に釘を刺された。

 決して、灯里の将来を潰すようなことにはならないようにと。それは、久遠の命よりもずっと重要な事項であると。


「あんな……あんな奴が……!!」


 自分よりも上であるはずがない。

 ”Sランク”というのは、測定値の値では不可能な魔法が使用できる魔法使いに対し、つけられるランク。

 なにかタネがある。タネさえ明かされてしまえば、改めて正しいランクに振り分けられる。

 そう、まだ振り分けられていないだけだ。黒沼灯里という魔法使いは。


 精神系の魔法を使えるようだし、その類をうまく組み合わせているだけかもしれない。

 理由はわからないが、とにかく、絶対に、あんな女が自分よりも強いはずがない。


「………………」


 ふと目に入った気に入らないそれ。

 嫌というほど目につくせいで、覚えてしまっている。


「おい」


 声をかければ、そいつはあからさまに眉を潜めると、こちらに体を向けた。


「なに?」

「それが護衛してもらう側の態度かよ」

「そんなにイヤなら、しなきゃいいじゃん。別に仕事でもないんでしょ」

「仕事じゃなくても、やらなきゃいけないことがあるってわからないのかよ。頭悪いな」


 翌檜学園が派遣される大きなバイトで、生徒会会長であり、幸延家が不参加などありえない。

 目の前の、ただ笑って、手を振ればいいだけの女とは違う。


「あくまで学生バイトでしょ。灯里も赫田もいるし、別にお前ひとりいなくても平気だよ」

「――ッあのインチキ女に何ができんだッ!!」

「インチキ……? 何言ってんの……?」

「ちやほやされたくて嘘ついてるのをインチキと言わず、なんて言うんだよ!」


 驚いたように目を丸くした彩花に畳みかけるよう、声を張れば、いつもなら怒鳴り返してくる声が無かった。

 ただただ呆れたように、冷たい目で、俺を見つめる。

 それはまるで、刹那のようで腹が立った。力も何もない癖に、言葉や態度だけは一人前みたいで。


 気が付けば、彩花の服を掴んで、殴りかかっていた。


「――――」


 だが、殴って地面に倒れ込んだのは、別の人間だった。


「桜子!?」


 ブリリアントカラーライブのもう一人の主役である桃井桜子。彼女が、ふたりの間に割って入ったのだ。


「大丈夫!?」

「大丈夫なわけないでしょ」


 殴られたらしい腕を擦りながら、桜子は久遠を一瞥すると、彩花へ目をやった。


「外で喧嘩とかバカなの? 世間体とかわかってる?」


 いくら灯里が、彩花の存在を認識しにくくしているとはいえ、絶対にバレないわけではない。

 しかも、今は本人が近くにいないのだから、尚更魔法の効果は大雑把なはずだ。騒ぎを起こせば、当然周囲から目を向けられる。そうすれば、魔法少女であることだってバレるし、そこからどんどん野次馬が集まる。負の連鎖だ。

 謝り、手を差し出す彩花の手を取りながら、桜子は久遠にも目をやった。


「兄弟喧嘩に割って入ったのは悪いと思いますが、アイドルの商売道具(かお)を殴るのはやめてください」


 この女の言っていることは正しい。

 正しいが、だからと言って、この腹の奥から湧き出てくる感情を落ち着かせるには至らない。

 この振り上げた腕の行先は、ただひとつだけだ。


 直後、視界が揺れた。


「何してんだ! テメェ!!」


 痛みよりも早く感じたのは、また知らない誰かの怒号。

 どうしてこんなにも邪魔が入るのだろうか。本当に、腹が立つ。


「なにって、見てわかるだろ。世間知らずで生意気な妹に教育してんだよ」


 見れば、ふたりを庇うように立っているのは、先程の顔合わせにいた二年の男子生徒だ。


「ハ? 殴ることが? 本気で言ってんのか?」

「うるせェな。俺は年上だぞ。敬語を使えよ」

「猿同士の喧嘩に敬語もクソもねェだろ」


 話し合いで解決しそうにない久遠の様子に、苅野は先程久遠を殴ったバックを下す。

 演習外で魔法を使用して喧嘩は許されないが、状況的に仕方ない。武器だけは出さずに、拳を構えた時だ。


「随分と楽しそうだな」


 冷たく放たれた言葉が、ふたりの間を通り過ぎた。


「全く……若いのは構わないが、場所を考えて行動しろ」


 嵜沼は大きくため息をつきながら、四人の様子を一度確認すると、もう一度ため息をついた。


「幸延久遠だな。あとで話は聞かせてもらう。だから、今は家に帰れ」

「は……どうして、アンタに命令されなきゃ――」


 眉を潜めて抗議する久遠に見えるように出された、魔法管理局のID。


「家に帰れるだけマシだと思って、帰れ」

「ッッ!!」


 それ以上は言わない嵜沼に、表情を歪めたまま、久遠は舌打ちと彩花たちに背を向けた。

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