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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
8話 ライブをする理由

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03

 灯里のブレスレット型の魔法機器をメンテナンスしてくれる人は、このブレスレットの制作者でもあり、魔法管理局の中でもトップクラスの技術者だという。


「アイドルが来るなんて聞いてない」


 ただ、性格が少し残念らしい。


 部屋に入った彩花を認識したと同時に、大きな椅子の背を盾に、その長身を隠していた。


「黒沼氏だって、魔法少女が身近過ぎるのは嫌派だったのでは? 我々のような人間とアイドルが同レベルにいちゃいけない派だったでしょ!? ヒューマンステージの相違!」

「うん」

「言ってることとやってることが合ってないんだが?」


 椅子の背から睨むような目線をやってくる男に、灯里は「そういえば……」と言った様子で彩花の方に目をやり、彩花はきれいに作った笑顔を返した。


「あっ……なるほど理解。とりま、拙者には適用されないので、出て行って頂けるとありがたいですっっ!!!!」


 必死に追い出す男に、彩花は素直に部屋の外に出ることにした。

 元々、無理についてきたのだから、向こうの言うことには従うべきだ。


 彩花たちを追い出し、平穏を取り戻した男は、ようやく大きな椅子を回し、灯里に向き直る。


「とりあえず、ブレスレット貸して。それから、このガチャをしてほしい」


 ブレスレットを受け取ると、流れるようにスマホを差し出してくる。

 そこには、水着イベントのガチャ画面が開かれていた。


「あぁ、今回根倉さんの好きなキャラの水着ですもんね」

「そう! 爆死も爆死! 天井で来たのも、別のピックアップっていう地獄! 水着は複数キャラアップされることが多いことによる弊害!! ってなわけで、黒沼氏なら物欲センサー働かないんでよろ」


 そう言って差し出されるガチャ画面をタップすれば、俗にいう確定演出が流れた。


「フォォオォオオオオォオオォォォオオオオッッッ!!」


 スマホを握りしめたまま、狂ったように踊り狂う根倉に、灯里は自分のスマホでアプリを開き、同じようにガチャを回し、その結果に椅子の背もたれに体を預けた。



「いや~~黒沼氏サイコーですわ。お礼に、なんか拙者でできることならやるけど、なにかある?」


 落ち着きを取り戻した根倉は、ブレスレットの状態を確認しながら、自分のアカウントで見事に爆死した灯里へ問いかける。


「……電波の発信源の特定方法」

「え゛」


 随分と物騒な内容に、つい手を止めてしまったがすぐに解析を再開しながら、後ろの座る灯里の方へ目をやりながら問いかける。


「いくつか方法はあるけど、理由は?」


 この年頃は、不思議と”悪いこと”に興味が湧くことが多い。

 本当に、ただの興味本位というものだ。


 気持ちはわからないわけではない。根倉自身も、評価されている技術を手に入れたきっかけはその類だ。

 だからこそ、その気持ちは否定しないが、理由は確認する必要があった。


「イヤなクラスメイトの裏垢特定して、炎上させたいとか? そういうことなら協力するけど」

「いや、そういうのじゃなくて……最近、ドローンとかロボットに襲われるから」


 科学推進委員会が行っていると考えられている事件の多くに、ドローンやロボットが関わっている。

 灯里が言うには、最初に彩花が襲われてからというもの、ドローンやロボットを操作するための電波の発信源の特定をできないかと模索しているらしい。

 だが、良い成果は得られていないという。


 科学と魔法は、水と油のように捉えられ、決して交わらないと称されることがある。

 根倉から言わせると、なんて頭が悪いとしか思えない理論だった。


 本当に、水と油だというなら、魔法機器が存在するわけがない。

 現存する技術すらも理解できないのなら、科学と魔法の見分けだってついていないのだろう。

 そんな奴らが、”数”という一点だけで常識を作り上げる。なんて滑稽なことか。

 だから、決して灯里が行おうとしていることは、おかしなことではなく、決して不可能なことではない。


「一個でも、アクセスポイント経由されると、追跡が上手くいかなくて……」

「雑魚過ぎでは? せめて、海外とかさ……」


 しかし、思った以上に初期の段階で躓いているらしい灯里に、ついため息をついてしまう。


 新しい技術の開発には、積極的に関わりたいが、あまりにも残念な状況過ぎる。


「それ、スパンコールの件? それなら、こっちでも追ってるからさ。そいつの事なら、拙者に連絡しなよ。どんだけクソログ使ってようが、特定してあげるから」

「スパンコールさんだけじゃなくても?」

「え、複数いるの? あのレベルのハッカー雇うの結構高いと思うんだけど……」


 報告では、スパンコールが科学推進委員会のドローンなどシステムのメンテナンスをしている可能性が高いとされていた。

 根倉もそのハンドルネームは聞いたことがあったし、実力だけならば認めている。


「っていうか、あの手の人間が協力すると思えないんだけど」


 自分で言うのもなんだが、キーボードのタイプひとつで、人の生死を決せる全能感というものは得難い感情であり、一度体感すれば、人生観が変わる。

 現実で、どれだけ金や権力を持っていようが、銀行に預けられている数値は簡単に消せるし、文字だけの資格だってデータを消してしまえば、一般人。名声なんてホラを吹けば、すぐに吹き飛ぶ。

 稀に、それらが全く効かない人間もいるが、それはごく一部。大抵の人間は簡単に削除できる。


 そんなお手軽神様たちが、協力しようとして協力するかと言えば、答えはノーだ。

 なんとなくムカつくで殺し合いが始まる。


「彩花ちゃんのファンなんだって」

「はい?」

「彩花ちゃんのファン。”神”って呼んでた」


 詳細な会話が報告されているはずはなく、スパンコールのその情報は知らなかったが、彩花のことを神と崇めるファンであるなら、そのスパンコールの気持ちはわかる。


「最低でも、あと一人は雇ってるな?」


 そんなファンが、彩花の命を狙うような真似をするはずがない。

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