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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
7話 白墨事件

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02

「サクラッチャオっ!! 桃色惑星からやってきた桃井桜子でーすっ☆」


 特設ステージの前はすっかり人だかりができていて、ステージの上で魔法で何かが飛んでいる下で誰かが話しているのだけはわかるが、頭がギリギリだった。

 少し身長がある彩花でギリギリなのだから、彩花より小さい灯里はジャンプしても、ほとんど見えないことだろう。

 どこか隙間でもないかと、彩花も探すが、相当人気な人なのか隙間は無さそうだ。


「……」


 ジャンプするのを諦めた灯里が、急に動きを止めると、その両脇を抱えるように親に抱えられた。

 アレなら見えそうだ。少しだけ安心して、ステージへ目をやれば、伸ばされた腕が彩花も抱えあげる。


「うわっ……! わ、私は大丈夫です!」


 なにより両手に子供を抱えるなんて大変だろうと、降りようとすれば、その人はなんてこと無さそうに笑った。


「レディを抱えて、根を上げる男はいねェさ」

「あ、ありがとうございます」


 父にもされたことのないことに、少し気恥ずかしさを感じていれば、膝を叩く手。

 この高さにある膝を叩ける手など、そうないわけで、興奮した様子で叩く灯里の方に目をやれば、それはもうキラキラとした目で、ステージで踊る彼女を指さしていた。


「桜子ちゃん!! すごくかわいい!」

「あ、うん。そうだね」


 よくわからないが、アレほどキラキラした目を否定する人はいないだろう。

 いたら、とりあえず私が殴っておこう。


 彼女の歌と踊りに合わせて、花やハート、音符がステージに飛び交う。魔法少女らしいステージだ。

 手拍子をして楽し気にしている灯里は、まさにステージに釘付けと言った様子で、先程まで興奮気味に私の膝を叩いていたことも忘れていそうだ。


「……」


 目玉のイベントのようだし、そんなものかと、彼女のステージを眺める。

 彼女のステージが終わると、一般参加型のカラオケ大会が始まり、魔法少女の恰好をした女の子たちが魔法の使えるマイクを使ってステージで歌う。

 先程のステージに比べて、随分と見劣りするステージだが、それでも灯里は楽しそうで、少しだけ胸に引っかかりを覚えた。


「……下ろしてください」

「さやかちゃん?」

「どうした?」

「私も歌う。ちゃんと見てて」


 一度降ろしてもらうと、一般参加受付と書かれた看板へ向かう。


「なんつーか……お前も、結構罪作りな女だよな」

「え!?」

「はいはい。ちゃんと彩花ちゃんのステージ見てあげような。そんで戻ってきたら、ちゃんと褒めてあげるんだぞ」

「おじさん? え、え?」


 灯里が目を白黒させている頃、彩花は受付で頭を悩ませていた。

 今でこそマジカルマイクの性能が上がり、何の曲にでも対応できるようになったが、当時のマジカルマイクはある程度、曲に制約があった。

 そもそも最近流行りの曲自体、彩花が詳しくなかったこともあり、最初の彼女のように歌って踊れそうな曲が思いつかなかった。


「あ、これ……」


 そんな中、唯一知っていたのが、クラスの合唱コンクールで歌うことになった曲だった。


 随分と少なくなった人たちの中で、灯里は相変わらず抱えられたままで、こちらを見ていた。


「――――」


 音に合わせて大きく息を吸い込み、思いっきり歌う。

 目を見開いて、すぐに目を輝かせ始めたあの子に向かって。

 マジカルマイクから出る魔法だけではなく、自分でも色とりどりのシャボン玉を生み出して、踊る。


 今まで、ここまで真面目に歌ったことはなかった気がする。

 気が付けば、手拍子が聞こえてきていて、踏み込みが軽くなった気がした。


 歌い終わると、今まで聞いたこともないほど大きな拍手に包まれた。


「すごいすごい!」

「かわいかったぁ!!」

 

 周りから聞こえる歓声と拍手に、少し気恥ずかしくなりながら、手を振ってお礼を言ってから、ステージを降りる。


「すごかったよ。君、幸延さんのところの子なんだってね。さっすがだなぁ」

「こりゃ、将来有望な魔法少女だな! 応援してるよ!」


 マジカルマイクを返す時にスタッフからかけられた言葉に、喉の奥が少しだけ締まった気がした。


「さやかちゃん! すごいね! ピカピカしててすごくきれいだった!」


 嬉しそうに駆け寄ってきた灯里の言葉を、少し素直に受け取れず、視線を逸らせば、首を傾げられた。


「ピカピカ? シャボン玉のこと? すごいでしょ。私だって、強い魔法士になるんだもん。あれくらいできるよ」


 そうだ。魔法士になるんだ。こんなところで、歌ってる場合じゃない。こんなこと望んでいない。


「歌、すごく上手だったよ。魔法少女みたいだった!」

「……魔法少女はあんまり興味ないなぁ。歌より、強くなって誰かを守りたいもん」

「そっかぁ……」


 悲しげな表情をする灯里に、大人げなかったかと、慌てるが少しだけこちらを文句ありげに見つめていた。


「魔法少女も強くてかわいいもん。リボンちゃんなんて、海を全部干上がらせようとするプロミネンス星人を倒して世界守っててね!」

「あ、うん。そうなんだ」


 リボンちゃんとやらを語りだす灯里の熱に押されていれば、すっかり慣れたようにヒロたちが抑えてくれている。

 でも、ステージの上で見たあのキラキラと輝く目と魔法少女を語る目は、すごく似ていた。


「じゃあ、強くてかわいい魔法少女になってあげる」


 そうすれば、また灯里は、そのキラキラときれいな目で私を見てくれるのだから。


 カラオケ大会の優勝者ということで、なにか特別なグッズをくれるらしいが、あとで灯里に上げようと心に決めながら、またステージに向かおうとしたその時、爆発音と共に悲鳴が響いた。

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