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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
8話 ライブをする理由

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04

 彩花たちは、魔法管理局内に作られたカフェテリアにいた。

 ”幸延”という名前は、魔法管理局内でもそれなりに有名で、遠巻きに彩花へ目をやる職員は多かった。


「あの部屋で待ってた方が良かったかね?」

「根倉さんの邪魔したら悪いですから」


 いくら、灯里が魔法機器を使わず魔法を使うことが多いとはいえ、ライブ当日は何が起きるかわからない。

 しっかりメンテナンスしておいてもらった方がいい。


「それより、小林さん、なんかソワソワしてません?」


 心なしか、小林がどこか周囲に注意を向けているような感じがしていた。

 灯里の魔法の圏内だとはいうが、彩花の護衛であるため、周囲を警戒するのはわかるが、ここは魔法管理局内だ。そこまで注意する必要はないように感じる。


「そりゃそうよ。彩花ちゃんのお父さんが突然現れるかもしんないのよ?」

「あぁ……そうですね」


 わざわざ顔を出すことはないと思うが、職場であるし、可能性がゼロというわけではない。

 後から許可を取ったとはいえ、次男との喧嘩で家を飛び出したこともあり、彩花も会いたいわけではない。


「……ちょっと気まずいですけど、戻ってこいとは言われないでしょうし」


 父が自分に期待していることなどない。

 むしろ、テロに負けず、ライブを成功させたら、少しは認めてくれるかもしれない。


 どちらにしろ、昼をすっかり過ぎているカフェテリアに、忙しい父が現れるはずがない。


「気まずいと思うなら、家出なんてしなければいいんだ」


 だが、予想に反してかけられた言葉に、驚いて顔を向ければ、そこにいたのは、一番上の兄である刹那(せつな)だった。

 魔法管理局で働いているわけではないが、将来的に魔法管理局の幹部となるため、大学の実習の一環として魔法管理局に出入りすることも多い。

 妹が来ているということで、気を効かせた職員が声をかけたのだろう。


 明らかに険悪な空気に、小林も目を細め、遠巻きに勘違いした目配らせをして席を外す職員に、内心では舌打ちをしていた。


「相変わらず、周りの迷惑を考えないで行動するんだな」

「そりゃ、家出したのは悪いとは思ってるけど……」


 顔を合わせれば喧嘩になる久遠とは異なり、まともに会話が成り立つ刹那に対しては、彩花も食って掛かることはなく、挨拶をすることくらいできる。


「家出だけじゃない。ライブのこともだ。わざわざ、テロの危険があるというのに、強行する必要があるか?」

「は……!? ブリカラは絶対にやらないといけないライブでしょ!」


 根本的に、あまり仲が良くないのは事実だが。


 兄弟というものが、そもそも年が近く、最も過ごす時間が長いからか、仲は良くなるか、悪くなるかのどちらかで、ちょうどいい距離感で収まることは少ない。

 彩花たちは、魔法士の才能の有無で、ハッキリと優越がついている分、それはもうひどく関係に現れてしまう。


「お前が断行派なのは知っている。そのために、警備にSランクの魔法士を呼んだんだってな。高々ライブの警備にな」

「高々って……!」

「本来、Sランクの魔法士は、要人たちの護衛、世界会議などの重要案件に派遣される存在だ。それを、娯楽のためにだけに派遣するなんて……」


 刹那の言っていることは、正論だ。

 Sランクの魔法士が、いくら大きなプロジェクトとはいえ、国内の一ライブに派遣されるなど、まずありえない。


「なにそれ……ブリカラは――――」

「”白墨事件の恐怖を払拭する”か? 白墨事件が世界にどれだけ恐怖を与えたというんだ? 本当にライブひとつで払拭できるのか?」


 ” 世界から色を無くす ”

 それは、日本だけのニュースではない。世界的なニュースになった。

 それを()()ライブひとつで解決できるはずがない。それは、ブリリアントカラーライブを企画した人ですら理解している。

 むしろ、彼らはあくまで体のいい理由を持ったエンタメを求めているだけだ。


「それどころか、このライブを失敗することによるマイナスを考えたのか?」


 だからこそ、真面目に世界平和を目指している刹那たちからすれば、的外れな正義を振りかざしているようにしか見えない。

 彼らにとって、白墨事件の解決は、犯人の逮捕でしか解決しないのだから。


「その性質上、観客たちに危険人物が紛れていても、事前に排除する手段はないにも関わらず、世間の目は多く、ひとりでも被害が出れば大きな損失になる」


 それが、尚更ライブの警備の難易度を上げていた。

 広大で数も多く、統率の取れていない観客を、ただひとりとして傷つけさせてはいけない。

 向こうは、たったひとり傷をつけるだけで、批判を浴びせることができる。

 テロ側に圧倒的に有利な状況なのだ。


「結果的に、貴重なSランクの魔法士を失う可能性だってあるんだ」

「どういうこと……?」


 ライブの警備の難しさなど、彩花だって理解している。

 だが、そこに灯里を失う要素はないように思えた。少なくとも、灯里が誰かに負けるような想像はつかない。


 その様子に、刹那は呆れたようにため息をついた。


「Sランクは将来が約束された存在だが、まだ子供だ。実績も経験も少ないのなら、失敗は往々にして存在する。

 にもかかわらず、今回の警備の要は彼女だ。つまり、ライブの失敗は、彼女の責任になる」


 誰かに負けるとか、死ぬとか、そういう物理的な問題ではない。


「お前の勝手で、将来有望な魔法士がひとり、消えるかもしれないんだ。愚策だったよ」


 大人だって、注目度の高い事案での失敗による批判を個人へ向けられたら、心を壊す。

 味方であったはずの仲間たちも、トカゲのしっぽを切るように見捨てられ、たったひとりで否定され、到底不可能な要求をされる。

 それが、Sランク魔法士であっても、むしろSランクだからこそ、過度な期待をされ、裏切られたと無責任な言葉を掛けられる。

 その結果、有望な存在が消えるとしても、彼らは気に留めることすらない。


 それは、魔法管理局として、将来の魔法士を守る立場として、絶対に許してはいけない。

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